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    葛之葉雨彦と北村想楽:みぬものきよし:想楽がどら焼きをこぼす話

    ##Legenders

    葛之葉雨彦と北村想楽:みぬものきよし:想楽がどら焼きをこぼす話 差し入れられた生どら焼きはちょっとしたハンバーガー程度の厚みがある。
     山村賢の淹れた緑茶が飲み頃の温度になるのを待ってから北村想楽がどら焼きにかじりつくと、思った以上に柔らかい生地は唇に触れただけで削り取られる。想楽の舌が生クリームに到達した時には、生地のかけらが事務所のソファに落ちていた。
    「……」
    「……」
     隣に座る葛之葉雨彦との間に転がる生地は、捨てるには惜しい大きさをしている。
     想楽が素早く拾い上げて口に放ると、一連の流れをじっくりと眺めていた雨彦は口の端を吊り上げた。
    「……雨彦さん、見ないでくれるー?」
    「減るモンじゃないだろう?」
    「見ぬもの清しって言うと思うんだけどー」
    「生憎と俺は掃除屋でね」
     雨彦の手元のどら焼きはまだ包装紙が破られていなかった。和紙の手触りが心地よい包装を雨彦の指が裂くと、目視もできない細かな塵が大気に舞う。
    「見えない所には汚れがあると考えちまう性分さ」
    「――」
     想楽の手の中、残り半分になったどら焼きの断面には歯型が残る。
     食べられたどら焼きは唾液とともに食道を通り、消化液との混合物になって一部は想楽の体内に吸収され、一部は体外に排出される――中学生の時に習ったことを思い出しつつ見下ろすどら焼きは均一な焼き色を示してはいるものの、それも想楽の口に入ってしまえば変質することは知っていた。
     口の中に入ったものがどうなるのか、想楽は知識でしか知らない。
    「見えぬもの見ぬもの全て汚れかな。――そう言う雨彦さんはどうなのかなー」
    「ん?」
    「雨彦さんの見せない部分は、どんな色なのかなー?」
    「……」
    「――なんてねー」
     雨彦の呼吸より早く呟いて、想楽はどら焼きで口の中を埋める。
     これ以上の会話は致命傷になるかもしれないから、雨彦もどら焼きに噛みついた。
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