ストレートヘアが好みだった。
なんとなく好もしく感じていたところから、大人になるにつれ具体性を持った。
結った髪が解かれて、流れるように落ちるのが良い。
指の間を滑らかに通っていくのが良い。
楽しむためなのだから、好みであるに越したことはない。
ある春の夜に、迎えたばかりの血族を葬った。
灰にならず、目を覚まさない、その体を棺に納めた。
放浪を経た襤褸のままだが、彼の旅路の末には相応しいと思った。
せめてもの、と思い、一度地に伏して汚れた顔を手で拭う。吸血鬼の滑らかな肌だ。
伸びきった髪が顔にかかるのを、そっと脇に寄せる。
血と脂と泥にごわつく癖毛の感触が、手袋越しに伝わった。
棺は凍らせて封じた。
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