驟雨【オル相】 そういえば、くらいの気持ちだった。
思い出はあるが恨みはない。神に贄を捧げてまで守りたかった、俺を排除した村が今どうなっているのか見てみようと思って頼まれごとの帰りにほんの少し寄り道をした。
村の入り口は開放的で旅人らしき姿も多く、俺は記憶の中の道を思い出しながら当てもなくふらふらと歩いた。何年も経っている。見知った建物はあったが随分と年季が入っていて、村長の家は建て直したのかえらい立派になっていた。
突っ立ってぼんやりと眺めていると、背後から声が掛かる。
「うちに何かご用……」
振り向いた先にいた婦人に見覚えはなかった。村長の奥さんに似ている気がしたがよく覚えていない。
「いえ。失礼します」
厄介ごとになる前に自分からそう告げて五十は超えているだろう婦人の横を通り過ぎた時、彼女が訝しげに振り返った。
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