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    okinami_saza

    土沖とみかつるの短編小説とかアップしてます
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    土沖ワンドロライ「年齢差」

    ##土沖

    十八歳のプレゼント それは沖田の誕生日の出来事だった。大事な用事があると非番を申請して朝から出かけていた沖田が昼過ぎに戻って部屋でくつろいでいると、土方が突然部屋に入ってきた。
    「……見ての通り今日は非番でさァ」
     叱られてはたまらないと、座ったまま答えた沖田に土方は「知ってる」と答えた。
    「誕生日プレゼント」
     彼が沖田にそれだけ言って手渡してきたのは、手のひらに乗る程度のやや縦長の小さな小箱だった。
     武州にいた頃は姉主催で、江戸に来てからは真選組全体で祝われることはあった。今日も夜は宴会の予定だ。でも土方から個人的にプレゼントを貰ったのはこれが初めてだったし、二ヶ月前に過ぎた彼の誕生日にも沖田はなにもあげていない。
    「……どういう風の吹き回しですかィ?」
    「ずっと欲しがってたやつ」
    「はい……?」
     ずっと欲しがっていたもなにも、この男の前で何かを欲しがった記憶はひとつもない。沖田は物欲はあまりない方であるし、欲しいものはその場で入手してしまう性質だ。
    「ああ! もしかして副長の座ですか! ありがとうごぜぇやす、土方さん」
    「ちげえよ、ばか」
     わかってはいたが副長の座ではなかった。大体それは誕生日プレゼントとして譲られていいものではない。近藤にそう望まれて着任することに意味があるものであり、この男がもし万が一ぽんと渡してくるのであれば沖田は怒り狂う自信がある。
     考えても埒があかないのでプレゼントを開封することにした。小綺麗に包まれた包装紙を開封して中を開けると、送り主らしいシンプルで質の良い革製のキーケースが入っていた。
     品物をみてもやっぱりこれを欲しがった記憶はない。箱と包装紙は床に避けておき、ケースのスナップを外した。内張りは三つ葉の模様で沖田の好みだったが、それ以上に目を引くものがあって動きを止めてしまった。三つ折りになっていたキーケースには既に三本鍵が収められていたのだ。
    「土方さん、これ……」
    「欲しがってただろ? 左から近藤さん、俺、総悟の」
     沖田は確かにこれが欲しかった。それは四年も前のことだ。

     話は真選組結成時までさかのぼる。田舎育ちな上に車を持つ金もなかった近藤以下全員、車の免許を持っている者はなかった。それでは隊務に支障があると、急きょ隊全体で免許の合宿へ行くことになったのだ。そう、最年少十四歳で免許の年齢制限に引っかかってしまった沖田を除いた全員で。
    「一人だからって暴れねぇで大人しくしてろよ」
    「ちゃんとメシ食うんだぞ、総悟」
     申し訳無さそうにしながらもみんな楽しそうに合宿へ向かい、戻ってきたら今度は取得した免許の写真写りを見せ合ったり。
     パトカーは玄関横の受付で管理してる鍵で動かせる物とは別に、隊長格には専用のパトカーと鍵も貸与された。くどいようだが沖田は幹部で唯一貸与の対象外となった。
     幹部に与えられたパトカーを運転するのは大抵幹部と同乗する部下だ。それぞれ腹心に合鍵を渡す幹部のやりとりを横目に、沖田は自分の年齢を呪った。今回十八歳の誕生日と共に免許が発行できるように誕生日前から教習所に通って、本日朝イチで発行に出向いていたのだ。
     免許の件は言っても仕方がないことなので口に出したつもりはなかったが、土方にはバレていたようだ。
    「こっちはお前の車の合鍵だ。一番隊で一番事故らなそうなやつにでも渡しとけ」
     追加で生身の鍵を渡してくるが沖田はピクリとも動かず受け取る気配がなかった。土方は手渡しを諦めて部屋の机に置いて、沖田の前に座った。
    「これからシフトも俺と一緒の日増やすつもりだから、まあよろしく頼むわ」
    「……命狙ってる相手に運転任すとか、土方さんの危機管理どうなってるんです?」
     全てが土方の思い通りなのが悔しくていつもの軽口を叩いたが、土方はのってこずに真面目に答えた。
    「命狙われててもお前以上に信頼できるやつはいねぇんだよ」
    「そりゃどーも。助手席だけ事故ってみせまさァ」
     何往復か身にならない口だけのやりとりをしていて、急に土方がしみじみとつぶやいた。
    「普段あんま年齢気にしてなかったけどお前十八か」
    「イヤミですかィ?」
    「いや……俺が十代の頃はまだもうちょっとガキだったなと思っただけだ……」
     浪士組時代からその腕で大人たちより秀でた腕を見せつけ、十六歳のときには創界党をほぼ一人で壊滅させ江戸を火の海から護った。破壊活動だけは悩みの種ではあるが、誰も沖田が一番隊隊長であることに疑問を持っていない。
    「確かに土方さん十代の頃は、マセラッティ廃車にしたりしてやしたねィ」
    「うるせぇ、それは半分お前も悪いだろ!」
     せっかく褒めてやろうと思ったのにと土方は拗ねてしまった。

     ――普段あんま年齢気にしてなかったけどお前十八か。
     土方の言葉に沖田は口元がニヤけるのを我慢するのが大変だった。沖田は近藤と十、土方と九、歳が離れている。二人は意識してないだろうが沖田と二人の間に溝はあり、その要因のひとつが年齢差だ。だから免許が取れなかったときに心に決めた。子供でいることを捨てて、誰よりも実績を上げて、二人の横に並び立つことを。横に立てなければ、恋も始まらない。
    「あとちょっと、ってところかねィ」
    「……何がだ?」
    「いーえ、別に」
     沖田が自分に懐ついていないと思っていた土方が、自分の認識が根本から間違っていたことを思い知るまであと二年。
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