幕間の楓恒⑥服を着替えて潜入することにどれだけの意味があるかわからないが、姫子さん曰く重要なことらしい。半ば半信半疑でその星の町に三月たちと来てみれば、この星には女性のしかもメイド服を着ている者しかいない。
どういうことかいまいち理解ができないまま、町で聞き込みをしていくと今日はそういうお祭りの日、なのだという。女性も男性もメイドの服を着て一日を過ごすというお祭りで今日が最終日らしい。
あまり来たくはないタイミングで来てしまったようだ。
「丹恒もメイド服似合ってるよ?」
「……そうか」
正直反応に困る。女性ものの服を似合っていると言われても嬉しくはない。
早急に星核についての話を集めなければと手分けをして聞き込みをするが、この星はこの妙な祭りを除けば平和そのものだった。
そうなれば今日はホテルに戻り明日、補給物資を調達すればいいだろう。
「たーんこう、写真撮ろう!」
「断る」
「丹恒がそんな服を着る機会滅多にないじゃん!ね?」
「…俺は先に部屋に戻るから、二人で楽しんでくれ」
「えー」
「丹恒…」
未練がましい声が後ろから聞こえてきたが、こんな姿を写真に収められたくない。足早にホテルの部屋に入って頭についてる飾りをもぎ取る。
「もう少しゆっくりして来てもよかったのだぞ?」
「…、お前は随分くつろいでいたみたいだな……」
「其方にそっくりな余が一緒に居たら町の者も混乱するであろう?」
ツインベッドの片方でメイド服のまま横になっている丹楓の姿を見てどっと疲れを感じる。俺の代わりに丹楓が聞き込みをしても良かったのだが、あまり俺から離れられないからか理由は詳しくは聞いていないが丹楓はホテルで待機という話になっていた。
手に持っている飾りを机の上に置いて、丹楓の隣のベッドに腰を下ろす。
「別に双子か何かと思われるだけだろう」
「そうか、ならば次からは余も共に行くことにしよう」
「今回は着替えたのに残念だったな」
「良い、来年の楽しみだと思えば」
丹楓が体を起こすとベッドの軋む音が部屋に響いた。数歩もないベッドの間を歩いてきた丹楓は俺の前にしゃがみこむ。
「丹楓?」
「疲れただろう?余が脱がせてやろう」
「…一人で脱げるから気にするな」
「遠慮はするものではないぞ」
「遠慮をしているわけではない、…っ、丹楓」
脱がせるというからひらひらとしているエプロンドレスやスカートのことだと思っていたが、丹楓はスカートを掴むと捲り上げてきた。
「丹楓、どこを見て…っ」
「いや、其方も余と同じものが配られたのならば履いているのだろうと思ってな」
「……お前も履いているのか」
「これだけ残すわけにもいくまい」
「……、…」
元来靴下が下がらないようにつけるものだということはわかっている。礼服を着る時も靴下を止めるものをつけることがあるのでそれと同じものだということは。
ただ、今つけているものは太ももまでの長さのある靴下を止めるもので礼服の時につけているものよりもより女性的でより下着に近い形状をしていた。
「…下着も変えたのか」
「ガーターベルトをつけておいて下着だけ男性ものにはできなかった」
「それもそうか」
「…う、…丹楓」
「良い、身を委ねていろ」
そうは言うが、丹楓が指先で薄い靴下の上をなぞるようにするからぞわりとしたものが足先から這い上がってくるようだ。
勢いよくおろしてくれればどれほど楽だろうかと考えてしまう程、丹楓の指先の動きはゆっくりでどこか焦らしているかのようだった。
人差し指や中指の指の腹でつー、となぞられ靴下と肌の間に指を入れられると丹楓の指の冷たさを感じて体がぴくりと跳ねた。
「…っ、丹楓」
「もうこれで脱げるだろう?」
「……は、……お、まえ…」
なんて触り方をするんだと言ってやろうかと思ったが、このまま言い争ったところで最終的には俺が負けてしまうような気がして息を吐き出した。
「まだ一人では脱げないか?」
「そんなわけないだろ」
「そうか…だが、余が手伝ってやろう」
「おい、たんふ…―――っ」