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    @20kmtg

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    桃寿郎と夢の男
    ■桃と杏のつもりで書きました

     夢でだけ会う、不思議な男のひとがいる。

    *

    「お化け…?」
    「守護霊?」
    「もしかして、悪い幽霊ですか?」

     目の前に立つ、自分とよく似た男性。
     父さんにもよく似ている、祖父にもよく似ている。

     煉獄家の男児はみな、特徴的な髪を持って産まれてくる。
     目が覚めるような鮮やかな金髪で、どういうわけか毛先にだけ赤色が混じる。
     自分たちの家系以外で見た事はない、とてもとても不思議な髪色だ。

    「こんにちは。」
    「また貴方の夢だ!」
    「ちょっと久し振りな気がする!」

     自分とよく似た男性は、自分とよく似た髪をしていた。
     時代錯誤な服を着て、地下足袋、腰には刀を帯刀している。
     羽織っている炎の意匠が施された外套は、家の蔵に大事に仕舞ってあるものと同じものだ。

    「もしかして、ご先祖様ですか?」
    「俺のお爺ちゃんの、お父さんですか?それとももっと前?」
    「うちの家系は侍だったって、祖父が言ってました。」
    「お侍さんなんですか?」

     こうして夢の中に度々姿を現しては、にこにこと微笑んで見詰めてくる。
     俺の問いかけには一切答えてくれず、それどころか、そこにただ居るだけで何かしようという気配はない。
     じっと見詰めてくる眼差しは、太陽のような暖かさがある。

    「この前、家系図を見せてもらいました!」
    「もしかして、千寿郎さんですか?」
    「大正時代のひとなんですか。」

     一方的に投げかける言葉に、返事はない。
     父に強請って開いた家系図を辿ると、自分の名前、父の名前、祖父の名前の上に、煉獄千寿郎と書いてあった。
     歴代男児の多い家系であることが分かっただけで、なんだか楽しい気持ちになったことも、夢の中で会うゴセンゾさまに伝えておこう。

     その日は朝稽古に熱中しすぎて、気を失うようにして道場の床に伏せてしまった。
     何週間かぶりに、ゴセンゾさまが夢のなかに出て来た。
     場面は、まさに朝から稽古に明け暮れた家の道場。
     毎朝ぴかぴかに水拭きをしている床に大の字になって寝そべっていると、頭の上にゴセンゾさまが立っていた。

    「よく鍛錬しているようで、感心!」
    「はいっ!」

     ゴセンゾさまの頭の高さから床に転がる俺まで届けばいいはずの距離に、対岸に届けるようなはっきりとした声量が響く。
     びっくりして投げ出したままの手足が跳ねて、ぴかぴかの床を軽く叩く。
     いつもの夢と同じ、太陽の笑顔が俺の真上で輝いている。

    「これからも励むように!」
    「ありがとうございます、頑張ります!」

     稽古の最中に気を失って眠り転げた俺に、いち早く父が気が付いて叩き起こされた。
     頭は打ってないか、無理はするな、と心配してくれる父の顔は青ざめているが、ゴセンゾさまの笑顔は父の笑顔に似ている気がした。
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