5.光芒(キーワード:手を伸ばす、白昼夢、天使のような)
二人が結ばれてから、三度目の春が巡ってきた。
物理的な距離に妨げられての交際は、それでもまずまず順調に進展しているらしい。ただし時折、感情や思惑の行き違いが発生しているようだが。
――例えば、本日も。
「もうっ! 起きてください!」
はばたき駅から徒歩五分ほどの高級ホテル、五階の客室にて。
角を突き出し、カンカンに怒っている美奈子の前で、彼女の恋人は大の字になり、眠りこけている。
御影 小次郎。故郷に戻り、家業を継ぐ予定の若き御曹司は、普段ならば長い髪に整った目鼻立ち、長身痩躯とあって、どこぞの国の王子様かと見間違うほど立派な青年なのだが。しかし今ベッドの上で手足を投げ出し、ぽかんと間抜けに口を開けて爆睡しているその姿を見れば、彼を支持する乙女たちの、百年の恋も冷めるかもしれなかった。
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