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    okinami_saza

    土沖とみかつるの短編小説とかアップしてます
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    土沖
    幸せな夢の世界に行った総悟の話

    ##土沖

    幸せな夢の続きを 屯所内の道場を緊急救護室とし、怪我人が並んで寝かしつけられている。その中でも仕切りを置いて隔離した状態で、幹部の隊服を来た青年が横たわっている。屯所の医療班では手が追えず、医師の往診を頼んで診てもらった。局長副長を筆頭に幹部や山崎が祈るような気持ちで診察を見守っている。そんな中、診察を終えたその医師が長い静寂のあと重い口を開いた
    「手の打ちようがありません。おそらくこのまま目を覚ますこともないでしょう」
     まるでドラマのワンシーンのようにいうものだから、現実味がなくて土方はつい笑ってしまった。みんな自分のことが精いっぱいで、咎めるものもなかった。

     昨日まで、今日の数時間までいつもと変わり映えのしない一日だった。ルーティンワークをしながら巡回をして、一緒に飯を食べて来期観るドラマの厳選をしていたはずだった。突如監察が持ち帰った情報で全員が出動して、沖田はその先陣を切って行った。走り去る背中、これが土方の見た起きている彼の最後の姿だった。
     普通の攘夷浪士たちだと思っていたのが裏目に出た。蓋を開けてみれば過激な宗教団体が裏にいて、難を逃れた一番隊の隊士によると途中までは怪我人を出しつつも問題はなかった。いよいよ代表を追い詰め彼を捕縛しようとした際、代表は急に沖田と二、三会話をしたのち「人を殺す現実はお辛いでしょう」と突然薬を浴びせてきた。
     このことで直接薬をかけられた沖田と、その直後に倒れ込んだ沖田を抱き止めたことで間接的に薬を浴びてしまった隊士一名が昏睡してしまう。
     
     薬物は幸せな夢を見ながら眠り続けるという、天人製の違法薬物。解毒剤はなく自力で夢から覚めなければ起きることは出来ずそのまま衰弱して死んでしまう。でも幸せの最中にいる当事者は、それが夢であることすら気がつくのは困難だという。元々は終末期を迎えた重病人のために作られた緩和ケアの薬だったが、悪用するものが絶えず製造が中止された経緯がある。
    「うそだろ、総悟……」
    「金ならいくらでも払うんでなんとかならないですか!」
    「入院して頂ければ身体の延命はできます。その間に解毒剤などが作れればもしかしたら……」
     信じられずに呆然としたり、医師を問い詰めたり三者三様だ。悲痛な顔を浮かべて土方は沖田の方をみた。それと同時だった。
    「うわぁっ!」 
     小さく悲鳴が聞こえたかと思えば、沖田は多量の汗をかいて飛び起きていた。
    「総悟!?」
     土方は慌てて背に手を当て身体を支えた。もう目を覚ますことがないと告知された彼が、目を大きく見開いて肩で息をしている。
    「総悟、大丈夫か? 俺たちのことわかるか!?」
     近藤も慌てて近づいて彼の顔を覗き込む。その剣幕に驚きつつも沖田は状況を理解したのか頷いた。
    「なんかすごい悪夢だったんでさァ。土方さんが俺に好きって言ってくる夢みてやした」
     沖田の発言に一同は顔を見合わせてから笑った。
    「理由はわからないけど、そのおかげで目覚めたならよかったよ」
     特に誰も深くは考えなかった。目覚めたのであれば瑣末なものだと気にしていなかった。ただ土方だけが、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

     ◇

     沖田は咄嗟に嘘をついた。見た夢は本当は幸せなものだった。近藤がいて、姉がいて、土方もいた。沖田の好きなもの全部に囲まれた空間で、土方は自分を愛してると言ってくれた。それは沖田がかつて諦めた全てであったし、できることならずっとそこに居たいと思った。
     考えるのを放棄してこのまま心地よい空間に居たいと強く願いつつも、沖田はどうしても違和感が見過ごせずに夢であると認めざるを得なかった。
    「土方さんは俺に好きって言わないんでさァ」
     彼が沖田に好きだと言うことは絶対にない。それは不器用な土方の愛の形であったし、沖田はそんな土方だからこそ好きになった。好きと言われてもそれは土方でなければ意味がない。だから沖田は戻って来たのだ。血と硝煙の匂いが染みついた、土方が愛の言葉を紡ぐことのない現実へ。

    「土方さん、あいつどうなりやした?」
     病院から戻った土方にそう問いかける。
    「入院手続きは済ませたよ。費用は隊で持つことで家族は一応納得はしてる」
     沖田と共に薬物を浴びた隊士はほぼ植物状態となってしまった。沖田のように目覚めることを期待したがその兆候は今のところない。
     点滴で栄養管理をしつつ命を繋ぐ延命措置は数年にわたることになるだろう。本人はただ幸せな夢の中を生き続ける。

     土方は黙ってタバコを吐き出して、憐れむような目で沖田を見た。彼の考えていることは手に取るようにわかり、沖田は苦笑する。
    「幸せでしたよ」
     幸せな夢に浸かるにも才能が必要なのだと沖田は思う。
    「ちゃんと幸せな夢でした」
     その幸せを享受することができず、飛び起きてしまったのは沖田にその才がなかったから。
    「自分でここを選んで戻って来たんですから褒めて欲しいくらいでさァ」
    「ああ……よくやった、総悟。おかえり」
    「こっちも悪くないでさァ。近藤さんが居て、アンタがいる」
     偽物ではなく本物が欲しい。土方から貰う信頼の言葉は、愛の言葉より沖田に溶け込み命を形作る。
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