野良猫のよう―――猫とは気まぐれな生き物だ。
いきなり向かってきたかと思えば、何も言わずに足の間に体を丸めて収まる。そうして足を枕にして眠るときもあれば、前足をかけてぎゅっと引き寄せて、何かを要求するわけでもなく、鼻から息をふすっと吐いてそのままそこに居座るのだ。
それが本物の猫であれば、それは仕方がないと思えるけれど、この人は厳密に言えば猫ではない。いいや、厳密に言わなくとも、人と言っている時点でこの人は人間なのだ。
「……何こいつ」
何も言わずに足の間に座って寄りかかった彼女は、スマホを片手に、とても不機嫌な声を出して画面を凝視していた。
「ねえ、髪乾かして」
振り向きもせず、画面から一度も目を離さずに、同じトーンで投げかけられた言葉は、いつも同じことで、用意しておいたドライヤーを手に取って、言われるまま髪を乾かしてやる。
ちょうど髪が乾く頃にSNSのチェックが終わるようで、テーブルの上に画面を下にしてそれは置かれる。
これは、今日は寝るという合図だ。
「髪、乾いてないところないですか?」
「うん、大丈夫」
ほんの少し髪に触れて頷く彼女は、ここでようやく顔をこっちに向けてくれるのだ。
気が付いたら居座っていた野良猫のようなこの人は、転校先で出会った先輩で、しかもアパートのお隣さんで、学校で顔を合わせても外で見かけた飼い猫のように他人の振りをする。けれど、この人は毎日この家に帰ってくる。
不思議な関係だけれど、居心地が良くてこうしてくれているのなら、それも悪くない。
「何してるの?早く寝ようよ」
「今日は自分の部屋で寝てくださいよ」
「嫌だよ。あの部屋寒いんだもん」
何かと理由をつけて隣の部屋に戻らずに居座るこの人は、自分の家がありながら家を渡り歩く半野良の猫のように気ままな人だ。