鍋春雨としらたきと葛切りとマロニーの違いを知らないが、俺たちはそれらを総じて「ちゅるちゅる」と呼んでいる。知らないからこそ、そう呼んでいるとも言える。
はじめて菅原さんの手料理を御馳走になったのは、春はもう少し先、といった季節の出来事だった。期末試験前に赤点回避対策を講じてやった、といって呼び出された菅原さんのアパートでのこと。各教科のポイントと過去問から解析した「テストを作るだろう先生と出やすい問題」をまとめた菅原さんオリジナル問題集を、解いてはバツをされ解いてはバツをされを繰り返すうちにすっかり夜になっていた。俺と菅原さんの腹の音が同じタイミングで鳴り響き、お互いハッとして顔を見合わせた。フルセットでやったときより俺はずっと疲弊していたし、赤ペンで丸付けをしていただけの菅原さんはなぜか息切れしていた。
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