賢者が元にいた世界の風習は、変わったものが多い。
魔法がない世界など、生活するにも生活のしようがない気もするが、それが当たり前なのだと、彼は少しだけ寂しそうに笑っていた。
それが、元の世界への望郷の念か、憐れみかはわからない。けれど、憂いの込められたものであることは間違いなかった。
賢者が部屋を訪ねて来たのは、夜半過ぎのことだ。眠るわけでもなく、かと言って外に出る気分にもなれずにいたところに、ちょうど良い暇潰しが自分からやって来たのだ。
「今日はバレンタインなので……」
そう言って差し出されたのは、艶やかな光沢を持つ茶色の紙に包まれた小さな小箱。丁寧にリボンまで結って一端にプレゼントであると気取った顔をしているようだった。
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