夜半過ぎ【オル相】 こんなところで寝たら風邪を引きますよ、なんてベタベタなセリフが喉から出かけたところで相澤はふと動きを止めた。
身じろぎのせいで僅かに捲れ上がったシャツとズボンの間には肌が見えている。誰も彼もが通りかかる共有スペースのソファでおそらくは本人にも寝落ちた自覚もないであろううたた寝をしているオールマイトは、一体何故こんな底冷えのする深夜にこんなところに一人でいるのだろうか。
外から帰って来た相澤の口から下は捕縛布がマフラー代わりになって比較的温かいけれど、呼気がたちのぼり水分が当たって冷やされた頬はまだ感覚が鈍い。人は通るけれど、こんな時間には誰も通らない。深夜の、壁掛け時計の秒針がこちこちと時を刻むだけの静寂の中、空調が効いているとはいえ、羽織るものもなく眠るのは良くない。
喉から出かけた声は未だそこに留まり続けている。決して血色が良いとは言えない、肌艶も良いとは言えない、オールマイトの腹の皮膚をじっと見下ろし手を伸ばした。知らず撓めた指は一本だけを真っ直ぐに伸ばしてその肌に触れようとする。
しかし、指は止まった。
オールマイトの肌が相澤の指を感じる寸前の位置で。
臍を、落ち窪んでいく皮膚の境目を撫でる真似をした。
(いつも、この人は)
『ほら相澤くん。おへそのところまで入っちゃったよ』
そんなわけがあるか、と思う。
でもオールマイトのそれは直線の長さなら相澤の臍の裏に届いてもおかしくはないサイズだから、そんなことを言われながら臍の下を軽く押されてそこにオールマイトが「居る」ことを理解させられた瞬間に身体中の血が煮え滾り、はしたなく喘ぎ声を上げて感じ入ってしまう。そんな風に仕込まれた体で、オールマイトの臍をしげしげと眺める。
(俺がこの人に突っ込んでも絶対臍までは届かねえな)
予定もなにもないけれど、相澤はそんなことを取り留めもなく考えながら、オールマイトの肌には触れないまま、一本伸ばした人差し指で臍からつうっと見えている肌の代わりに空気を撫でた。
(押したら、鳴くのかな)
開発されていなければ気持ち良いとは思わないだろう。
そこはただの下腹だ。
皮の薄い、唇でろくにつまむこともできない、脂のない体の。
じっとオールマイトを覗き込みながら動かない相澤の下で、オールマイトが金色の睫毛を震わせた。
「……ん?あれ、相澤くん。帰ってたの。おかえり」
「ただいま戻りました、オールマイトさん。こんなところで寝たら風邪を引きますよ」
「うん。なんとなく君を待ってたらいつの間にか寝ちゃって……くしゅん!」
身を震わせるようなことはなかったけれど、微妙に鼻を啜ったオールマイトが起き上がるのを見守る。シャツは重力に従って、オールマイトの肌は布の向こうへ消えてしまった。
「ちゃんとベッドで寝てください」
「うん……」
まだしっかりと覚醒していないオールマイトは後ろから相澤に抱き付いて何やらむにゃらむにゃらと呪文を唱えている。
相澤はその全てを適当に聞き流し、黙ってオールマイトの部屋へ進むと、抱き枕を所望する手に逆らわずすっぽりと腕の中に収まった。
今夜は何もしないから、大きな手を取って臍の下に当てた。じわりと疼く何かを察してなどいないだろうに、シャツの内側でオールマイトの指は、相澤の臍を無意識にくるりくるりと指でなぞってやがて寝落ちた。
同じことがしてみたかったが、この体勢では無理だった。