あの頃と今 まだフレイ達が顕現しておらず、無免連であるサクリと臨時を組み始めた頃の話になる。家で一人、原稿を進めながらこの前買った金平糖を食べていた。スーパーなどで売っているような金平糖ではなく、ネットで話題になっていたお取り寄せの金平糖を買ったのだ。
綺麗な小瓶に詰められた色とりどりな金平糖、一粒摘んで食べながらパソコンを見る。またもう一粒、と小瓶を触ろうとした時、手が空を切る。置いていたはずなのにそこに小瓶はなかった。そして、誰かの気配を感じて横を向いて思わず驚く。そこにはいつから居たのか、サクリが小瓶から金平糖を取り出して食べていたのだ。
「あんたこういうの好きなのかよ」
「……黙って出てくるとビックリするだろ」
いつの間に居たのだろうか、臨時を組む前から自分の影から出てきては相手を驚かしていた事も多々あったが、思わずため息を吐く。そんなことはお構い無し、と言わんばかりにサクリは部屋に置かれているソファに座り、本棚にから本を取り出して読み始める。
原稿の邪魔をしなければいいか、それにしてもサクリが好きそうな本は置いてただろうか、なんて考えていると、サクリが丁度読んでいる本が自分の書いた本だと気づいた。
「……」
「なんだよ」
「……いや、別に」
読み終わったら感想を聞こうか迷ったが、恐らく相手は言わないだろうと分かりきっていたため、琥珀はそれ以上何も言わずにパソコンに向き直した。それよりも、自分の作品を読んでくれていることが嬉しかった。どう感じたかは相手次第だが、何か少しでも印象に残ってくれたら、と儚く思う。
琥珀はふと目を覚ました、目の前には執筆途中の原稿がパソコンのトップ画面に映る。どうやらうたた寝をしていたらしい、少し懐かしい夢でも見たなと思っていた。少し目をこすって考える、あの頃はフレイ達もいなかったし、創も見つかってなかった。そして、突然自分の影から出てくるサクリに驚いていた。
少し前の出来事が遠くのように思えてくる、先程見た夢も、何の変哲もない日常の一ページかもしれない。けれど、琥珀にとっては昔の自分だったら想像も出来ない一ページなのだ。
コーヒーでも淹れるか、と部屋を出てキッチンに行き、お湯を沸かす。コーヒーを淹れている時、いい香りが包むのと同時に気配を感じた。あの頃よりかは慣れたため、もう驚かない。
「いるか?」
後ろにいるであろうサクリに、琥珀は笑って聞いた。