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    酔っ払いと猗窩煉󠄁
    ■現パロ
    ■酔っ払いがいっぱい喋ります

    #猗窩煉

     月に一度か二度、それもあるかないか、そんな確率で恋人と休日が重なる事がある。明日が、その何よりも大切な休日だ。

     今夜は、花も恥じらう金曜日。

     カウンターが中心の狭い店舗。雰囲気作りに失敗して、薄暗い店内。洒落こましたBGMを流していた時期を過ぎ、今では店主の気に入りの懐メロが控えめに流れているこの廃れたバーレストランが、妙に自分も恋人も気に入っていた。
     二人揃っての休日を控え、気に入りの店で待ち合わせ。会議が長引き、予定の電車に乗り遅れたとメッセージが来てから早十数分、そろそろ到着する頃合いだろうと恋人の姿を思い浮かべて気持ちを落ち着かせる。

     自分と恋人の暮らす場所から徒歩圏内、肩肘張らずに気が向いたら立ち寄れる上に、おつまみの他に食事もそれなりのものが出て来る。絶妙にダサく、格好付け切れていない店主もまた好感が持てた。
     普段はあまり外食をしない恋人も、ここは共通の友人の部屋へ遊びに行くような感覚で足を運べる気軽さがある。恋人の好きな店だ、俺だって、憎からず思っている。

    「カクテルなんてジュースじゃん。」
    「酒の味しないのに飲む理由なくね?」

     横並びに、ひと席空けて座った男が誰に言うでもなく捲し立てている。俺に言っているのか、それともカウンターの向こうで苦笑いを浮かべている初老の店主に言っているのかは分からない。この店には、他に客がいないので、もしかしたら俺に言っているのかもしれない。
    「お兄さんジュース飲んで楽しい?」
    「俺は酔える位の強い酒しかいらねえんだよなぁ、俺って酒強いタイプじゃん?なかなか酔えなくてさ~。」
     ウィスキーで満たされたグラスを揺らして、からからと氷を鳴らしながら、俺の手元に置かれグラスに下卑た目線を寄越している。細長いグラスは、ついさっきカウンターの向こうにいる萎びた初老の弱虫店主が俺のオーダーで作ったジントニックだ。

     愛して止まない恋人と二人揃っての休日を控え、気に入りの店で待ち合わせ。合流前からケチを付ける訳にはいかない。テーブルに乗せた手は無意識に強く握り込んでいて、太い筋が浮かんでいる。
    「お兄さんもたまには美味しいお酒飲みなよ。」
    「ジュースじゃさあ、格好付かないじゃん?」
    「練習に付き合ってあげるよ。なんならどう、飲み比べとかしちゃう?」
     勝てるわけないか、ごめんごめん!と長い独り言の声量が高まり、強く握りこんだ拳の中で今夜の為に切り揃えた爪が肌に食い込む。センスのない萎びた初老の草臥れ弱虫店主が、情けなく眉を下げて目配せをしてくる。申し訳なさそうにカウンターから見えるか見えないか、ぎりぎりの位置で手を合わせ謝罪の格好だけを取っている。

    「俺より飲めたら、奢ってやってもいいかなって思ったんだけどなぁ。」
    「なんだ、楽しそうな話しをしているな。」
     格好付けて選んだら音が小さかったんだ、と笑って話していたドアチャイムがいつの間にか鳴っていたことにも気が付かなかった。家を出る前からこの声を聞くことばかり考えていた、夜であっても晴れやかな、良く通る声が店内を駆け抜ける。
     強く握って硬くなった拳に、自分よりも少しだけ大きな手のひらが重なる。筋の浮かんだ手の甲も、力が入って白んだ爪も覆い隠され、温かな恋人の体温に氷が溶けるように手指の力が抜ける。

    「俺が、お相手をしよう。」
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