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    ankounabeuktk

    @ankounabeuktk

    あんこうです。オル相を投げて行く場所

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    ankounabeuktk

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    リハビリ。
    初めての大喧嘩、というお題だったはずなのに

    その未来、あります【オル相】 基本的に、私と相澤くんは考え方が違う。ひとつの事象に対するアプローチも解決の着地点も、似通ったところもあれば全く受け入れ難い部分もあり、しかしながら我々は大人なので意見を擦り合わせたり、今回は譲ったり或いは譲られたりして着地点を探る。
     私が彼に怒られる時はほぼ間違いなく私が悪い。だから平謝りするしかないし、次は気をつけると約束をして、話せないことは誤魔化すしかない。彼は誤魔化されていることに気付きながらそれをスルーしてくれる。彼の優しさに甘えていると同時に、彼が決してそれを昇華できているはずがないこともわかっている。
     いつか歪みは取り返しのつかないくらいに膨らんで、ある日突然この関係に終止符が打たれるのだと私は漠然と恐れていた。
     恐れたところで何もできない。
     彼を信用していないわけじゃない。
     でも。巻き込みたくない。
     何もかもが自分のわがままだ、といじけたところで解決策が降ってくるわけでもない。
    「ごめん、遅くなって」
     マンションに彼を呼びつけておいて予定時刻に戻れなかった私が見たのは、テーブルの上に几帳面に並べられた缶と随分と酒を飲んだらしい相澤くんの赤ら顔だった。
    「……お疲れ様です。今夜はどんな敵を捕まえてきたんです」
    「あ、いや、今日は」
     酔った彼はふらりとソファから立ち上がり私の元へやって来る。冷蔵庫に食べられそうなものを作っておいたけれど、見る限りそれが消費された気配はない。
    「君、空きっ腹に飲んでたの?それじゃあ酔っ」
    「……化粧品の匂いがします」
     私の胸の辺りに額を押し付けて項垂れた相澤くんの小さな指摘に私は咄嗟に弁解を始めた。
    「ち、違うよ!これは途中で具合が悪くなったご婦人を運ぼうとして」
    「……別に疑っちゃいませんよ」
    「でも、嫌だろう?シャワーを浴びてくるよ」
    「構いやしません。さっさとやることやりましょう。でないとあんたまた、すぐにいなくなる」
    「今夜はもうどこにも行かないよ」
     相澤くんは私の返答を否定するように首を左右に振り、手首を掴んで寝室へ向かおうとする。
    「遅れてごめん」
    「人助けをしたあんたが俺との約束に遅れることをいちいち謝らんでいいです」
    「でも」
    「慣れました」
    「それは」
    「……いいから、早よ抱いてください」
    「相澤くん」
    「俺との約束反故にしても人助けを優先してるあんたが好きなんだ。仕事と私とどっちが大事なのなんて馬鹿みたいな質問する女のようなこと言わせないでください」
    「……君には私をなじる権利があるよ?」
     寝室の前まで来ても相澤くんは躊躇う様子もなくドアを開けた。空調の整った室内はきっと服を脱いでも肌寒さを感じることはない。
    「なじったところで何が解決するんです?俺は助けを求める人を見捨てて俺との約束を守ろうとするあんたなんかいない世界で生きてるんでね」
    「君はとことん男前だな」
    「惚れ直しましたか?いいですよ、いくらでも」
    「うわあ酔ってる」
    「酒を飲みました。酔うのは当たり前でしょう」
     相澤くんはさっさとベッドに大の字に寝転んだ。まだベッドの横でもじもじとしている私をじっと見つめてさっさと来いと眉間に皺を寄せる。
     これから愛し合おうと言う人のする表情ではないよな、と思いながら私は取り敢えずネクタイを外した。
    「足枷になる気はないですが、生きる理由のひとつくらいにはなりたいとは思ってますよ」
    「君にとっての私も?」
     ワイシャツを着たままベッドに膝を乗せる。真上から覆い被さってくちづけの手前で降下を止めてじっと目を見た。酒精に潤んだあやふやな視線がそれでも、じっと私を見ている。
    「……さあ。どうでしょう」
     はぐらかした答えは、彼の些細な復讐だった。
     筒抜けに思える、信じたい、そうあって欲しい私の願いを霧の中に覆い隠して笑う彼の強さに私は今夜も甘えることしかできない。
     きっと私達は一生馬鹿みたいな理由で喧嘩をすることなんかないのだろう。
     例えば、楽しみにしていたプリンを食べてしまって平謝りするとか。例えば、趣味の合わない贈り物をされて事前に相談しろとこっぴどく怒られたりとか。
    「何笑ってんです」
    「いや。君と喧嘩をする未来が見えなくてあれこれ想像したんだけど。全部私が怒られてるんだ」
    「喧嘩したいんですか?」
    「ちょっと憧れはある」
    「喧嘩したら、こんなことしたくなくなりますよ。それでも?」
     ちゅ、と下から唇を押し付けて相澤くんの体はまたベッドに沈んだ。
    「……それは困る」
     相澤くんがわがままの罪悪感を曖昧に溶かしてくれるから、私はその唇を追いかけて夜を始めた。
     始めることが、彼への誠意だと信じた。
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