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    ankounabeuktk

    @ankounabeuktk

    あんこうです。オル相を投げて行く場所

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    ティラミス食べるざわと見守るオールマイトというリクにもとづき。

    謎時空、強いて言うならヴィジですかね。

    マッチメイカー【オル相】 ティラミスとコーヒーゼリーパフェ。くれぐれも私服で。
     それが符牒だった。
     女性客が多いがビジネスマンを敬遠しているわけでもない喫茶店の奥まった席で相澤は行儀悪く足を組み、テーブルの上に運ばれたケーキには目もくれず黙ってコーヒーカップに口をつけた。
     平日の昼下がりだというのに席は店内の半分程埋まっている。話に興じる若い女性と、イヤホンをつけて机いっぱいにノートと本を広げる学生が主なターゲット層らしい。男性客はと言えば、相澤のひとつ隣の席で小型のノートパソコンを肩を縮めながら一生懸命タイピングしているスーツ姿のビジネスマンが一人。注文したはいいが飲まれる気配のないカフェオレからはもう湯気が消えて久しい。
    「……」
     相澤は壁の時計を見た。白とベージュの中間のような色合いに文字盤の代わりに黒い線が刻んであるだけのシンプルなものだ。
     約束の時間を五分過ぎている。
    「この書類を渡して欲しい人がいる」と馴染みの警察官である塚内から預かった茶封筒は相澤の右のソファの上に置いたままだ。諜報活動の真似事でもさせたいんですかと問えば、塚内は軽く笑ってどちらかと言うとお節介オバさんだなと答えた。
     読み取れない真意に相澤が眉を顰めても、固く考えないで三十分待って来なかったら帰っていいと言われたので素直に指定されたカフェの指定された席で指定されたメニューを注文して座っているのだが。
     玄関を眺めて、客がやってくるたび不躾にならない程度に視線で探る。だが、おそらくその誰もが探し人ではないのだろう。
     彼女たちは相澤に一瞥もくれない。
     塚内が提示した待機時間まであと十分。
     コーヒーも飲み過ぎればカップの中身が見えなくなるからな、と半分程度で止めておく。代わりに飲み干したお冷やを店員が注ぎに来た。
     カランカラン、とドアベルが鳴る。
     視線を遣ると、随分と背の高い男がドアを潜るようにして入って来た。キョロキョロと店内を見回している仕草と、明らかに急いで走って来たであろう忙しなく動く胸と肩。
     男は、店の隅からじっと見つめる相澤に気付いてパッと顔を輝かせた。
    「待ち合わせです」
     案内しようとした店員にそう断り、浮かれた顔を隠さない男が相澤の真向かいに長い手足を折り畳み窮屈そうに腰を下ろす。
    「いらっしゃいませ。ご注文がお決まりになりましたら……」
    「コーヒーゼリーパフェください」
     お冷やをテーブルに置いた店員が定型文を口にして去る前に男はニコニコと微笑んで注文を告げる。
    「コーヒーゼリーパフェひとつですね。かしこまりました」
     店員が去ってから相澤はテーブルの上に落としていた視線を上げて男を真正面から見た。
    「……これを」
     渡せば用は済む。
     さっさと頼まれごとを終わらせて帰ろうと半ば腰を上げて差し出した封筒を男は受け取らず、代わりにお冷やのコップを両手で持った。
    「そんなに急がなくてもいいと思うよ。ケーキも食べてないじゃない」
    「あなたになら直接渡せばいいのに、なんで塚内さんはわざわざこんな回りくどいやり方を?」
     目の前の男は八木俊典と言う。オールマイト事務所の秘書をしている一般人だ。相澤は以前、この男を塚内本人から紹介された。それからこの街で事件があるたび、時々事件現場で見かけて会釈をする程度の顔見知りである。
     どうやら塚内のなんらかの企みに巻き込まれたらしいことを悟って相澤はソファに腰を下ろし直した。
     テーブルの上になおざりに投げ出された封筒に今の相澤の心情が現れている。
    「私、ずっとこの店でコーヒーゼリーパフェ食べてみたかったんだけど、一人だと入りづらくてさ」
    「はあ」
    「ってことを塚内くんに言ったら、じゃあ相手がいればいいんだな?って」
    「……書類はオマケで俺はあなたのスイーツ相手にわざわざ呼び出されたってわけですか?」
    「書類が必要なのは本当で、スイーツがオマケ。でも本命は、私の向かいに君が座ってることかな」
    「は?」
    「お待たせしました、コーヒーゼリーパフェです」
    「わあ!美味しそう!」
     女子みたいにはしゃいだ八木はいそいそとスプーンを持って早速クリームとコーヒーゼリーを掬い目をキラキラと輝かせている。
    「イレ……えっと、名前聞いてもいい?」
     街中に私服でいる時にヒーロー名を呼ばない配慮に溜息を吐き、相澤は隣の隣のサラリーマンには聞こえないくらいの声を出した。
    「相澤消太です」
    「しょうたくん」
    「何でいきなり名前呼びなんですか」
    「じゃあ相澤くん」
     覚えたての名前に無邪気に喜びながらコーヒーゼリーパフェを頬張る姿に、この意味不明の状況の毒気が少しずつ抜かれて行く。
    「君もそのティラミス食べなよ。あ、足りない?コーヒーお代わりする?」
    「塚内さんにツケていいなら」
     勿論そんなことをするつもりはないのだけれど、ここにいない仕掛け人にどうしても意趣返しをしたくてそう毒付くと、八木はお願いしたのは私だから私が払うよ、と笑った。
     追加のコーヒーが来る前に冷めた半分を一気に飲み干し、スプーンでティラミスの角を削ぎ落とす。
    「美味しいねえ」
    「……そうですね」
     甘ったるいクリームとほろ苦い粉が口の中で混ざり合う。
    「正直に話すね。騙すみたいに呼び出してごめん。私、君の連絡先知らなかったから塚内くんに協力してもらったんだ。君のこと、もっと知りたくなったから」
     二口目のスプーンを口に入れたまま、返答に窮する相澤を八木は優しい眼差しで見つめている。
     塚内はお節介オバさんではなく仲人だったのだ。


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