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    蒼月ルートのクロロレです。

    家出息子たちの帰還.4───フォドラの常識で言えば身体が一つであるように霊魂も一つだ。だが近隣諸国にはそのように考えない人々が存在する。精神を司る霊魂と肉体を司る霊魂の二つがある、と考える人々もいれば五つだと考える人々もいる(中略)失われた霊魂を身体に戻すことによって身体は健康をとり戻す。では失われた霊魂は何処にあるのか。巫者は目に見えない霊魂の所在を明らかにせねばならない───

     ロナート卿の名を耳にして叔父の顔がよぎったディミトリは叛乱についてレアとセテスから話を詳しく聞きたかったのだが、通り抜ける風が耳元でやかましく騒ぐ。《お前も仇を討て、殺せ、首を、》無駄だと分かっているが大きな溜息をついた。彼も、彼の民も破滅させられる。全てが終わった後を任されるのは辛いがせめて戦後の処理が苛烈にならないよう尽力するしかない。
     青獅子の学級全体が重苦しい雰囲気に包まれていた。こういう時は死人の声が大きくなる。喉の奥に鉛が詰まっているような気がして、追い払うための溜息すらうまく出せなかった。
    「ディミトリ、ちょっといいか?」
     流石に昨今の雰囲気に飲まれたのか、クロードは少し申し訳なさそうな顔をしている。ドゥドゥーから陽にあたるべき、と言われたディミトリは何をするでもなく中庭の長椅子に座らされていた。幼い頃から彼は時々、謎の提案をしてくる。
    「構わない」
    「アッシュは夜、きちんと眠れてるのか?」
     他人にあまり聞かれたくないのかクロードはディミトリにそっと耳打ちをした。 《こいつも、おきてる》ドゥドゥーの言う通り陽にあたっているのに生垣の隙間から声がした。それでも敵だらけの王宮にいる時より耳にまとわりつく声は弱々しい。
    「気丈に振舞っているので正直いって分からない。……俺に頼り甲斐がないのだろうな」
    「王子様の前だ。格好をつけたいのさ」
     そう言うとクロードは肩をすくめた。レスターの学生たちは彼の前でいつも寛いでいる。
    「少し歯痒いがアッシュと親しいものに、俺の代わりに聞いてもらうことにしよう」
     シルヴァンかドゥドゥが相手ならアッシュも安心して辛さを吐露してくれるかもしれない。
    「俺は薬の調合に興味があってね。もし役に立てそうな……あ!」
     クロードは何かを思い出したらしく、突然手で口を隠した。
    「どうした?」
    「悪い。厩舎掃除の当番だったから行かないと……ローレンツはうるさいんだよ」
    「そうか。では行ってくるといい。提案に感謝する」
     ディミトリから出しゃばりと言われずに済んでほっとしたのか中庭を去るクロードの足取りは軽かった。



     ロナート卿の叛乱について一報が入って以来、ローレンツはあまり機嫌が良くない。だから話し合いたいことがあるから部屋に来ないか、というクロードの提案に無条件で彼が乗るとは思わなかった。
     無条件ではあったが、一応床のものは拾い上げた。行き先がなかったのでとりあえず寝台の上にぶちまけてある。
    「ローレンツ、少しだけフェルディアにいたことあるんだろ?」
     杯を手にローレンツは頷いた。政情不安の煽りを受けて魔道学院には長居できなかったことは知っている。クロードは脳裏にローレンツの父エルヴィンの顔を思い浮かべた。慎重な彼ならロナート卿のような行動は絶対に起こさない。
    「何が聞きたい。僕は君に聞かせたい話などないぞ。それとも、この僕に聞いてもらいたい話があるのか?」
     今回、課題に協力したのはマリアンヌだ。当初は後詰としてガスパール領に入り、戦闘終了後の諸事を補佐せよという話だったので負傷兵の治療を目的とした真っ当な人選と言える。その場で作戦の変更があったようなので今こそ薬草を使った煎じ薬の出番かもしれない。
    「ディミトリは学生をやってる場合だと思うか?」
     紫色の瞳がクロードを真っ直ぐ見つめた。クロードから何を問われたのか彼は完全に理解している。実際にローレンツは一度、学生であることを諦めた。
    「何か事情があるのだろう。だがそれでも何故、王位を空白にしているのか僕には理解できない」
    「だよな!」
     ローレンツと同意見であることが素直に嬉しい。ペトラが似たような状況に陥ったらすぐにブリギットへ帰国するだろう。
    「中央教会の祝福によって国が成ったとはいえ、裁判と死刑執行を……」
     ───委託するなどあり得ない───お膝元では開陳し難い意見だ。彼が言い淀む気持ちもよく分かる。
    「あり得ないよな!青獅子の連中が受け入れてるのが本当に分からなくて!いや、ほっとした」
     だからクロードはローレンツの言葉に大袈裟に反応して、最後まで言わせなかった。言わせないための気遣いでしかなかったのに彼の前ではしゃげたことが何故か嬉しい。



