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    高校生の猗窩煉
    ■現代パロディ

    #猗窩煉

    金獅子よろしく、派手なたてがみに風を受けて歩く背中が大小。学生服に包まれたその身体に、どれほどの思いが詰まっているのか知る由もない。
     ニュートラルに入れた原付きをキックで押して二人の獅子の背へ距離を詰める。二人の影をバイクの車輪で踏み、小さな獅子の肩に腕を回して引き留める。「ひっ」と息を飲む声が立つと、すかさず大きな獅子に手の甲を抓られた。「おはよう」と快活さを潜ませて、おざなりな挨拶がなされると、続いてか細い声もそれに続く。

    「杏寿郎お前、小芭内に自転車を譲ったそうだな。」
    「ああ、俺にはもう必要ないものなのでな!」
    「ふうん…。」
    「なんだ、君には立派な原付きがあるだろう?自転車ほしかったのか?」
    「要らない。」
    「じゃあなんだ、その文句ありそうな顔は。」
    「別に~。」

     この数日、駐輪場で会うことがなくなっていたのは、そもそも自転車通学から徒歩通学へと切り替えていたのだと知ったのは、杏寿郎と会わなくなってから四回目の登校日だった。中等部に居る瓜二つの弟と並んで下校する後ろ姿を見付けて合点がいった。そして今朝もこうして、二人並んで登校している。その後、毎朝杏寿郎が乗って登校していたホームセンターオリジナルブランドの無難が過ぎてダサいくらいの自転車は彼の幼馴染が使用している。この四日間抱えていた悩みが解消すると、晴れやかな心地で二人を追い抜く。

    🚲

     登校距離が8kmを越えるという条件付きで許可を得ることが出来る原付通学をしている生徒は、俺を含めて数える程度しかいない。ハンドルに引っ掛けていたハーフヘルメットを被ってベルトを調節する。先週まで杏寿郎が乗っていた自転車を、件の幼馴染が車輪止めから外しているのを横目に見る。臙脂色のママチャリが似合う者は少ない、元の持ち主である杏寿郎も似合っていなかった。華奢で色白、寡黙で静謐な雰囲気を纏った伊黒小芭内にも似合っていないし、彼と連れ立って登下校をする花も恥じらうような彼女にも似合っていない。深型のチャリカゴに二つの学生鞄を入れて、今日も二人足並みをそろえて帰路に向かっていく。自転車の鍵に付いている鈴付きのキーホルダーは、杏寿郎が弟から修学旅行の土産で貰ったと言っていた地方のゆるキャラがそのままになっている。

     原付通学を羨ましがる同級生もいるが、8kmも離れた場所に家があるんだ、ガソリン代はかかるし通学にかかる時間だって短くはない、電車やバスのアクセスが悪く仕方なしにこれに乗っているのだから、何も羨まれることなんてない。通学徒歩圏内にいる者が一番羨ましい、15分の寝坊が死活問題の俺と変わってくれ…と、自転車に跨って帰って行く生徒の姿を横目に誰に何を言われたでもないのに辟易とする。
     暗澹たる心地でハンドルを握ると、杏寿郎の持ち物であった自転車を押して先に駐輪場を出た二人を追い越す。あんなに大切にしていたダサい自転車、それからダサいキーホルダー。
     そういえば、福引きで当てて以来一度も使っていないと言って大容量のモバイルバッテリーを天元に譲っているのも見た。衣替えで引っ張りだしたアウターが、背が伸びて寸足らずになったといって義勇に譲っているのも見た。本棚に空きが目立つから処分したいと話していたな、という事は杏寿郎の部屋にあるあの豊かな蔵書も少しずつ減っていると言うことだ。誰かに譲ったんだろうか、古本屋に持ち込んだりしたのか?杏寿郎の手垢のついたものが、俺以外の他人に渡っている。

     目に付いたコンビニの駐車場へ入って、直ぐ杏寿郎の電話番号へコールする。フリック入力を覚えず、連打で入力するもどかしい文字交換など待っていられない。それに彼奴は返信をするときに全て口に出して入力するので周囲に返信の内容が駄々洩れで、それも避けたい。気の抜けたコンビニのチャイムをくぐって、冷蔵コーナーで生菓子を物色する。何度コール音が響いても応答が返ってくることはなく、きっと鞄の奥底に沈んでいるか、部屋に置きっぱなしで持ち歩いていないのだろう。
     目に付いたプリン二つとからあげを一つ、あとはクラスで美味いと評判だったアイスを三つ学生鞄に捻じ込む。帰路とは正反対の、煉獄家を目指してアクセルを回す。

     ──少しずつ身軽になった人間が、何処へ行きつくのかを知っている。だから、賞味期限の近い生菓子を手土産に、明日の約束を取り付けに行こう。
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    Haruto9000

    DONE「クー・フーリンが女性だったら」妄想。
    ※FGO第1部のみの情報で書いていたので、設定ズレなどはご容赦ください。

    【あらすじ】
    影の国での修行を終え、アルスター国に戻ってきたクー・フーリン。
    ところが、国の内情は穏やかではなかった。上王が殺され、アイルランド中が混乱しているという。
    さらに、エメル姫が、タラ王と結婚する話が持ち上がったというのだ。
    ミラーリング #11(英雄の結婚編)再会
    「上王が死んだ……?」
     クー・フーリンは、呆然と幼なじみの言葉を繰り返した。ロイグはうなずく。
    「外遊中、ブリテンの賊に襲われたんだ。噂じゃ、身内の仕業って話もあるが……いずれにせよ、上王も側近たちも殺された」
    「そんな……」
    「次期上王は息子が継ぐことで落ち着くみたいだけど、いかんせんまだ子どもだからな」
     ロイグは大きなため息をついた。
    「おかげで、今アイルランドは大混乱さ。このアルスター国も、コノート国も、マンスター国もレンスター国も。どの王も、次期上王に忠信を捧げるって言ってるけど、みんな腹の底では何を思っているやら」
    「まさか、内乱……」
    「いや、そこまではまだ」
     ロイグは首を振ったが、その表情は曇っていた。クー・フーリンはおずおずと尋ねる。
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