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    高校生の猗窩煉と世界から消えて欲しいもの
    現代パロディで二人が同級生です。

    #猗窩煉

    「世界から何かひとつ消せるとしたら、何にする?」
     クラスメートが放った突拍子もない質問に、雑談の花が咲く。
     期末テストが近付いていて、この世からテストが無くなればいいとか、あの担任が消えたらいいとか、そんな他愛もない声が続く。
    「私はブス。この世からブスが消えたら最高だと思う。」
    「美醜の判断は誰が決めるんだよ。」
    「私基準よ、そんなもの。」
    「うげ、身勝手。」
    「そんなに言う猗窩座は何よ?言ってみなさいよ。」
    「俺か…。」
    「この間喧嘩してた剣道部でも消す?」
    「じゃあ、卑怯者。心根の弱い奴。」
    「その判断だってあんた基準じゃない。」
    「勿論。」
     予鈴が鳴って、雑談の時間もお終い。操られたように、それぞれ自分の席に戻っていくのを眺めながら、彼奴なら何と答えるだろう?と、この輪の中には居ない男の姿を思っていた。彼奴が何かを、消えてしまえと願う程に執着している姿が想像出来ない。

    🏫

    「杏寿郎!」
     夕陽の差し込む校舎、長い廊下の先に眩しいほどの金髪が揺れている。三教室分は離れたその背中を引き留めたくて、他の雑音に掻き消されたくなくて、距離に比べると随分大きな声で呼び止める。俺と杏寿郎を隔てる数多の生徒が何事かと振り返るのを横目に、跳ねるように駆けて足を止めた杏寿郎の肩に腕を回す。
    「杏寿郎、今帰りか?」
    「今日は委員会もないので、もう帰るところだ。」
    「煉獄さん、その人は…?」
    「ああ…君は、会うのは初めてだったか。」
    「なんだ、後輩か?」
     杏寿郎の横に立つ少年の顔を見下ろす。内履きの靴紐を確認すると、一年生の学年色である鮮やかな萌黄色だった。杏寿郎の右手が後輩の前に差し出される。
    「一年生の竈門少年、うちの道場にも通っているんだ。」
    「竈門炭治郎です。…ええっと、」
     杏寿郎から紹介を受けた後輩が控えめに頭を下げて名乗る。まだ丸みの残る輪郭は一つしか年が変わらないと言うのに随分と幼く見える。数秒の沈黙、炭治郎の視線が杏寿郎へ向けられる。きっと、俺の名前が告げられるのを待っているのだろう。つられる形で二人で杏寿郎を見て続きを待つが、口が開かれる気配はない。
    「俺は、猗窩座。」
    「猗窩座さんですね、よろしくお願いします。」
    「お前とヨロシクするつもりはないがな。」
     そのまま三人ならんで帰路へと向かう。この世から消したいものを杏寿郎に訊ねるタイミングを失ってしまって、覚える意味もないような天気の話しなんかをしながら各々の家に向かって散っていった。
     うっすらと、こういう時に一人分の存在を透明に出来たら、と仄暗い想像が過ったが。そんな事をしたってキリがないので却下した。

    🏫🏫

    22:16
    『この世からひとつだけ消せるとしたら、何を消したい?』
     スマートフォンへ充電器を挿して、いざ眠る準備をしている最中にポン、と気の抜けた通知音とともに画面が明るくなった。級友の名前と共に表示される、突拍子もない質問に首を傾げる。先日、剣道部と大立ち回りの大乱闘を繰り広げたこの友人は、よくこうしたわざわざ訊ねる意味もないような質問を投げかけてくる。
     朝は何時に起きる?犬と猫はどちらが好き?剣道部には入らないのか?バイクの免許はとらないか?中等部にドッペルゲンガーが居るって聞いたけど本当か?今度手合わせしてみないか?
     今まで浴びた幾つかの質問を思い返しながら、再び表示されたままのメッセージを見る。世界から一つだけ消せるとしたら、何を消す?─突拍子もないし、現実的でもない。考えても現実にならないのだから、頭を悩ませても仕方がないようにも思う。返事をする気にはなれずにスマートフォンを伏せてベッドに潜り込む。

     目を瞑って眠りに落ちるのを待つ。今日学校であったたことが、寝入り端に思い返される。竈門少年と彼が挨拶をしてる横顔。昼食を食べているとき、数日前の剣道部との喧嘩が話題の中心であったこと。登校して直ぐ、一つ上の先輩から彼の連絡先を聞かれたこと。生徒指導を担当する先生が彼を探していたこと。
     皆一様に、彼の名を出して、当たり前のように俺に話しをしてきた。彼は危険だとか、乱暴者だとか、授業態度だけはいいとか、運動能力に長けているとか、喧嘩に負けたことがないとか、もうそんなことはとっくに知っているのに。皆自分だけが知っている事かのように話して来ていた。
     自分以外の誰かが呼ぶ彼の名前がこだまして寝入りの邪魔をする。彼の名前を口にするのが、俺だけであればいいのに、と仄暗い想像が過り、もう瞑っている目蓋を更にきつく合わせた。

    🏫🏫🏫

    22:16
    『この世からひとつだけ消せるとしたら、何を消したい?』

    0:03
    『猗窩座』 既読

    0:03 着信
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