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    鬼の猗窩煉と急雷の少年
    ■鬼化if

    #猗窩煉

    月のない静かな宵闇を、電光石火の剣技が走る。
     宵闇に溶ける漆黒の稲妻が駆け抜けていき、空を切り裂く雷鳴のような音が響く。耳の奥で騒がしくその余韻を残したまま、再び新月の暗闇が世界を包む。左の肩から脇腹へ抜けてその刃を受けた鬼殺の隊士は、自身の肌身が稲妻状にひび割れて崩れていく事に気が付く間も与えられずに倒れていく。静寂の中、夜風が草地を揺らす音と命を散らした塊が崩れ落ちる音が立つ。

    「ほら見ろ、上弦には呼吸を扱う鬼が居ると言うのは本当だったろう?」
    「あれは日輪刀か?人の打った刀が、血鬼術に堪えられるとは思えないが…何にせよ、素晴らしい剣技だ。良く鍛錬されている。」
     慰めるように肌を撫でる穏やかな風に乗って、異なる声音が二つ混ざり合うように届く。笑っているように、歌うように、軽やかで楽し気な話し声だ。地に伏せる肉塊から放たれる血と死肉の匂いは風下に流れ、風上から聞こえる二つの声に、汚れのついた刀を振って血飛沫を土へ還しながら、風下に一人立った鬼、獪岳が振り返る。間合い以上の距離を保ったままでありながら、気を抜くと足が竦んでしまうような威圧感を帯びる二つの影に目を凝らす。
    「どうだ、彼奴は知り合いか?」
    「急雷の少年!見たところ君は、雷の呼吸の使い手だな?さっきの型は初めて見た、今一度見せて欲しい!」
    「……。」
     矢継ぎ早に繰り出される声に面食らう。並び立つ二つの気配は紛れもなく鬼のそれだった、鬼同士がつるんでいる事は珍しい。それに、片方の気配には覚えがある、上弦の参だ。無限城で邂逅した際は馴れ合いを好まないといった調子の男が、数字も刻まれていない鬼を侍らせている。それも、仕えているといった雰囲気はない、額面通り肩を並べて立っている。返事もせずに立っていると、至極親しげに見慣れぬ鬼が上弦の参の肩に肘をついて顔を寄せ、耳打ちをしている。幾らか潜めた声量でも、この穏やかな夜風に乗って言葉の全てが流れてくる。見慣れぬ鬼だ、目が覚めるような鮮やかな金糸の髪は、月夜に在っても陽光を集めて束ねたような忌々しい眩しさを携えている。
    「雷の呼吸の使い手は稲妻のように素早いぞ、さっきの型も目で追うのが難儀なほどだった。しかし、柱になれる程成熟されてはいないように思う。君にはどう見える?」
    「目で追えないというのは買い被り過ぎだろう。杏寿郎、お前にも全て見えていたはずだ。」
    「外道に堕ちたとて、下級の隊士には負けてはいられないからな。」
    「お前は鬼に成ってまでもそうやって人間の基準でしかものを見られないな。」
    「…どうして数字もない弱い鬼を連れ歩くんだ?上弦の参ともあろうお方が。」
     良く口の回る可笑しな鬼は数字も刻まれていない下級の鬼だ、数字を刻まれた、ましてや上弦の鬼が連れ歩くにはあまりにも不釣り合いだと思った。風上に声を届けるように、二人が重ねる言葉を遮る目的で発した言葉を言い終えるやいなや、直ぐに後悔をする破目になる。
     草木も眠るような新月の、心穏やかな夜だ。足元には若く喰い甲斐のある肉があり、夜明けまではじゅうぶんに時間もある、腹くちくなるまで食べていられるはずだった。地に根が張ったように動けないのは、四つの鋭い眼光を一身に受けているからだ。全身から汗が噴き出して、死から遠のいた鬼の身を得てなお、こうして鬼に恐怖を与えられるのかと既視感のある不快な汗の冷たさに辟易する。夜明けまでたっぷりと時間がある事が、これほどまでに憎く思う夜は鬼に成ってから初めての事だった。

    「さあ、さっきの型をもう一度見せてくれ!俺に一撃でも喰らわせられたら、そこの肉を食う時間をくれてやろう。」
    「入れ替わりの血戦じゃない、気楽にやるといい。鬼同士だ、死なずに朝まで楽しめる。」
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