Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    111strokes111

    @111strokes111

    https://forms.gle/PNTT24wWkQi37D25A
    何かありましたら。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 323

    111strokes111

    ☆quiet follow

    蒼月ルートのクロロレです。

    家出息子たちの帰還.4───フォドラの常識で言えば身体が一つであるように霊魂も一つだ。だが近隣諸国にはそのように考えない人々が存在する。精神を司る霊魂と肉体を司る霊魂の二つがある、と考える人々もいれば五つだと考える人々もいる(中略)失われた霊魂を身体に戻すことによって身体は健康をとり戻す。では失われた霊魂は何処にあるのか。巫者は目に見えない霊魂の所在を明らかにせねばならない───

     ロナート卿の名を耳にして叔父の顔がよぎったディミトリは叛乱についてレアとセテスから話を詳しく聞きたかったのだが、通り抜ける風が耳元でやかましく騒ぐ。《お前も仇を討て、殺せ、首を、》無駄だと分かっているが大きな溜息をついた。彼も、彼の民も破滅させられる。全てが終わった後を任されるのは辛いがせめて戦後の処理が苛烈にならないよう尽力するしかない。
     青獅子の学級全体が重苦しい雰囲気に包まれていた。こういう時は死人の声が大きくなる。喉の奥に鉛が詰まっているような気がして、追い払うための溜息すらうまく出せなかった。
    「ディミトリ、ちょっといいか?」
     流石に昨今の雰囲気に飲まれたのか、クロードは少し申し訳なさそうな顔をしている。ドゥドゥーから陽にあたるべき、と言われたディミトリは何をするでもなく中庭の長椅子に座らされていた。幼い頃から彼は時々、謎の提案をしてくる。
    「構わない」
    「アッシュは夜、きちんと眠れてるのか?」
     他人にあまり聞かれたくないのかクロードはディミトリにそっと耳打ちをした。 《こいつも、おきてる》ドゥドゥーの言う通り陽にあたっているのに生垣の隙間から声がした。それでも敵だらけの王宮にいる時より耳にまとわりつく声は弱々しい。
    「気丈に振舞っているので正直いって分からない。……俺に頼り甲斐がないのだろうな」
    「王子様の前だ。格好をつけたいのさ」
     そう言うとクロードは肩をすくめた。レスターの学生たちは彼の前でいつも寛いでいる。
    「少し歯痒いがアッシュと親しいものに、俺の代わりに聞いてもらうことにしよう」
     シルヴァンかドゥドゥが相手ならアッシュも安心して辛さを吐露してくれるかもしれない。
    「俺は薬の調合に興味があってね。もし役に立てそうな……あ!」
     クロードは何かを思い出したらしく、突然手で口を隠した。
    「どうした?」
    「悪い。厩舎掃除の当番だったから行かないと……ローレンツはうるさいんだよ」
    「そうか。では行ってくるといい。提案に感謝する」
     ディミトリから出しゃばりと言われずに済んでほっとしたのか中庭を去るクロードの足取りは軽かった。



     ロナート卿の叛乱について一報が入って以来、ローレンツはあまり機嫌が良くない。だから話し合いたいことがあるから部屋に来ないか、というクロードの提案に無条件で彼が乗るとは思わなかった。
     無条件ではあったが、一応床のものは拾い上げた。行き先がなかったのでとりあえず寝台の上にぶちまけてある。
    「ローレンツ、少しだけフェルディアにいたことあるんだろ?」
     杯を手にローレンツは頷いた。政情不安の煽りを受けて魔道学院には長居できなかったことは知っている。クロードは脳裏にローレンツの父エルヴィンの顔を思い浮かべた。慎重な彼ならロナート卿のような行動は絶対に起こさない。
    「何が聞きたい。僕は君に聞かせたい話などないぞ。それとも、この僕に聞いてもらいたい話があるのか?」
     今回、課題に協力したのはマリアンヌだ。当初は後詰としてガスパール領に入り、戦闘終了後の諸事を補佐せよという話だったので負傷兵の治療を目的とした真っ当な人選と言える。その場で作戦の変更があったようなので今こそ薬草を使った煎じ薬の出番かもしれない。
    「ディミトリは学生をやってる場合だと思うか?」
     紫色の瞳がクロードを真っ直ぐ見つめた。クロードから何を問われたのか彼は完全に理解している。実際にローレンツは一度、学生であることを諦めた。
    「何か事情があるのだろう。だがそれでも何故、王位を空白にしているのか僕には理解できない」
    「だよな!」
     ローレンツと同意見であることが素直に嬉しい。ペトラが似たような状況に陥ったらすぐにブリギットへ帰国するだろう。
    「中央教会の祝福によって国が成ったとはいえ、裁判と死刑執行を……」
     ───委託するなどあり得ない───お膝元では開陳し難い意見だ。彼が言い淀む気持ちもよく分かる。
    「あり得ないよな!青獅子の連中が受け入れてるのが本当に分からなくて!いや、ほっとした」
     だからクロードはローレンツの言葉に大袈裟に反応して、最後まで言わせなかった。言わせないための気遣いでしかなかったのに彼の前ではしゃげたことが何故か嬉しい。



