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    orb_di_nero

    ぬばたま(@orb_di_nero)の小ネタ置き場。
    大体取り留めもない会話文のみ。

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    orb_di_nero

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    記憶喪失話占視点。力尽きて急に終わる

    ##占傭

    誰にも言ったことはないけれど、僕はこの荘園に来る前にとある人に飼われていたことがある。
    飼われていたと言っても、別に奴隷ような扱いを受けたりはしなかった。念の為に言っておくけれど、性的なアレソレもない。ただ、どこの馬の骨かも分からない僕に無償で寝る場所と食べ物をくれて、それから言葉を交わしたりした。それだけの、優しい関係だ。





    その人と出会った時、僕は一切の記憶を失っていた。
    天眼の力を失った僕を疎ましく思った彼女の家の者に殴られ、路地裏にまるでゴミのように捨てられていたのだ。
    何も持たない僕を自らの家へと持ち帰ったその人は、医者を呼び薬を貰い、そして寝床や食事まで用意してくれた。
    優しい人だと言うと怒ったような顔をするその人は、イーライ・クラークと名乗った。「似合わん名前だろう」と苦笑気味に言われてしまった時は、どんな顔をしたらいいか分からなかった。
    彼は良い人だ。記憶のない僕を拾い、こうして置いてくれている。
    彼は良い人だ。僕が彼の意に沿わないことをやっても、決して手を上げたりはしない。
    彼は良い人だ。僕が「ありがとう」と言うと、ほんの少しだけ笑ってくれる。
    けれど、彼は善い人ではない。人を殺し、そして日々の糧を得ている。そんな彼が『今の名前』として、聖職者の名を背負っている。その皮肉に表情を曇らせると、彼は口元を歪めて笑った。自嘲めいたその笑みは、あまり好きではなかった。
    ……それでも。

    「そうだろ。お前は簡単に人を信用しすぎだ。メシだって、俺が持ってきたモンを何も疑わずに食うだろ。大体、」
    「イーライ、もしかして心配してくれてるの?」

    やはり彼は良い人だった。僕をこうして心配してくれているのだから。

    「違う」
    「安心して。僕は君から貰ったものだからこそ、何でもおいしく食べてるんだ」
    「だからちが……はぁ、もういい。――イーライ・クラークは、俺よりお前の方が余程似合いそうだな」

    溜め息をついた彼は、それでも僕を許容した。日々を過ごしていく中で彼に対する感情は着実に芽生えて育っていった。

    「ねぇイーライ」
    「なんだよ」
    「寒くないかい?」
    「お前が居るから春先に比べたら幾分かマシだな。冬が来る前にもうちょっと上等な上掛けが欲しいが」

    そして僕の腕が治る頃、季節は変わり、外は徐々に寒くなってきていた。狭いベッドと寒さを理由にすれば、身体をくっつけてもイーライは怒らなかった。その温かさが嬉しくて思わず「ずっと君と、居れたらいいのに」と言葉が零れてしまう。
    そんな僕の言葉に、もぞりとイーライの背中が動いた。ジッとその背中を見つめると、溜め息とと共に呆れたような声が聞こえてくる。

    「お前が全部思い出して、殴られて腕の骨折られるような面倒事を全部片付けて、それでも俺と一緒がいいってんなら考えてやるよ」

    その言葉は、何も持たない僕にとって何物にも替え難い宝物のような言葉だった。仕事で家を空けると言う度に遠回しに離れることを勧めてくる彼からの、未来の約束。
    信じられない気持ちで「本当に?」と問えば、苦笑とともに本当だと返ってくる。

    「――約束だよ、イーライ」
    「分かったから寄ってくるな、狭い」

    嬉しくて嬉しくて彼に抱き付いてしまったけれど、イーライは僕を引き剥がすようなことはしなかった。
    次の日から、僕は自分の記憶を求めて彷徨った。彼に拾われた場所、人の多い通り。彼に言われた聖職者らしいという言葉から、教会にも赴いた。
    彷徨うと言っても、イーライの部屋からそんなに離れたところには行かなかった。日が落ちきってしまうまでにはあの部屋に戻って、いつも通り温かいお茶を淹れて彼を出迎える。それが僕も好きだったし、イーライも表情を和らげてそれを受け入れてくれていた。
    約束を果たさなくても、彼は必ずここに戻ってくる。ここに居さえすれば、ずっと一緒にいられる。記憶を探しながら、そんな風に思っている自分も確かに居た。
    けれど彼は、僕を置いて危険な場所に行くと言った。戻ってこられないかもしれない程の、危険な場所。
    今まで一度だって手を上げられたことは無いのに、止めるなら僕を殴ってでも行くと、彼は真面目にそう言った。それから、いつものように表情を緩めて「欲しいものがあるなら買ってやる」だなんて、まるで子供を宥めるみたいに言ってくる。
    そんな風に言うなら、駄々をこねてやる。そう思ってそんなイーライの足元にしゃがみこむと、相手はおかしそうに笑った。

