北村想楽:寿ぎは、きっとくれると知っていた:想楽の誕生日祝い。見透かす想楽の感情の話。 雨彦さんの好物は知っている。
「油揚げが入ってるメニューは、鍋焼きうどんだけだねー」
「なるほど。それじゃ、俺の注文は決まりだな」
クリスさんが考えていることも分かっている。
「クリスさん、エビ天見たからって海の話はしないでねー?」
「! 私がパナメイエビについて考えていることに、想楽は気づいていたのですね!」
プロデューサーさんも、意外と分かりやすい。
「ふふ、新しい仕事でも決まったみたいだねー」
「はい! 十一月二十八日に、ミニライブが決定しました!」
僕の誕生日にライブがあるんだから、きっとお祝いがあるってことも知っていた。
ライブ中にはソロメドレーがあって、メドレーは僕から始まる。きっとその前のMCで誕生日のお祝いをしてもらえるんだろう、とも思っていた。
そして予想通りのタイミングで、ステージの上にはケーキが登場する。
ステージの真ん中にケーキが現れた瞬間、客席が赤一色になる。
「…………」
ありがとうと言って、会場のお客さん全員に向けて手を振ろうと思っていたのに、ローソクの炎に見立てた赤がいっぱいに広がると、喉も腕も動かない。
「――北村?」
「想楽、どうしたのですか?」
雨彦さんとクリスさんの声がして、やっと声が出た。
「なんだろうねー……」
整わない、なのになんでか嬉しくて。
「分かってたはずなのに、いざこうやって――」
お腹の奥から、温かいものがこみ上げる。
「こんなに、嬉しいなんて思わなかったよー」
笑って手を振ったら、歓声が湧き起こった。
ようやく動くようになった喉が何度もありがとうを言うのを、僕は抑えられそうにもなかった。