Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    299_nemui

    @299_nemui

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🔶 🐳 🐉 🔷
    POIPOI 7

    299_nemui

    ☆quiet follow

    鍾タル前提モブ→タルの、導入
    名前が決まってません、仮置きとして@が入れてあります

    #鍾タル
    zhongchi
    #モブタル
    mobbedTalon

    未定 なぜ船乗りたちは北極星を目印にするのだろうか? そんなの決まっている。「そこにあるから」だ。何があろうと変わらずあり続けるもの。信じるに値する求心力。何もない海においての唯一の希望。信じて、ついていけば間違いないと思わせる輝き。
     では、海原での希望が北極星なら、戦場での希望はどの星に託せばいいのだろうか? 肉が抉られる恐怖、死が目前にある焦燥、生物の尊厳を許さない地獄において、希望を託すに値するものは? それはやはり、目の前にいる彼────ファデュイ執行官第11位、「公子」タルタリヤその人だろう。あどけない顔立ちに危険な深蒼が見え隠れしていて、うっかりすると吸い込まれて戻ってこられなくなるような錯覚を覚える。戦場では誰よりも勇猛果敢、猪突猛進かと思いきや相手の行動を読み適切な対処をする判断力と冷静さ。戦うために生まれてきた闘争の権化。しかし、いかに神のような権力と凡人を超えた力を持つ執行官であろうと、部下とともに美酒を楽しむこともある。その流れで恋愛相談に乗ることも、なんらおかしいことではない。
    「それで? その子はどんな子なのかな。どんな子か分かれば、お近づきになるきっかけもできるからね」
    「はい、彼女はとても優しく笑う人で……。それに、とても家族思いなんです。彼女と初めて会ったとき、俺はとある任務の帰りでした。その時、俺はとても疲れていました。暑いのもあって、仮面とコートを脱いで木陰で休んでいたところに、彼女は声をかけてくれたのです」
     タルタリヤは、自分の部下の恋話を興味深そうに聞いていた。
    「彼女は水汲みの帰りで、重たそうな水桶を持っていました。優しいことに、彼女は俺に苦労して汲んできた水を一杯、分けてくれたのです。お礼として、俺は彼女の家まで水を運びました。道中でたくさん話をして……好きになったのは、その時です」
     タルタリヤは自分の杯に酒を注いだ。無礼講なので、ついでに恋に夢中になっているかわいい部下の杯にも注いでやった。
    「そこで、恋愛経験の多そうな公子様にぜひアドバイスをいただけないでしょうか……!」
     タルタリヤは一瞬だけ困ったように視線を泳がせたが、すぐにいつもの自信有りげな顔に戻り、迷える部下にいくつかのアドバイスをした。
    「うーん……、話を聞く限り、彼女とは少し話をした程度なんだろ? なら、まずはお互いの名前を知るところから始めるべきだ。会ったら世間話する程度には仲良くなってからじゃないと、恋は成長してくれないよ」
    「まあ、頑張りなよ。@」