     ドゥドゥーがディミトリの異変に気がついたのは引き取られてすぐ、まだ幼い頃のことだった。周りにダスカーの民はなく、まだフォドラ語も覚束ない。仕方ないので彼は主人を黙って観察することにした。
     夜も眠らず食が細く、誰もいないところに向かって話しかけている。頭も酷く痛そうだった。両親と妹を亡くしたばかりのドゥドゥーもまだ体調が万全というわけではないし、ひどく気が塞いでいる。それでもディミトリのようにはならない。
     数日後、幼いドゥドゥーは結論を出した。彼の主人、命の恩人ディミトリは死霊に取り憑かれている。だが周りの大人は気がついていない。残念ながら王宮に巫者は出入りしていないようだった。
     ダスカーでは巫者の使う呪具を作る鍛冶屋も多少は神聖な力を持っている、と言われる。亡くなった父は普通の鍛冶屋で客の中に巫者は居なかった。ドゥドゥは父の仕事を手伝っていただけに過ぎないが───それでも出来ることをするしかない。
     ドゥドゥーは毎日、王宮のごみ捨て場を漁った。目的のものを台所から盗み出すことは可能だったが、発覚すればディミトリの立場が悪くなる。ひしゃげたおたまと小さな鍋を見つけた時は目元が熱くなるくらい嬉しかった。
     これまでのごみ漁りで薪の代わりになりそうな木材も火打石も銅貨も見つけたし、金属の棒は何本も手に入れている。ディミトリに頼んで折って貰えば三脚を作るのは容易い。
    「何を作るの?」
     身振り手振りでお願いすると意図を察したディミトリがドゥドゥーの指示した通りの長さに棒を折ってくれた。彼の目の前で小さな三脚を作り、水を入れた鍋を引っ掛けて暖炉の中に置く。王宮の大人たちはディミトリに膝をつく癖に部屋の薪をしょっちゅう切らす。正直言って不満に思っていたが、今は都合が良かった。
    「すごい!魔法みたいだ!それで何をするの?」
     久しぶりにディミトリが微笑んでいる。
    「……お湯を作る」
    「お湯を沸かす、だよ。ドゥドゥー」
     ディミトリは優しく言い回しを訂正してくれて、冷え切った部屋がそれだけであったかくなったような気がした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖👏👏👏👏💞💞💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    111strokes111

    DONE #クロロレ春のこども祭り2021重力から自由になったと思った矢先、クロードは全身に強い痛みを感じた。跳ね起きようとしてマヌエラ先生から身体を押さえられる。押さえられた拍子に視界がぐるぐると回りやがて上下が定まった。

    「落ち着きなさいクロード!貴方は飛竜から落ちたの。下敷きになったローレンツも骨折したわ。二人とも信仰魔法で治したけれど大怪我だったから落ち着くまで時間がかかるわ」

     落ち着く、とはなんだろうか。信仰魔法の主な副作用は吐き気と眩暈だ。先程マヌエラが起きあがろうとしたクロードを止めたのはせっかく治したのに目眩を自覚せず歩こうとして転倒されては無意味になってしまうからだろう。

    「ああ、それで視界がぐるぐると……それとローレンツが下敷きって??」
    「ローレンツも無事だから落ち着きなさい。目眩を起こしたまま歩くのは本当に危ないの。人によって体質の違いがあるけれど一日か二日は絶対安静よ」

    「せんせい、もうしわけないのだがおけをぼくのてもとにいただけないだろうか?」

     反対側の寝台から声変わり前の高くてかわいらしい子供の声がした。医務室の寝台には全て幕が掛かっていて互いが見えないようになっている。

    「ああ、 1753

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    4.遭遇・下
     犠牲者を一人も出すことなく野営訓練を終えて修道院に戻ることが出来た。ローレンツのほぼ記憶通りではあるが異なる点がある。ベレトが金鹿の学級の担任になったのだ。正式に採用された彼は既に士官学校から学生の資料を貰っている。だがグロンダーズで行われる模擬戦を控えたベレトはここ数日、放課後になると学級の皆に話を聞くため修道院の敷地内を走り回っていた。

     ローレンツはあの時、模造剣を配ろうとしたのは何故なのかとベレトに問われたが予め野盗達に襲われているのを知っていたから、とは言えない。言えば狂人扱いされるだろう。

    「歩兵の足が早すぎたからだ。補給部隊が本体と分断されたら敵に襲われやすくなる」

     食糧がなければ兵たちは戦えない。敵軍を撤退させるため戦端を開く前に物資の集積所を襲って物資を奪ったり焼き払ってしまうのは定石のひとつだ。ローレンツの言葉聞いたベレトは首を縦に振った。

    「それで足止めして予備の武器を渡したのか。装備をどうするかは本当に難しいんだ。あの場合は結果として合っていたな。良い判断をした」
    「ありがとう先生。そう言ってもらえると霧が晴れたような気分になるよ」

    2068

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    11.末路・上
     クロードは先日、あんなことをしでかしておきながら怯えさせてすまない、とローレンツから逆に謝られてしまった。あれから何度か時間をとって話し合いをしてみたが互いの知る未来にかなり大きな食い違いがあることが分かりその後はおかしな雰囲気にはなっていない。

     細かな違いはあれどクロードの祖父が体調を崩し盟主代理として円卓会議に出席すること、それとマイクランが破裂の槍を盗み出すことは共通していた。

    「俺はマイクランが討ち取られたという話しか知らない」

     クロードの知る過去でもローレンツの知る過去でも級長が不在の可能性があるなら、と言うことで金鹿の学級はコナン塔へ行かなかった。

    「そちらでも箝口令が敷かれていたのか」

     教会は何かを隠している、というのが元からのクロードの主張なので教会の態度に矛盾はない。ベレトから馬の面倒を見るように命じられた二人はそれぞれ別の馬に新しい水や飼い葉を与え体を拭き尻尾の毛に櫛をかけ絡まっている塵を取り除いてやっている。いななきや馬が立てる物音が話し声を隠してくれた。今後の展開が色々と気になるところだが今回も祖父ゴドフロアの具合が悪くなるなら 2156