親愛なる─── 琥珀は喫茶店にて待ち合わせていたメリーにある物をみせていた。それは続編の【Frey】の新しいプロットでもなく、全く新しい物語のプロット、【Dear】だった。メリーは真剣な顔でプロットを見る、少しの沈黙の後、メリーは笑顔で琥珀を見た。その笑顔を見て、琥珀はまさか、と反応をする。
「相変わらず琥珀くんはいい話書くね」
「……ありがとう、その言葉が一番嬉しい。……メリーさんが大丈夫なら、その作品の作画を頼みたい」
「ん、いいよ」
メリーの返答に琥珀は安堵の息を漏らす。これで鶉に作品が渡せる、と思わず笑っていたところでメリーはふと聞いてきた。
「些細なことだけどいい?」
「なんだ?」
「いやね、フレイといい……この主人公も編み込みしてるんだなって思って」
メリーは琥珀がイメージしていた主人公像を指さして笑う、その主人公の髪型は三つ編みがあり、琥珀の作品の一つのニジゲンであるフレイも編み込みがしてあった。琥珀はメリーの些細なことに笑って理由を話した。
「……俺は、編み込みを縁を編んでいるって考えてる。俺がこうして作品を書いてるのも、そのきっかけも。そしてメリーさんに会えて……Freyが出来上がったのも全て、人との縁が編んでいるんだなって思って。……だから編み込みは俺にとっては、思い入れがあるんだ」
「……琥珀くんらしい理由だね」
この事を話したのはメリーが初めてであった。まさか話すことになるとは思わなかったが、フレイもリヒトと会えた事は二人なりの縁の編みがあるのをイメージして書いたのだ。
今回の書こうとしている作品もそうだ、これで鶉との縁が切れることなく編んでいけれたら嬉しく思っていた。話していて幸せを知らない彼に、この物語で少しでも知って貰えたら、と。
「琥珀くんの新作、Freyみたいに愛されるといいねぇ」
「……あぁ」
メリーはそういうとラフなどできたら連絡すると言ってその日は別れた。締切などは相手に合わせると言ったのだが、メリーは任せなさいな、と言った。そのメリーの表情に笑った琥珀だった。
それからどのくらいの日にちがたったのだろうか、【Dear】も最終段階へといっていた。メリーの作画は相変わらず琥珀の理想通りで、あの日のように思わず泣きそうになった。そう、そんなタイミングだった。目の前で顕現されたのだ、【Dear】の主人公が。
「あれ……ここはどこかな」
琥珀とメリーは目を見開いて、お互いを見たあとに主人公をみた。主人公はキョロキョロと辺りを見回すと、二人をみて慌てて口を開いた。
「あ、えっと……。ここはどこかな、あ! 僕の名前はディリー、ディリーっていうんだ」
「……ディリー……」
琥珀は放心したように主人公───ディリーの名前を言った。状況が分かっていないディリーにメリーと琥珀は説明した。最初は驚いていた相手だったが、すんなりと信じてくれた。
「つまり、僕を考えたのが琥珀で、僕を描いてくれたのがメリーだね! なんだか不思議な感じだなぁ」
「いや俺も驚いたな……目の前で顕現なんて。……あれ、琥珀くん泣いてる?」
「いや、えと、まさかこんな……」
泣いてしまった琥珀にメリーは優しく頭を撫でてくれた。ディリーは自分が生まれた理由が知りたく、琥珀について行くことにした。琥珀は【Dear】の最終段階のチェックをしながら理由を話す。
「……ある人に読ませたくて、ずっと考えてた。幸福を知らない、本当の笑顔のだし方すら分からない相手に。……それでお前を作った」
「なるほどねぇ、僕が琥珀とその子の架け橋になるってわけか! その子の名前を教えて?」
「……その子の名前は───」
それから幾日が過ぎて、琥珀は待ち合わせ場所についていた、待ち合わせ場所に関しては、前もって鶉に連絡をしていたため、すんなりと会えるはずと考えていた。もちろん、ディリーを連れて。ディリーはこの世界に来たばかりのため、周りの建物や人に興味津々に見ていた。そんな中、琥珀はこちらに向かってくる鶉を見つけ手を振った。
「すみません琥珀さん……! お待たせしてしまって……!」
「いや大丈夫、今来たから」
「君が鶉?」
突然声をかけたディリーに鶉は驚いた……いや、少し怯えにも見える態度をした。琥珀は慌てて【Dear】とディリーの紹介をする。
「鶉、この子はディリー。……今から鶉に渡す【Dear】の主人公」
「え……?」
「あぁ、ほら。これ」
琥珀はそういって【Dear】を渡した。鶉は恐る恐る、ゆっくりと本を受け取り、そしてディリーを見る。ディリーはまた驚かせないように鶉の目線に合わせてしゃがみ、そっと片手をとった。
「驚かせてごめんね! そう、僕がディリー! 琥珀の想いを届けに、そして君に幸福を届けにやってきたよ! 君のことは琥珀がよく話してくれたから分かるよ!」
「……僕の事を……?」
「あぁ! 僕とも仲良くしてくれると嬉しいな!」
ディリーはにっこりと笑って鶉を見た。確かに、どこか影を思わせる鶉の目、態度をディリーは感じ取った。そして琥珀の言葉を思い出す。
『……俺の作品で鶉に幸福が感じれるように、文通をしたり、話をしたり。……人からしたら些細な事かもしれない。けれど、それで───』
「君に幸福が訪れるように、僕が君たちの架け橋になる!」
ディリーは鶉に笑顔を見せ、そう言った。