     ドゥドゥーがディミトリの異変に気がついたのは引き取られてすぐ、まだ幼い頃のことだった。周りにダスカーの民はなく、まだフォドラ語も覚束ない。仕方ないので彼は主人を黙って観察することにした。
     夜も眠らず食が細く、誰もいないところに向かって話しかけている。頭も酷く痛そうだった。両親と妹を亡くしたばかりのドゥドゥーもまだ体調が万全というわけではないし、ひどく気が塞いでいる。それでもディミトリのようにはならない。
     数日後、幼いドゥドゥーは結論を出した。彼の主人、命の恩人ディミトリは死霊に取り憑かれている。だが周りの大人は気がついていない。残念ながら王宮に巫者は出入りしていないようだった。
     ダスカーでは巫者の使う呪具を作る鍛冶屋も多少は神聖な力を持っている、と言われる。亡くなった父は普通の鍛冶屋で客の中に巫者は居なかった。ドゥドゥは父の仕事を手伝っていただけに過ぎないが───それでも出来ることをするしかない。
     ドゥドゥーは毎日、王宮のごみ捨て場を漁った。目的のものを台所から盗み出すことは可能だったが、発覚すればディミトリの立場が悪くなる。ひしゃげたおたまと小さな鍋を見つけた時は目元が熱くなるくらい嬉しかった。
     これまでのごみ漁りで薪の代わりになりそうな木材も火打石も銅貨も見つけたし、金属の棒は何本も手に入れている。ディミトリに頼んで折って貰えば三脚を作るのは容易い。
    「何を作るの?」
     身振り手振りでお願いすると意図を察したディミトリがドゥドゥーの指示した通りの長さに棒を折ってくれた。彼の目の前で小さな三脚を作り、水を入れた鍋を引っ掛けて暖炉の中に置く。王宮の大人たちはディミトリに膝をつく癖に部屋の薪をしょっちゅう切らす。正直言って不満に思っていたが、今は都合が良かった。
    「すごい!魔法みたいだ!それで何をするの?」
     久しぶりにディミトリが微笑んでいる。
    「……お湯を作る」
    「お湯を沸かす、だよ。ドゥドゥー」
     ディミトリは優しく言い回しを訂正してくれて、冷え切った部屋がそれだけであったかくなったような気がした。
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    MAIKING「説明できない」
    紅花ルートで戦死した記憶があるクロードと青獅子ルートで戦死した記憶があるローレンツの話です。
    2.振り出し・下
     士官学校の朝は早い。日の出と同時に起きて身支度をし訓練をする者たちがいるからだ。金鹿の学級ではラファエル、青獅子の学級ではフェリクス、黒鷲の学級ではカスパルが皆勤賞だろうか。ローレンツも朝食前に身体を動かすようにしているがその3人のように日の出と同時には起きない。

     ローレンツは桶に汲んでおいた水で顔を洗い口を濯いだ。早く他の学生たちに紛れて外の様子を見にいかねばならない。前日の自分がきちんと用意していたのであろう制服を身につけるとローレンツは扉を開けた。私服の外套に身を包んだシルヴァンが訓練服姿のフェリクスに必死で取り繕っている所に出くわす。

    「おはよう、フェリクスくん。朝から何を揉めているのだ?」
    「煩くしてすまなかった。単にこいつに呆れていただけだ」

     そう言うと親指で赤毛の幼馴染を指差しながらフェリクスは舌打ちをした。シルヴァンは朝帰りをディミトリや先生に言わないで欲しいと頼んでいたのだろう。

    「情熱的な夜を過ごしたのかね」

     呆れたようにローレンツが言うとシルヴァンは照れ臭そうに笑った。

    「愚かすぎる。今日は初めての野営訓練だろう」

     フェリ 2066

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    3.遭遇・上
     三学級合同の野営訓練が始まった。全ての学生は必ず野営に使う天幕や毛布など資材を運ぶ班、食糧や武器等を運ぶ班、歩兵の班のどれかに入りまずは一人も脱落することなく全員が目的地まで指定された時間帯に到達することを目指す。担当する荷の種類によって進軍速度が変わっていくので編成次第では取り残される班が出てくる。

    「隊列が前後に伸びすぎないように注意しないといけないのか……」
    「レオニーさん、僕たちのこと置いていかないでくださいね」

     ラファエルと共に天幕を運ぶイグナーツ、ローレンツと共に武器を運ぶレオニーはクロードの見立てが甘かったせいでミルディンで戦死している。まだ髪を伸ばしていないレオニー、まだ髪が少し長めなイグナーツの幼気な姿を見てクロードの心は勝手に傷んだ。

    「もう一度皆に言っておくが一番乗りを競う訓練じゃあないからな」

     出発前クロードは念を押したが記憶通りそれぞれの班は持ち運ばねばならない荷の大きさが理由で進軍速度の違いが生じてしまった。身軽な歩兵がかなり先の地点まで到達し大荷物を抱える資材班との距離は開きつつある。

    「ヒルダさん、早すぎる!」
    「えー、でも 2073

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    MAIKING「説明できない」
    青ロレ赤クロの話です。
    6.初戦・下

     クロードから自分たちを襲った盗賊の討伐が今節の課題だと告げられた皆は初陣だと言って沸き立っていた。金鹿の学級は騎士を目指す平民が目立つ学級で入学以前に領主の嫡子として盗賊討伐を体験している者はクロードとローレンツしかいないらしい。クロードはローレンツの印象よりはるかに慎重で毎日先行したセイロス騎士団がどの方面へ展開していったのか細かく記録をつけ皆に知らせていた。セイロス騎士団に追い込んでもらえるとはいえどこで戦うのかが気になっていたらしい。

     出撃当日、支度を整え大広間で待つ皆のところへベレトがやってきた時にはローレンツたちはどこで戦うのか既に分かっていた。

    「騎士団が敵を追い詰めたそうだね。場所はザナド……赤き谷と呼ばれている」

     そう言えばクロードはザナドが候補に上がって以来やたら彼の地についた異名の由来を気にしていた。赤土の土地なのか赤い花でも咲き乱れているのか。土地の異名や古名にはかつてそこで何があったのかが表されていることが多い。土地の環境によっては毒消しが必要になる場合もある。だが先行した騎士団によると特殊な条件は何もない、とのことだった。初陣の者た 2081