眩しい決意 琥珀が戻ってきた、フレイのエガキナの地図に反応があったのだ。慌ててフレイのエガキナで現場に行くと、そこには、サクリとエリー、そして琥珀の姿があった。目立ったところに怪我をしている様子はなく、琥珀は創の顔を見て少し微笑んでいた。
創は勝手に体が動き、琥珀を抱きしめていた。突然の事でなんとか受け止める琥珀。その横で、フレイはサクリになにか言いたそうな顔をする。
「……ありがとよ、旦那の事。助けてくれて」
頭をかきながらポツリ、とフレイはサクリにそう言った。チラリ、とフレイはサクリを見たが、サクリは普段と変わらない表情で返事をすることは無かった。
今までのフレイだったらそれにムキになってやんや、と何かを言っていたが、思わず笑ってしまった。そして創の様子を見る、創は何か言いにくそうに何度か口を開きかけて、そして話した。ずっと言いたかったことを。
「……琥珀、ごめん」
「少しは分かったか」
「え?」
創が予想していた反応と違うことに思わず気の抜けた声が出た、思わず怒られると思っていたからだ。けれど、創が見た琥珀の表情は、笑っていた。琥珀はっての顎にデコピンをお見舞して話す。
「お前にとっては数時間、どのくらい時間が経ったか分からないけど。俺は三年間味わったからな、お前の言葉が本意じゃないのも分かってたから、けど、少し傷ついたかな」
「……あ。……ごめん、ほんとごめん」
「もういい、怒ってないから」
創は泣きそうな顔になりつつ、目を擦ると突然サクリの前に行った。琥珀もフレイも突然の事でお互いに顔を見合わせる。
「……今回は琥珀を助けてくれてありがとう。エリーさんも、琥珀と一緒にいてくれて、ありがとう」
「ん〜、別にいいよ。琥珀くんが無事で良かったし」
「……お前の言葉で考えさせられた、何となくだけど、琥珀がお前の事信用するのもわかった気がする」
創はサクリの事を信用しよう、と考えていた。フレイの言葉がずっと残っていたから。それに、今もこうして琥珀のことを助けてくれた。それだけで、創にとっては考えを改めていた。サクリは黙って創の言葉を聞いていた、すると創は突如、指をさし大声で言う。
「けど! もし琥珀を傷つけるようなことしたら許さないからな! ……まぁなんだ。……ありがとよ、本当に」
「……別に」
「サクリ、ありがとう。助けてくれて」
「今度は気をつけるんだな」
そういってサクリはまたエリーを小脇に抱えると外の闇へ消えていった。創は言って満足したのか、琥珀とフレイの方へ顔を向けると笑顔で二人に抱きつく。
「さて、これから報告とかあるし〜。俺らも行くか」
夜道を歩く時、創は琥珀にあるお願いをした。
「琥珀、八重さんに会うことってできるかな」
後日、創務省に琥珀と創の姿があった。琥珀は八重に何か用があるのだろうか、と思いつつ前もってアポをとっていたため、すぐに八重に会うことが出来た。
「ごめんね琥珀くん、遅れちゃった。琥珀くん大丈夫でした? 神隠しに会ったでしょう」
「いえ、すみません忙しい時に。俺はもう大丈夫なので」
琥珀と軽く話した後、八重は創の顔を見た。
「で、創くんは僕に何か用があるんだったよね」
「あぁ、で、琥珀……少し席外してもらっていいか?」
「俺は構わないけど……ロビーで待っておくから」
そういって琥珀は八重に会釈をすると部屋を出ていった。部屋には八重と創だけがお互いに顔を見合わせるように座っている。創は、八重の目を見て話し出した。
「八重さん、この前の話ですけど……」
「うん、あの話かな」
あの日、八重から指摘された事を創はずっと考えていた。琥珀が神隠しあった間も、ずっと考えていた。そして、創なりに答えが出たのだ。
「……八重さんの言う通り、俺は琥珀の事を対等に見てなかったかもしれない。俺にとっての琥珀は、やっぱり三年前で止まってて」
創の言葉を黙って聞く八重、だが、創の表情を見て何か答えを見つけたのだろう、とすぐに予測ができた。
「俺、焦ってたかもしれない。初めて琥珀に置いていかれる、って。けど、琥珀と初めて喧嘩したんだ。喧嘩して、あんなことになって……。琥珀のニジゲンのフレイにも色々言われた、言われて、俺、決めたんだ」
創は立ち上がって八重を見る、丁度外の明かりが創を照らし、綺麗な金髪と春の色と言ってもいい綺麗な緑色の目が光った。それは創の決意に応じて光ったようにも見えた。
「俺は……俺はそれでも琥珀を守りたいよ。けど、ただ守るんじゃない。……琥珀がずっとこれから守りたいって思ってるものを、今度は俺も守るんだ。琥珀と一緒に、これからも。もう三年前のように、無茶はしない。ずっと、琥珀の隣に俺はいる」
「……それが創くんの答え、ですか」
「あぁ、俺の答えだよ。八重さん」
「……」
八重は黙って席を立つ。創は頬に冷や汗が流れるのを感じてきた、また言われるのだろうか、と。けれど、もう八重に何言われても迷わない自信があった。すると、八重は創の肩をそっと叩いた。
「……うん、いいんじゃないですかね。少なくとも、あの日の答えより断然いいと思う」
「……八重さん……」
八重の表情は笑っていた、そして飲み物を持ってくるから、と八重はそっと部屋を出る。創は思わず座る、どうやら緊張していたらしく、手が震えていた。それでも、あの日の言葉より優しく聞こえた八重の声に、創は静かに泣いていた。
一方、八重が部屋を出ようと扉を開けて廊下に出た時、扉のそばに琥珀がいたのに目をやる。
「琥珀くん、ずっと聞いてたんですよね。気配で分かりましたよ」
八重が扉を閉めてから創に聞こえないように聞く。琥珀は薄らと目に涙を貯めていた。そんな様子に八重は琥珀の頭をポン、と優しく撫でる。
「いい親友じゃないですか」
「……っ、はい……」
「眩しかったですよ、創くんの言葉。大事にしないとですね、創くんのこと」
「……はい……」
琥珀は人目があるからか、ゴシゴシと目を擦っていた。琥珀にとって創の言葉、本心を聞けれて嬉しかったのだろう。八重は眩しかったな、と少し目を細めた。