    「……笑わないでよ」
    「犬みたいだなと思って」
    「犬だったら可愛がってくれる?」

    半分くらいは本気で聞いてみたけれど、イーライは軽く笑うばかりだった。

    「何言ってんだよ、バーカ。……そんで、何が欲しい?」
    「……いや、いいよ。自分の欲しいものは自分で手に入れなくちゃ」

    僕が欲しいものなんて、たったひとつしかない。
    彼の膝に頭を預けて、ジッと見上げてる。最近のイーライはこの視線に弱いのか、じわりとその耳が赤くなるのが分かった。やがて誤魔化すように僕の頭に向かって手が伸びてくる。人を殺しているのだと言う割に、その手付きは柔らかくて優しかった。

    ――転機が訪れたのは、その三日後だった。

    今日も手掛かりを探そうと
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    MOURNING記憶喪失話占視点。力尽きて急に終わる誰にも言ったことはないけれど、僕はこの荘園に来る前にとある人に飼われていたことがある。
    飼われていたと言っても、別に奴隷ような扱いを受けたりはしなかった。念の為に言っておくけれど、性的なアレソレもない。ただ、どこの馬の骨かも分からない僕に無償で寝る場所と食べ物をくれて、それから言葉を交わしたりした。それだけの、優しい関係だ。





    その人と出会った時、僕は一切の記憶を失っていた。
    天眼の力を失った僕を疎ましく思った彼女の家の者に殴られ、路地裏にまるでゴミのように捨てられていたのだ。
    何も持たない僕を自らの家へと持ち帰ったその人は、医者を呼び薬を貰い、そして寝床や食事まで用意してくれた。
    優しい人だと言うと怒ったような顔をするその人は、イーライ・クラークと名乗った。「似合わん名前だろう」と苦笑気味に言われてしまった時は、どんな顔をしたらいいか分からなかった。
    彼は良い人だ。記憶のない僕を拾い、こうして置いてくれている。
    彼は良い人だ。僕が彼の意に沿わないことをやっても、決して手を上げたりはしない。
    彼は良い人だ。僕が「ありがとう」と言うと、ほんの少しだけ笑ってくれる。
    けれど、彼は善 2167

    orb_di_nero

    TRAININGお題「絶交」な会話文。眠気に負けるな。イソップ大活躍。「っ、どうして分かってくれないんだ!もうナワーブなんか知らない!君とは絶交だ!!」
    「……あっそ。分かった」
    「えっ」
    「じゃあ俺は部屋に戻る。悪かったな、“クラーク”」





    「…………はぁ」
    「あれ、イライさん?珍しいですね」
    「あ、イソップくん。こんばんは」
    「……こんばんは。こんな時間に一人で食堂にいるなんて、どうしたんです?」
    「そうだね……ちょっと色々あって」
    「へぇ、そうなんですか」
    「…………」
    「…………」
    「……聞かないのかい?」
    「聞くタイプに見えますか?」
    「いやそれは……見えないけど」
    「じゃあそういうことです。僕はお茶を淹れに来ただけなので」
    「そっか……」
    「…………」
    「…………あのさ」
    「なんですか」
    「ちょっと聞いてほしいんだけれど」
    「そっちが聞いてほしいんじゃないですか。なら最初からはっきりそう言えばいいのに」
    「はは……うん、そうだね……」
    「何ガチ凹みしてるんですか」
    「うん……いや、ちょっと思うところがあって……」
    「…………はぁ。お茶が入るまでですよ」
    「え?」
    「お茶が入るまで、話を聞いてあげます。ただし、建設的な意見とかは求めない 2276

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    MEMOバイン卿とクラークさんのハロウィン小話(会話文のみ)「バイン卿、言われた通りフロッツの焼き菓子とホーインズのチョコレートを三十程買ってきましたよ」
    「ありがとう、クラーク」
    「こんなに沢山食べるんですか?」
    「いや、これはハロウィン用だ」
    「ハロウィン用……?貴方のところに子供が来るのですか?」
    「いや、今から訪ねに行く。あまり治安がよろしくないから、付いてくるつもりなら財布はここに置いていくといい」
    「もしかして、ストリートチルドレンのところに?」
    「ああ。彼らは優秀な私の情報屋だからね。たまには仕事抜きの交流もしなくては」
    「……優秀、ですか」
    「ックク……」
    「バイン卿」
    「クラーク、子供相手に嫉妬なんかするもんじゃない」
    「……別に、そんなことは」
    「そういうのはそのへの字口を直してから言うんだな」
    「む……」
    「さ、行こうかクラーク。今日は忙しいぞ。情報屋たちのご機嫌を伺ったら、次は君の番だ。欲しいものを考えておきたまえ」
    「え?」
    「何を不思議そうな顔をしてるんだ。今日は君の誕生日でもあるだろう」
    「あっ、はい。勿論それは、……そうなんですけど。まさか貴方が祝ってくれるとは思ってなくて」
    「君は“優秀な”私の助手だ。祝うに決 911