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    ankounabeuktk

    @ankounabeuktk

    あんこうです。オル相を投げて行く場所

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    付き合ってない。
    恋は合理性から最も遠いところにある。

    恋と合理性の話【オル相】 合理的ってのは、筋道に他者も自分も納得するだけの理由があって、無駄がないってことだと思っている。
     完璧主義かよとかじゃあロボットと同じじゃないかと言われることもあるけれどそういうことじゃない。
     ロボットだって筋道を立てて命令してやらないと、決められたルートしか通らないだろうに。
     最短じゃなくていい。最善でさえあればいい。
     回り道も見方によっちゃ必要な時すらある。
     だからって。
    「他のヒーローの到着を待たずに敵をひとりでふん縛って活動時間を浪費するのは合理的って言わねえんですよ」
    「遅刻したことは怒らないのかい」
    「これまでのことを省みたらいかがです。俺が怒って遅刻しなくなったんですか、あんた」
    「見放された気配がした!!」
     悪事を見ると本能的に飛び出してしまうような人なのだ。それはわかる。ヒーローオールマイトはいつでもどこでも駆けつけてピンチを救ってくれる。
     とんだ便利屋だ。
     オールマイトさんは俺の前で形ばかりは反省の色を込めてしゅんとしていたのに、怒りの焦点をずらしたのがわかった途端もぞもぞと落ち着かなく尻を動かして慌て始めた。
    「平和を守りたい、ご立派な志です。あんたにはその力がある。その力を後進の指導へと注ぐと決めて何ヶ月経ちましたか?あんたにはリミットがある。朝も早よから効率を無視した突貫作業でその限りある力を無駄に消費したのでは?」
    「……確かに君の言うとおりだ。他のヒーローの到着を待つべきだった」
    「なら」
    「でも、困っている人がいるのを見過ごすことはできないよ」
     ピキ、と自分でも目の横に青筋が走ったのがわかる。しかしオールマイトさんはこの言い分に関して引くつもりはないらしい。こちらを見つめる眼差しの強さにそれが見て取れるから、俺は溜息と共に話し合いを放棄した。
     それこそ、時間の無駄だ。
    「なら今すぐ辞表をお出しになってあんたの本当の居場所に戻ってください、どうぞ。生徒の限りある授業時間を蔑ろにしてヒーロー活動を優先するのならここにいてもらわなくて結構です」
    「相澤くん」
     二足の草鞋など無理な話だ。校長もオールマイトさんも後進の指導のためとそれっぽく言ってはいるが、この人が緑谷を特別視しているのはあからさまだ。ならば指導に専念するのかと思いきや授業には何回注意してもヒーロー活動優先で遅れてくる。
     こんなに苛立つ理由なんかひとつしかない。
     この人が非合理の塊だからだ。
    「ヘイマイフレンド、言い過ぎだぜ」
     軽口めいた口調でマイクが肩を組んで来る。茶化して場を引き取ろうという魂胆に見せかけて、その辺でやめとけよと言う本気の忠告だとわかる。
     中休みの職員室は休憩中の職員の他、出入りする生徒の姿がないわけでもない。ナンバーワンがアングラヒーローに説教されているという衝撃的な光景は刺激が強かろう。
    「言い過ぎ?俺が何を言ったところでこの人は聞く耳なんか持ってないだろ。ならこれはただの独り言だ」
     俺はマイクの腕を持ち上げて外すと、チャイムの二分前であることを壁の時計で確認してから出席簿と教科書を持った。
    「マイクくん、すまない。私が至らないせいで」
    「至らない前提で教壇に立たせてんです、間違った胡座掻かんでください」
     マイクへの謝罪に割り込んだ俺が二人の間を割って歩き出す。
    「何あいつ。生理か?」
    「ちょっとマイク、今はそんな発言もアウトよ」
    「姐さんに言われたくないっすよ」
    「えっ相澤くんって生理あるの?」
     オールマイトさんの素っ頓狂な質問にマイクとミッドナイトが揃って笑うのを振り返って睨み付けたが全く効果はなかった。
     扉を開けて廊下に出る。
     休み時間の残りが少ない賑やかで慌ただしい生徒たちの脇を歩いて教室へ向かった。やがて後ろから体躯の大きな男の足音が距離を縮めてぐんぐん近付いてくる。
    「相澤くん、すまない」
    「それは何への謝罪なんです?あんたが遅刻して迷惑をかけるのは俺にじゃなくて生徒達にでしょう」
    「最終的にはそうだけれど、でも今の私の指導役は君なのだから、君にだって謝罪をするのが筋だろう」
     どうせそんなことを言ったって、明日も人助けをして遅刻をするくせに。
     でも本当は、学校のことを優先できないあんたを怒る自分の中に、人助けを優先するあんたをなによりも「らしい」と思う自分がいるのが腹立たしくて苦しい。
     俺は思ったよりも拗らせている。
    「明日こそ!私が始業前に学校に来る!」
    「何言ってるんです。毎日に決まってるでしょう」
    「うっ」
    「何故言いよどむんです?」
    「……毎日始業前に来るよ」
     声の小ささに思わず笑ってしまった。守れない可能性のある約束をしたがらないこの人は本当にわかりやすい。
    「でも、重い荷物をお持ちのご婦人が困っていたら手を差し伸べるのはヒーローとしての責務だろう?」
    「重い荷物を持った老人に手を貸すのはヒーローじゃなくて人として当然のことでしょう。履き違えないでください」
     ぽかんとしたオールマイトさんを後ろの扉の前に置き去りにする。
     オールマイトの間抜け面なんか滅多に見られるもんじゃない。気分を良くした俺は浮かれ気分で教室の前のドアに近付いた。
     珍しい表情に浮き足立つなんて、こんな感情のために使うエネルギーが勿体無い。俺はロボットになりたいわけじゃないが、無駄は徹底的に排除したい。だけど排除したいのに消えてくれないこの感情はオールマイトさんのせいだ。
     俺の考え方とは対極的にいるあの人は非合理のトップにいて、非合理ってのはつまり誰より人間らしいってことでもあるのだが。
     後ろから入ればいいのにわざわざオールマイトさんは俺の後ろにちょこんと立った。
    「相澤くん、今度ご飯に行かない?」
    「行きません」
     にべもなく断ればオールマイトさんはますます鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。誘いに乗らなかった相手はいないとでも言いたげな表情なのかは知らない。
    「誘う相手が違うでしょう」
    「君で間違いないのに?」
    「……なら口説くタイミングをお間違えですよ」
    「いつならいいんだい」
     チャイムが鳴った。
    「少なくとも、今じゃないですね」
     よしんば、本当にオールマイトさんが俺を食事に誘いたかったとして。それに迷いなく飛び付けるほど図太い神経をしている自負はない。
     ドアを開けて教室に足を踏み入れる。オールマイトさんから見えない俺の表情筋がどんな仕事をしていたのか、俺は知る由もなかった。
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