    ***
     つい数日前に聞いたばかりのアドバイスがリフレインする。人は現実逃避として過去の出来事などに逃げ込むことがあるらしいとはどこかで知識として仕入れていた。帰離原にて、少し先、全力で走れば20秒もかかるかどうかと言う距離に、彼女が、いる。弟がいるのか、小さな男の子の手を引いていた。話しかけてしまおうか。でもご家族がいらっしゃるなら迷惑では? いや、それこそがチャンスかも。「壁炉の家」で小さい子どもの相手はたくさんしてきた。共通の話題は、仲良くなるのにはうってつけだろう。彼女らに歩み寄り、声をかけようとすると、
    「やあ、また会いましたね、お嬢さ──」
    「っ、ファデュイ! それ以上近寄らないで!」
     その拒絶は、@の胸に深く突き刺さった。街中を歩けば、冷たい視線などいくらでも浴びてきた。それでも平気だったのは、そんなものが何もつらくなかったからだ。物心ついたときには、すでに親がいなかった。そのまま「壁炉の家」に預けられた。幼少より、お前はファデュイに入り、国のために働くのだと教え込まれ育った。ファデュイが何をしているかなんて、子どもながらにぼんやりとだがわかっていた。拒否しなかったのは、居場所を失うのが恐ろしかったから。人を愛さない氷雪が、どうして自分だけを愛してくれようか? 無力な子どもでしかない自分は、外に放り出されたら最後、1日と経たずに力尽きるだろう。そのうちに武力を見出され戦闘員となった。才能はあったようで、実力がメキメキとついていった。武力は、何も持たない自分を支えてくれた特別な存在だった。初めての感情だったのだ、この恋は。生まれたばかりのそれは、誰に慈しまれることもなく摘み取られてしまった。
     少女は己の震える体を必死に隠して男の子を腕に抱いていた。@は自分が今邪魔者であることを強く実感したと同時に申し訳なくなった。ファデュイでありながら愛を手にしようとした自分が愚かだった。悪人は悪人らしく、独り慎ましやかに暮らすべきだ。自分の幼い恋心も、忘れてしまおう。
    「あー、お嬢さん。突然話しかけてすまなかった。もう話しかけないよ、さよなら」
     @は敵意がないことを示すかのように両手を耳の近くまで上げ、降参のポーズをとった。そしてそのままゆっくりと後ろに下がり、しばらく離れたところでくるりと背を向けて逃走した。仮面の奥の瞳は、薄っすらと濡れていた。

    ***

     たとえこっぴどく失恋したとしても、やらねばならないことは数多くある。その1つが仕事である。北国銀行まで戻る足取りは重かった。女々しいと思われそうだが、まあ人並みには落ち込んでいた。ヤマガラのチチチチチという鳴き声に慰められていると感じるほどには。
     しかし、いくらゆっくり歩こうが進んでいる以上は目的地に到着してしまう。この後は公子様に任務の報告をしに行かなければならない。そうだ、今夜彼を飲みに誘ってみようか。意外と面倒見のいい彼であるし、いつまでも気にかけさせたままというのも申し訳ない。
     公子の執務室は、北国銀行の奥まったところにある。受付にいるエカテリーナは、なにか声をかけたそうにしていたが、考え事に夢中であった@は気が付かなかった。重厚な雰囲気のある敷物は、本来であれば消音効果のある毛の長いものカーペットが使われる。実際公子が赴任してくる前は濃紅色のふかふかとしたカーペットだったのだが、赴任1日目の公子の鶴の一声によって取り払われることとなった。曰く、靴音がせねば敵襲が分かりづらく楽しくないのだとか。全く我が上司ながらいい趣味をしていらっしゃる。執務室前で、@はそのいい趣味の上司の声を聞いた。しかし、なにか様子がおかしいようだ。
    「…………!」
     ドア越しに、なにか言い争うような声が聞こえる。声の様子からして、片方、つまり公子が特に感情的になっているようだ。大変失礼なことではあるが、激昂した公子による殺傷事件が起こるのはまずい。本当に大変なことになる前に止めようと@は聞き耳を立てた。
    「本っ当信じられないんだけど! 何のためにここ最近俺が仕事詰めてたと思ってるわけ」
     思い返せば確かに公子は最近残業も多く根を詰めていたように思う。どうやら近いうちの約束を楽しみにしていたようで、それを反故にされて怒っているようだ。
    「本当にすまない。突然堂主の出張に同行しなければならなくなったんだ」
     この響くような低音と硬めの口調は、往生堂の客卿たる鍾離先生だろう。彼は公子との仲も良好であるし、なにか食事か遊びの約束をしていてもおかしくはない。
    「絶対、ぜったい埋め合わせしてよね!」
    「ああ、延期した分、必ずお前の満足のいくものを提供すると約束しよう」
    「…………あと、他に、やることがあるんじゃない?」
    「勿論。ふふ、お前は本当にかわいいな」
     ……会話の雲行きが怪しくなってきた。これでは恋人の睦み合いだ。この布擦れの音がなんなのか、考えたくもない。
    「……ん、ちゅ、は……」
     こうなればもう言い逃れはできないだろう。公子と鍾離は、付き合っている。その事実を認識した途端、@の中にふつふつと湧いてきたのはどうしょうもない怒りだった。羨ましさと、妬ましさ。きっと公子は影で自分を嘲笑っているにちがいない。今までだってそうだった。孤児だから、戦うしか能がない。生意気なのだと、大して強くもなければ努力もしないような有象無象に言われてきた。@の半生は、誰かからの侮蔑と嘲笑とともにあった。今までは、そいつら全員を武力でぶちのめしてきた。だが、公子はちがう。どれほど手を伸ばしても届かない強さがある。家族も、恋人も、強さもすべてを手に入れるとは何たる強欲か。愛なきものが愛を求めるのは罪だというのだろうか?
     邪魔してやる。そんな気持ちで@はドアをノックした。
    「公子様、任務の報告に参りました。入ってもよろしいでしょうか?」
    「っ! ああ、はいってくれ」
     ドアを開けると、思ったよりそこはいつもどおりの空間だった。距離感、ふつう。服もはだけていない。少し二人の顔が赤いが、指摘するほどでもなく、はぐらかされて終わるだろう。
    「じゃあ、鍾離先生。そういうことだから、またね。ちゃんと埋めあわせしてくれよ?」
    「言われずとも。ではここで失礼する」
     鍾離は@をちらりと見やり、目線だけで会釈した後少しの靴音とともに去っていった。一応部外者である鍾離が十分に離れたことを確認した後、@が報告のために口を開けた瞬間、タルタリヤがそれを遮った。
    「君、今晩暇かい?」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖☺👏💕🙏💞💞💞💒🌠☺🙏💘💙
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    299_nemui

