continued【オル相】 相澤くんは私の隣でうつ伏せ寝の状態からがばりと勢い良く起き上がった。数度の瞬きの間に周囲を見回し、服を着ていない自分と、腰から下は布団に隠れているので外に出ている部分が同じく裸の私を見て、べしょりとそのままベッドに落ちた。
「……おはよう」
「おはよう……ございます」
「記憶ある?」
「……いえ」
だろうな、とは思った。私が返答の代わりに漏らした息の深さに相澤くんは半分だけこちらに向けた顔の中、むっつりと唇をへの字に曲げる。全く可愛らしい顔だ。
「怒らないの?」
「何をですか」
「寮なのにえっちなことした、って」
「……どうせ俺が強引にあんたを押し倒しでもしたんでしょう」
相澤くんには前科がある。お酒を飲むと記憶が飛ぶ彼は、酔うと割と素直になる。つまり、普段は職場や学校で交際のこの字も出さずに接している私に対して即座に恋人モードになってしまうのだ。
正直普段の相澤くんより酔った相澤くんの方が愛情表現が豊かでえっちなことにも積極的で、それはそれでとても好ましいのだけれど、私としては翌朝記憶のない人に対して、いくら同意があるとはいえども性行為に至るのは及び腰だ。
でも、酔った相澤くんは強引で拗ね気味なのにちょっとでも私が嫌がると我慢するような素振りを見せるからいじらしくて可愛くて、ついつい。
そんなわけで昨夜も私のいない飲み会を途中で抜け出したのか部屋に押しかけられて、お約束みたいな押し問答の末にこんな朝を迎えている。
「君にも息抜きが必要だからさ。飲むと大体次の日の朝私の隣で自己嫌悪に陥っているなぁとは思うけど」
「……そうですね」
「別に呆れてるわけじゃないよ。酔った君の方饒舌だし」
「忘れてください」
「忘れるも何も。私が昨夜の君のことを捏造して話したって君は真偽を確かめる術がないだろ?覚えてないんだから」
「そらそうですが」
「私が君をどれだけ愛してるか囁いた言葉も全部君の中から消えてしまっているのは少しさみしいけれどね」
「……」
相澤くんはますます眉間の皺を深くした。
「怖いんですよ」
「何が?」
「……俺には過ぎた幸せに聞こえるんで、忘れてるくらいが丁度いいです」
「わあ。それはいけない。なら再放送だ」
私は芝居がかった口調のまま相澤くんを仰向けに裏返しその上に覆い被さった。逃げられないよう腕と膝で左右を塞ぎ、まんまるに見開いた目を真上から見下ろして微笑む。
「酔いは覚めたろう?」
相澤くんは僅かに反論しかけ、そして何も言わずに唇を噤んだ。なにしろ、寮ではそういうことをしない、という良識に基づいた二人の間の暗黙の了解は昨夜相澤くんによって破壊されたばかりなのだから。
どの口が、と自分でも思っているらしい表情もまた可愛らしい。もし、それでもルールを持ち出そうとしたって私は君を責めることなく言いくるめる自信はあるんだけど。
「君はお酒の勢いなんか借りなくてもいつだって私を求めていいし、私は君にいつだって愛を囁きたいし、心のどこかに留めておいて欲しいと思うよ」
「……なら、いい、ですか」
君は覚えてないから知らないと思うけど、酔った君も昨夜同じ台詞で私を誘ったんだ。
だから私も同じ台詞と同じ仕草で返す。
「勿論さ」
アルコールのにおいのしない唇に触れて。するりと首に腕が回る、その手つきの既視感。
さあ、昨夜の続きを、始めから。