……たまたま休日が重なって、久しぶりに一緒に出かけた道すがら。
隣を歩いていた連れが、ふいにぴたりと足を止めた。
「 あ、ここ雑誌の特集で見かけた喫茶店だ」
視線の先には、小洒落たティーラウンジ。
ショーケースにはきゃしゃなガラスの器に盛り付けられた、季節の果物をふんだんに使用したパフェがあった。
動物や星座のクッキーをトッピングした、なんともお可愛らしいシェアスイーツだ。
中でも、ダイス状に切ったチョコブラウニーにバニラアイスと、真っ赤ないちごをボリューミーに盛り合わせた、ファンシーなクマのパフェに視線が釘付けになっている。
どう見てもひとりで食べ切れる量ではないが、この際そんなことは関係ないのだろう。
そして、ショーケースに視線を注いだまま、ぽつりとつぶやいた。
「 ……ゴイスーかわいい…… 」
テメーがな。
普段は飄々と振る舞っているが、こういう無防備な一面が……それこそお可愛いと思う。
「 ……入って、みるか?」
声をかけると、ハッとしたようにこちらを振り返って、慌てて表情を取り繕う。
「 ……ううん、いいよ〜♬
せっかくの休みだし、それより、早く帰ってイチャイチャしよ?」
あ"ぁ。失敗した。
コイツまた俺が甘いモンとか、流行りのオシャレな喫茶店とかきゃぴきゃぴした場所苦手なんだろうなとか考えてやがるな。
ミエミエなんだよ。
別にコイツが思ってるほど甘いものを忌避しているわけではない。むしろスムーズな思考伝達には甘いものが不可欠だ。
人の多い場所はあまり得意ではないが、それはなぜだかやたらと騒がれるからで喧騒自体が嫌いなわけではない。
ぶっきらぼうだから誤解されるのだ、とコハクに言われたが、なるほど返す言葉もないと苦笑する。
「 いいから、俺の糖分摂取に付き合えよ」
そう言ってゲンの手を取ると、店のドアを開けた。
カララン、と軽やかなベルの音がして、一歩足を踏み入れた瞬間、店内から茶葉の芳香が漂う。
チラチラと向けられる熱視線に、コイツホントに目立つな、と思いながら、ゲンの手を引いて足早に店の奥まで進んだ。
「 せ、せせせせせんくうちゃん⁉︎ 」
ぎゅっと握った手に、じんわり汗が滲む。
たかだか手を繋ぐくらいで緊張してしまうのが、なんだか歯痒かった。
そのまま突き当たりまで進んで、一番奥のボックス席に陣取る。
席に着いてようやく解放されたゲンは、少し息を弾ませていて。
羞恥のためか、急に歩行速度を上げたためか。ほんのり頬を染めていた。
ったく、ホントにおかわいいなテメーは。
そう口に出したら、どんな顔をするのだろう。かわいくて、いとおしくて、食べてしまいたいくらい。
そこまで考えて、あたまを抱えてしまう。
……駄目だ、どう考えても柄ではない。
そんなふうに煩悶しながら、手早くウエイトレスに注文を出した。ほぼ無意識だったかもしれない。
「 お待たせしました」
ウエイトレスの声に、ハッと我に還る。
だいぶ長いことぼんやりしていたらしい。
木製の重厚なテーブルの上を見ると、ショーケースのものと同じクマのパフェが置かれており、その横で琥珀色の紅茶が湯気を立てていた。取り皿とフォークも、ふたりぶんおいてある。
「 ……千空ちゃん、大丈夫?」
隣から、心配そうにゲンが覗き込んできた。
こちらの様子がおかしかったため、気を使わせてしまったらしい。
「 おー、一ミリも問題ねぇ。んじゃ食うか」
そう言って悪戯っぽく笑うと、千空はテキパキと取り皿にパフェを取り分けた。
クマのクッキーは、ゲンの皿に綺麗に盛り付けてやる。
「 ……なかなか悪くねぇ」
ブラウニーを一口食べて、千空はそうつぶやいた。ゲンはまだ少し夢見心地に、かわいらしく盛り付けられたパフェを眺めている。
「 ……ホラ」
ぶっきらぼうにそう言って、ブラウニーを一切れフォークに刺して、口元に運んでやった。おずおずとそれを口に含むと、ぱあっとゲンの表情が輝く。……お口に合ったらしい。ふう、と内心安堵の息をついた。
それでようやく緊張が解けたのか、ゲンは嬉々としてパフェを平らげ始めた。
「 ……ふう、ジーマーでゴイスー美味しかったあ…… 」
満足そうにそうつぶやいて、視線を上げた瞬間。言葉足らずだけれど、そんな自分をやさしい目でじっと眺めている千空に気付いて、ゲンはトクトクと速くなる鼓動に翻弄されていた。