入学祝い 歳が三つ離れた土方とは、家が隣の幼馴染で小さいときはずっと一緒にいた。しかしそれも小学校までで土方が中学に上がると一緒にいる時間は激減し、沖田が中学に上がると入れ替わりで高校に行ってしまう。今年高校受験の沖田は土方の通っている高校を第一志望にしていた。最悪なことに彼が偏差値のやたら高い公立高校だったため、担任含めて無謀だと何回も止められた。それでも沖田は諦めずじわりじわりと模試のランクを上げていった。
「そーちゃん無理して公立じゃなくてもいいのよ」
受験勉強をしている沖田に姉が夜食を届けながらそう言った。彼女は学費のためだけに沖田が死にものぐるいで勉強をしていると思っている。もっともそう考えるのが普通だったので否定はしていない。仲の良い幼馴染が在学中ならともかく入れ違いであればまさか彼が目的とは誰も考えないだろう。その方が好都合でもあった。
部活が無くなった沖田は土方の家に入り浸って必死で勉強をした。一人だとどうしても気持ちが緩んでしまうが、目標の人が目の前にいると気も引き締まる。土方は自分の受験勉強もあるのに沖田が詰まると教えてくれたりもした。
「なんでこの学力で俺と同じところ?」
何回も聞かれたことを、土方にも問いかけられてしまった。
「土方さんに入学祝い貰いてェんです」
「私立でも別にやるけど」
「それじゃあ意味がないんでさァ」
「ふーん?」
どういう理屈かはさっぱりわからなかったが、言い出した沖田は絶対に引かないことを土方は知っていた。一緒に通い始めた剣道で、土方に勝つまで帰らないと言って挑み続けてきたときのことが懐かしい。道場主の近藤が意気込みを気に入ってしまったせいで止める人もなく、本当に一本取るまで帰らなかった。しかも一本取った瞬間に満足して寝てしまったので、土方はクタクタの状態で彼をおぶって帰る羽目になった。
結局沖田は誰もが無理だと思っていた高校に合格した。
結果がわかるなり土方の元へ走って行って報告するものだから、ちょっとした騒動になった。
なにしろ結果発表を見たその足で、授業中だった土方の教室に飛び込んで来たのだ。
教えていた教師が半笑いで「四月に待ってるよ」と言ったことで、沖田はこれから三年居る学校で早くもやらかしたことをようやく悟って真っ赤になっていた。
学校を終えた土方は自分の家に行く前に沖田の家のインターホンを押した。待っていたのか沖田が確認もせずに飛び出てくる。
「あぶねぇな。ヤバいやつだったらどうすんだよ」
「大丈夫でさァ。二階の窓から土方さん来るのみてたんで」
沖田の部屋に上がりながらそんな会話をする。
「進学祝いなにがいい?」
早速土方は本題を切り出した。ずっと欲しがっていたものがなんなのが気になっていたのだ。
沖田は目を丸くして少しだけ戸惑った。何にするか悩んでいるわけではない。土方の通う高校に受かった沖田の欲しいものなど、とっくに決まっていた。それだけのために苦手な勉強も頑張っていたのだ。三年前の三月、第二ボタンどころか袖のボタンまでむしり取られた制服をお下がりで貰ったときからずっと。それを言ってしまうと今までの関係性が崩れるかもしれない恐怖で言葉が震える。
「高校の制服も俺が着やすんで、今度はボタン一個もあげないでください」
言ってしまった。畳み掛けるように沖田は続けて更に言う。
「勉強頑張ったんで、土方さんもボタンの死守頑張ってくだせェよ」
「おまっ……そういうことかよ」
土方は沖田の遠回しな告白に気がついて、深いため息をついた。
「土方さん……返事は?」
沖田の催促に彼はしばらく考えて返事をする。
「……ボタンは死守する。そのかわり大学俺と同じところ来いよ。今度は入れ替わりじゃねェし、入学祝いにもっともいいもんやる」
「げっ」
国立大学に進学を決めていた土方を追いかける日々がまた始まった。
二人が正式に付き合うまであと三年。