泣きたくなるほどの気持ちに触れた ニジゲンであるジュードは、今現在住んでいるツクリテのエリーの豪邸の庭にいた。庭は季節になると綺麗な薔薇を咲かせるのだ。今は時期ではないため、茨だけなのだが、ジュードなりに手入れをしていた。手入れといっても、薔薇の手入れなどしたことがない。自分で人に聞いたり、本を読んだりして付け焼き刃の知識で手入れをしていた。せっかくの薔薇園なのだ、不慣れな自分の手入れだが、枯れないのならべつにいい。
その時、誰かの足音が聞こえる。手入れをしていた手を止め、ちらり、と目線を音のする方へ向けた。そこにいたのは、エリーの知り合いである同じツクリテである連理だった。ジュードはまた迷ったのだろうか、と思いつつ駆け寄った。
「連理」
「ジュードくん、こんにちは」
ジュードは目の前にいる連理の顔を見る、ジュードは知っていた。連理がエリーの事が好きだということに。本人から打ち明けてもらったのだ。その時の自分は、告白をしないのかと連理に言ったものだ。
作品の中のジュードは、好きな人が居たかもしれなかったのだ。これはもう亡くなった自分を創ったツクリテから話を聞いたのだが、設定の中でジュードは後に好きな人が出来たはずだった、と。作品の中では、ジュードに片想いをしていたある女の子が出ていて、結果的にジュードも好きになる、はずだった。
けれど、作品の最終話では、ジュードはその女の子からの片想いに気づくことなく、再会することもせず、そのまま死んで終わった。ジュード自身も、話を聞いて驚いたくらいだったのだ。自分にも、好きな人というものが居たかもしれなかった、ということに。
その関係からか、伝えないのか、とジュードは言ったのだ。作品内では自覚することなく、気持ちなど分からぬまま死んだ自分と違って、連理とエリーは今を生きている。気持ちを伝えられるはずでは、と。けれど、そんなジュードの言葉に連理は結果的に伝えない、と言ったのだ。
ジュードには分からなかった、なんで伝えないのか。伝えなかった、大事なツクリテと永遠の別れをしたジュードからしたら、なぜそんな選択肢をとる意味がわからなかった。
だからだろう、ジュードは勝手に体が動いて、連理の腕を掴んでいた。
「……連理、本当に伝えないのか」
「……」
勝手に言葉が出た、目の前の連理は何も言わない。ジュードの言葉の意味が分かっているのだろう。ジュードは恐らく自分は今、情けない顔をしているだろうと分かっていた。
暫くの沈黙の後、連理は口を開く。
「前も同じようなこと、今言ったように伝えないのか聞いたよね。その時はそれらしい理由並べたっけ。結局さ、……伝える勇気がないだけなんだと思う。俺は」
「……」
「ある人を大事に想ってる彼が好きなんだ」
「……ある人」
連理は笑っていた。その笑みを見た時、自分は今、酷な事を言わせたのではないか、とジュードは感じてしまった。連理の腕を掴んでいる手が勝手に震え、目を合わせるのでやっとだった。ジュードはそのある人という人物が誰なのか、いまいち分かってなかった。けど、それはつまり、連理は失恋をしているという事にならないのか、とジュードは唇を噛み締める。
「……」
「ジュードくん、そんな顔しないでよ」
「……っ」
なぜ、なぜこうもツクリテという人間は。思わず胸が締め付けられ、泣きそうになった自分に対して深呼吸をする。そんな言葉を聞いたら、もう伝えないのか、なんて言えなくなってしまった。連理自身がそれでいいと言うのなら、伝えずにエリーのそばにいるという選択肢をとるのなら、自分は、そんな二人を想って見守ることしか出来ない。
なぜ自分はニジゲンなのだろうか、もし、エリーや連理と同じようなツクリテだったら、違う選択肢があったのだろうか。
ジュードは思わず連理を優しく抱きしめた。
「わぁっ」
「……俺はエリーを想ってる連理が好きだな」
「あはは、ジュードくんありがとう」
そうやってエリーを心から想っている連理が好きになった。もちろん、エリーのことも好きだ。一人ぼっちになるはずだった自分の手を救いとってくれたから。二人共、自分にとって大事なツクリテで、幸せになって欲しくて、笑顔でいて欲しい。
笑顔でいて欲しいために、自分が出来ることをしよう、と泣きそうな目を閉じた。