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    ankounabeuktk

    @ankounabeuktk

    あんこうです。オル相を投げて行く場所

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    現役オールマイトが若ざわに一目惚れする話、のリクでしたが、少し視点を変えて。

    ダブルスコア【オル相】「そういや、あんたって一体いつから俺のこと……好きだったんです?」
     そう問い掛けてくる相澤の顔は赤い。質問のせいではなく、食事と共に胃袋に収まったワインのせいだろう。特に止めもしなかったら、いつの間にか手酌の瓶を逆さまにしても最後の一滴がグラスにぽとりと落ちるところまでになっている。
     そこまで酔っても好きと簡単に口にはできない相澤の奥ゆかしさをオールマイトは愛していて、だけどそんな質問をしてくるくらいには今日の相澤は機嫌が良いらしい。もしくは甘えたがっているのか。
     どちらにせよ嬉しいことだ。
    「いつからだと思う?」
     上機嫌で返したオールマイトを相澤はギュッと睨み付けた。
    「質問に質問で返さんでください」
    「怒らないで」
    「じゃあ素直に答えればいいでしょう。それとも、答えられないんですか」
     顎の下に手のひらを当て、相澤はむぅと唇を突き出してむくれている。酔いに任せた仕草は誇張されていてどこか幼い。平素の冷静な姿とは違うのがまた楽しかった。
    「当ててみてよ」
     オールマイトは笑った。酔っ払いに優しく差し出した挑戦状を相澤は目を細めて受け取って、んん、と唸る。
    「新学期の頃ですか」
    「もっと前」
    「なら雄英赴任挨拶の頃ですか?大した接点なんかなかったでしょう」
     確かに、赴任挨拶の時オールマイトと相澤は二人きりで話すような時間はなかった。そんなので恋が始まるものかときょとんとした相澤をオールマイトは穏やかに微笑みながら眺めている。ここから先は、少し怯えさせてしまうような気がして。
    「……もっと前だよ」
     静かに呟かれたそれに相澤は黙って眉を寄せた。記憶を辿っているのだ。自分とオールマイトの接点を探して困惑している。
    「もっと前って」
     そこまで独りごちて黙り込む。テーブルのすっかりと食べ尽くして空になった皿の上を彷徨い、はっと不意に視線が持ち上がった。
    「──俺が鳴羽田にいた頃?」
    「言ったら怒られてしまうから言わない」
    「そんなの聞いて黙ってられると思います?」
    「怒らない?」
    「内容次第です」
    「明確に君への恋情を自覚したのは鳴羽田の頃。誰にも言ったこともないけれど」
     オールマイトの言葉選びに相澤が訝る。
    「確かに俺とあんたが知り合ったのはあの頃ですけど……どこに惚れる要素があったのかわかりません」
    「違和感が名前を得ただけさ。始まりをと君が問うなら、それは更にもっと前の話だもの」
     食後のコーヒーの入ったマグを口に運び、オールマイトは裏を読み取らせない綺麗な笑みを湛えている。相澤は、酔いに任せた自分の質問が開けてはいけない扉に手をかけたのだと悟ったし、抑え込める好奇心でもなかった。
     目の前の男が自分に執着したきっかけを知りたいと。
     きっと酔っていなければ深く追求することもなかったろうに、こんなにも餌をぶら下げられたら食い付かずにはいられない。
    「いつ、から」
     頭の中で目紛しく過去が走り抜けていく。八木俊典をオールマイトと知らず接していたあの頃より前に、オールマイトとの接点はどこにもなかったはずだと相澤の表情にみるみる疑問符が浮かんで来る。
    「……私がまだ、オールマイトだった頃」
     強調された名は今の細い体躯からは想像もつかない筋骨隆々の逞しい肉体を保持していた男を指す。今の目の前で組み合わされる指は破壊力抜群のパンチを繰り出す拳からは掛け離れた、細く長い相澤を翻弄する悪い男の指だ。
    「そして君がイレイザーヘッドって名前を付けた頃」
    「そんなの、十五年は前ですが?」
    「うん。私が君を知ったのはね」
     勿論相澤だってオールマイトを知っていた。相澤が生まれる前からナンバーワンであり続けた彼を知らないものはいない。だが、そのナンバーワンに認識されていたという事実が相澤の思考を止めた。
    「その頃は凄い個性を持った子が現れたな、くらいの印象だったな。でも君のことは覚えていたし、折に触れてどうしているのかは気にしてた。実際にお話をする機会は君がプロヒーローになってからだったけどね。振り返ってみればいつから好きかなんてわからないかもしれないな。ずっと君を見てきたし」
    「……」
     内容に反し、オールマイトはふふっと軽く微笑んだ。
    「重かった?怖がらせてしまったかな」
     告げられた事実を飲み込みきれず額を押さえ、相澤は軽く頭を左右に振った。がたりと椅子を鳴らして立ち上がる。対面のオールマイトに大股一歩で近づくと、手首を掴んで引っ張った。
    「え」
     椅子から引き摺られるように半ば強引に立ち上がらされ、オールマイトは自宅の中を相澤にリードされるかたちでよたよたと歩く。まさかとは思ったけれど、連れて行かれた先は寝室だった。最後にぶんと手を振られ、オールマイトは背中からベッドに倒れ込んだ。
     間髪入れず、ぎし、と音を立てて四つ足の猫科の生き物が真上に乗ってくる。
    「……俺の勝ちです」
     何に対する宣言かわからず、黙って状況把握に努めるオールマイトの顔の真上で見下ろしてくる相澤のもさりとした長い黒髪の端が頬を擽る。初めて見た時の面影はあれど、ここにいる相澤は三十路の立派な大人だ。
    「俺は物心ついた時から、あんたが好きなんで」
     憧れと恋は似て非なるものだろと言いかけた口を塞がれる。赤ワインの馥郁たる香りが滑り込んで来た舌から伝染した気がして息を深く吸った。
    「ダブルスコアには勝てないな」
     素直に負けを認める。
     両手を挙げて白旗の代わりにすれば、けたけたと笑った酔っ払いが袖口を掴んで服を引っ張って脱がしにかかる。
    「ねえ、もう一回言って?」
     滅多にない全てが必殺技レベルの愛の言葉のバーゲンセール。どうか明日相澤が全てを覚えていますようにとオールマイトは願わずにいられない。

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