《白蛍》牙を剥く 「それで」
湯気も立たなくなった茶を啜り、蛍の首を三周とちょっと、冷たい鱗の感触をなんとはなしに確かめる。
初めて触れた頃は力加減もわからず、恐る恐るつついてはくすぐったいからやめろと怒られていたっけ。今では遠慮がなくなった蛍の指先に心地よさそうに目を細めた蛇――もとい長生は、まるで欠伸でもするかのように大きく口を開けた。
鱗が軽くざらつく程度で見た目より滑らかに感じるのは、表面のごく薄い油膜のおかげかもしれない。とは、何度も撫でているうちに本人が、いや本蛇が教えてくれたことだ。
「あんたはいつまでこんなことしてるつもりなんだい」
「あ……うん。そう、だね」
ぬうと持ち上げられた頭と対峙する。瞳は瞬きもなくじっとこちらを覗き込んで、それはやがて睨みに変わる。それに思わず動きを止めたのは、蛍が蛙であったからではない。
3550