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    酔っ払いの猗窩煉
    ■現代パロディ、同棲
    煉獄くんがれろれろです。

    #猗窩煉

    五徳の油汚れを浮かせるため洗剤に浸け置きをする。その間に、キッチンの照明と壁を拭き、使い捨てのクロスに目には見えなかった汚れが手形のように付着するのを確認して、日々の掃除を苦に思わない性格で良かったと、改めて思う。綺麗好きであった父の影響だろう、たった一人の肉親の育て方に感謝しながら、洗剤浸けの五徳をスポンジで丁寧に洗う。
     留守番の夜は、決まって込み入った掃除をして恋人の帰りを待つ。職場の付き合い、友人たちと会食、後輩の相談を受けたり、家族と過ごす時間を大切にしていたり、とにかく、掃除をする時間がたっぷりあるのもこの部屋が綺麗に保たれている理由かもしれない。
     キッチン掃除の締めに、シンクの水気を全てクロスで拭き取る。入居当時のような輝きを取り戻したキッチンに清々しい心地になって一息吐く。部屋が綺麗だと、気分も良い。そう言い聞かせてエプロンで手の水気を拭う。
     スマートフォンを手に取って、今日は友人のプロポーズ決起集会だ!と意気揚々に出て行った恋人からの連絡がないか確認する。通知を示す数字は幾らかあれど、どれも恋人からのものではない。開く気にもならずにエプロンのポケットに落とす。日付けが変わるまでは幾らか時間があるが、友人と集まった日は、帰らないことも多いので今日もきっと誰かの部屋に流れるのだろうと想像して息を吐く。

     そのまま眠るのも嫌で、戻って来ないのならとことん綺麗にしてやろうと、腕捲りをしながらトイレ掃除に着手する。ウォシュレット付きの便座の電源コードを抜き、取り外す。年に一度の大掃除でくらいしかしないような、手の込んだ清掃をしよう。一見塵ひとつないように見える場所も、探すと埃は幾らでも見付けられるもので、無心になって照明や壁、床や配線回りをクロスで拭う。
     便所を舐めれるくらい綺麗にしろ、と横暴と理不尽さの表現として聞いたことのある台詞が頭の中に浮かんで、今だったら舐められるかもしれないと、綺麗に拭いた便座を取り付ける。充足感に自然と口角が上がり、長時間屈んだままだった腰が凝り固まっていた事に漸く意識が向く。よほど集中していたのだろう、だから、物音に気が付かなかった。

    「おっ、先客か!」
    「へぁ!?…っ、杏寿郎!」
     軋む腰に手を当てて反らす、至極無防備なところに背後の扉が勢いよく開かれた。冷え切った外気を一身に纏ったまま、ほんのりと冬の匂いを連れて来た恋人がそこに立っていた。真っ赤に紅潮している顔は、外の寒さのせいだけではないだろう、幾ら平熱が高く寒さに強い恋人といえどコートもジャケットも脱いで小脇に抱えている説明が付かない。明らかに深く酔っぱらっているその風体に言葉も出ず、真ん丸く開いた目で見詰める。
    「奇遇だな、俺もトイレに用があるんだ。」
     ただいま、よりも先に呂律の怪しい調子で何かを言っている恋人がコートとジャケットを床に落とす。今にも鼻歌を奏でそうなほど機嫌よく緩んだ顔を俯かせ、自由になった両手でベルトをいじくり回している。半分以上眠っているのかもしれない、伏せた目蓋はほとんどくっ付いてしまっていて、ベルト穴から金具を抜けずにもたついている。さっき何て言った?トイレに用事があると言ったか?
    「まてまてまて、今出る、待てるな?」
    「あっはっは、お構いなく。」
     要領を得ない返事と共に、二人で入るには明らかに狭い個室に躊躇なく踏み込んでくる。漸くベルトを寛げスラックスを膝下まで落した恋人は、冬の匂いを連れて来たと思っていたがアルコールの香りしかせず、知らない煙草の匂いと混ざり居酒屋のようなこもった匂いがした。
     酩酊するほど酒を飲むのは珍しく、それほど楽しかったのだろうと想像すると、良かったなと思う気持ち半分俺を置いて、と濁った感情が渦巻く。余計な事を口走る前にと、その横を通り過ぎて脱ぎ散らかしたままの上着たちを回収する。トイレの扉を締めて立ち去ろうとした俺の腕が掴まれる。
    「俺を置いていくのか。」
     指先まで逆上せたように熱い手に捕らえられ、立ち止まる。拾い上げたばかりの上着を落としてしまって、高鳴る鼓動と同時に、床掃除をしていてよかったと何処か冷静な自分が考えている。

    「どこいくんだ、ここいて。」
    「ずっと一緒に居るって、いったじゃないか。」
    「かわいい恋人をひとりにする気か。」
     スラックスを落とした間抜けな格好をした恋人が、覚束ない舌を回して好き勝手言っている。何時もの溌剌とした表情は息を潜め、迷子になった子供のように俺の腕に縋りついて離さない。あかざ、あかざ、と繰り返し名前を呼ぶ声がリビングや寝室よりもずっと狭い個室に反響し、まるでベッドの中で聞いているような密やかさすらある。

    「飲みすぎだぞ、杏寿郎!」
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