    PROGRESS鍾タル前提モブ→タルの、導入
    名前が決まってません、仮置きとして@が入れてあります
    未定 なぜ船乗りたちは北極星を目印にするのだろうか? そんなの決まっている。「そこにあるから」だ。何があろうと変わらずあり続けるもの。信じるに値する求心力。何もない海においての唯一の希望。信じて、ついていけば間違いないと思わせる輝き。
     では、海原での希望が北極星なら、戦場での希望はどの星に託せばいいのだろうか? 肉が抉られる恐怖、死が目前にある焦燥、生物の尊厳を許さない地獄において、希望を託すに値するものは? それはやはり、目の前にいる彼────ファデュイ執行官第11位、「公子」タルタリヤその人だろう。あどけない顔立ちに危険な深蒼が見え隠れしていて、うっかりすると吸い込まれて戻ってこられなくなるような錯覚を覚える。戦場では誰よりも勇猛果敢、猪突猛進かと思いきや相手の行動を読み適切な対処をする判断力と冷静さ。戦うために生まれてきた闘争の権化。しかし、いかに神のような権力と凡人を超えた力を持つ執行官であろうと、部下とともに美酒を楽しむこともある。その流れで恋愛相談に乗ることも、なんらおかしいことではない。
    3747

    related works

    recommended works

    yahiro_69

    DONE朝チュンチュンぴーちくぱーちくぴよよよよの鍾タル
    急に始まって急に終わるけどごはんたべるのがメインです 粥っていうか雑炊
    忙しなくピィピィとさえずる鳥の声に、『公子』タルタリヤは眉を寄せながらゆっくりと目を開いた。
    まだ少しぼんやりとした頭で辺りを見回せばそこは見慣れた自室ではなく。
    落ち着いた品のある調度品たちやふわりと優しく香る霓裳花の香に、ここが鍾離の部屋だということを思い出した。

    「(そういえば昨晩は先生の部屋でしようって言ったんだっけ)」

    承諾はされたものの、やや困ったような笑みを浮かべていたのを思い出した。
    日が昇ってからというもの鍾離の飼っている鳥が鳴き続けているが、愛らしいさえずりもここまで続くともはや騒音でしかない。
    だから普段外に宿を取るか『公子』に充てられた部屋でしか夜を過ごさなかったのかと今になってようやく理解をした。
    いやそういうことは先に言ってよ先生。

    「起きたか公子殿、ちょうど朝餉の粥ができたところだ」

    深く溜息をついたタルタリヤが声の方へ視線を上げると、にこやかに土鍋を持って歩いてくる鍾離と目があった。
    甘い香に混じって食欲をそそる卵粥の温かなまろい香りが漂ってくる。
    少々時間感覚がおかしく凝り性のあり舌も肥えたこの元魔神のことだから、きっとかなり手の込んだものなの 2403