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    ちょこ

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    久しぶりの再会 休日の日、游樂の所に用があった楝は、游樂の家の前で立っている人物を見つけた。その相手の顔を見てほんの少しだけ表情を変え、思い出した。昔の、まだ楝が男とも、女とも言い難い境遇だったあの頃の苦い記憶の中にある、少しだけ明るい記憶。楝の従兄弟である游樂の所へ行っていた時、その時に出会ったのだ。楝は会ったこともない相手がいる事に動揺と、どう接したらいいのか分からず、思わず相手を睨みつけてしまう。そんな楝に、相手は困り眉になりつつも、口を開いた。
    「游樂兄さんに、お世話なってた者です。守優、言います。宜しくね」
    「…………」
     守優と言った少年はそう言った。自分より少しだけ歳上だろうか、と楝は思いつつ、懐からメモ帳とペンを取り出し、ページを捲って守優に見せた。
    『楝、れんです。事情があって筆談でしか話せません。よろしくお願いします』
     楝は早くにやってきた声変わりのせいで、声を出す事を咎められていた。そのせいで声を出せれるのは、従兄弟である游樂しかいなかった。初めて会ったばかりの守優に話す事など出来るはずもなく、前もって書かれているメモを見せたのだ。
    「楝さん。よろしくね」
     守優の言葉に頷く。名前を呼ばれるのもむず痒い気がしたが、沈黙が続く。楝は特別、守優と無理にでも話す必要はないと思っていたが、相手が気を使ってしまうだろうか、と思っていた。こういう時、游樂がいたらなにか気を利かせた話でもしたのだろうか、と目をふせつつ、ふと、游樂が裏紙につかっていい、と言っていた紙があるのを見つけた。
     その紙を何枚か取った後、ペンも借りて守優の所へ持っていく。そして、楝がなにやら絵を描いた後、守優の前へ差し出し、ペンを渡した。
    「……ん?」
     守優は最初なんの事かわからなかったのか、楝を見る。楝は隅の方に【絵しりとり】とだけ書いた。一度、游樂と絵しりとりで遊んでもらったのを思い出したのだ。楝のメモを見て分かったからか、楝の描いた絵を見て少し考えたあと、何かを描き出し始めた。
    「はい、次いいよ」
     守優から紙を渡され、楝も描いていく。そして守優に渡す……。游樂以外と遊んだ事がなかった楝にとっては、当時の楝には分からなかった感情だったが、あとから思うと"楽しかった"とも言えた。
    「あれま、二人して楽しそうやね」
    「游樂兄さん」
     部屋に入ってきた游樂が、笑って二人が描いていた絵を見ていた。
    「游樂兄さんもしましょう」
     楝も肯定するかのように頷くと、游樂は笑って二人と一緒に絵しりとりをしてくれた。楝にとっては、辛いことしか無かった幼少期の中で、辛くなかった記憶でもある。
     それを思い出しつつ、楝はその相手に声をかける。
    「……守優?」
     突然声をかけられたのか、ばっと楝の方へ顔を向けた、やはりあの時の守優だった。あの頃より身長が伸びていたが、変わらないな、と楝は思った。
     守優は楝の顔をじっと見ると、すぐに分かったのか、笑顔になっていく。
    「楝くん?」
     あの頃と違って、楝"くん"と呼んでくれた守優に目をほんの少しだけ見開いてしまった。てっきり、楝"さん"と呼ばれてしまうのか、と寂しい気持ちになっていたのだが、それは心配だけで終わった。
    「楝くん変わらないね。元気だった? 髪、切ったんやね」
    「……うん。ハサミで切ったら、游樂さんから怒られて整えてもらった」
    「ハサミで……それは游樂兄さんに怒られるなぁ」
    「……うん」
     筆談で話してない事に、何も言わなさそうな守優を見て、心臓の音が煩い。声で守優と話すのが初めてだからだろう。今までの事を話した方がいいのは分かっていたが、言葉が出てこない。
    「し、守優…………。……その………。…………」
    「……游樂兄さんに会いに来たんやろ? 游樂兄さん待ってるし、ボクも久しぶりに楝くんと話したいから」
    「……そうだね、久しぶりに守優とも話したい」
    「あれま、二人とも丁度来たのね」
     玄関を開けた游樂が、二人の顔を見て笑う。三人集まったの久しぶりやね、とどこか嬉しそうな表情を見て、楝は目を細めた。
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