Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    111strokes111

    @111strokes111

    https://forms.gle/PNTT24wWkQi37D25A
    何かありましたら。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 323

    111strokes111

    ☆quiet follow

    蒼月ルートのクロロレです。

    家出息子たちの帰還.15───祖霊や神霊に選ばれて巫者になるものは精神に異常をきたすことが多い。あるはずがないものを見て聞こえないはずの声を聞くうちに日常に支障が生じるのは想像に難くない。だがこうやって祖霊や神霊は巫者候補が他者を二心なく助けられる人物であるかどうか確かめているのだという。選ばれたものが祖霊や神霊の指示に逆らって巫者にならないと今度は家族や飼っている動物の命を奪うのだ───


     あの日のディミトリはグレンの断末魔を聞いた。父の首が落ちるところを見た。にも関わらず首謀者の姿だけは見ることが叶わなかった。《許さない、殺す前に手足をもいでやる》あの日以来、死者は毎日ディミトリの耳元で首を捧げよと訴えて来る。名前が分からなければ、顔が分からなければこの手で首を捩じ切ることもできない。だがそんな歯痒い日々は地道な努力とは関係なく終わりを告げた。
    「後は成すべきことを成すだけだ。そうすれば俺たちは結果に左右されない」
     大袈裟な身振り手振りで話したクロードは口を閉じ、静かな教室でディミトリの返事を待っている。
    「そうだな」
     時を知らせる鐘が鳴るたびにディミトリの胸も高鳴った。悲願が達成される瞬間も近い。エーデルガルトが大軍を率いていてもディミトリ個人には関係なかった。《しくじるな、逃げられる前に手足をもげ》心の霧は晴れ、いつもより遠くが見渡せるような気がする。
    「全員、無事に帰宅させてやりたいんだよ」
    《早く、王都の城門に首を晒せ》
    「問題ない。頭を潰せばいいだけだ」
     ドゥドゥーが分かりやすく咳き込んだ。だがクロードもヒルダも怪訝な顔すらしない。それでも場を取り繕いたくてディミトリはぎこちなく微笑んだ。伯父のリュファスはこういう時に嫌悪感を露わにする。だが二人ともその身に紋章を宿しているせいか、不自然な笑顔もきちんと無視してくれた。その陽気な柔軟さがありがたい。
    「私たちはどうしても北と東に分かれちゃうから協力してほしいんだよねー」
     ヒルダが最初にドゥドゥーの腕を取ったのは上手いやり方だったと思う。二人の思惑通り、少し動揺したディミトリも釣られて無人の教室に入る羽目になってしまった。
    「教会も俺たち全員に殉死してほしいわけじゃないだろ?踏みとどまるかどうかの基準は絶対に必要だ」
    《臆病者!首を捩じ切る千載一遇の機会を奪うな!》クロードの言葉にドゥドゥーが頷いている。それなら亡霊たちがどう思うかはともかく、ディミトリ個人に反対する理由などない。

     
     ディミトリとドゥドゥーがクロードたちの教室から去った後、ヒルダは手巾で額の汗を拭った。日頃は軽薄な態度が目立つがこういう時は本当に頼りになる。
    「手伝ってくれて助かった。やっぱりまず王子様に話を通しておかんとなあ」
     そういうとクロードは手の甲で額の汗を拭った。ディミトリには二心がある。こちらを裏切ろうとしているとかそういった類のことではない。ただ事実として心が二つある。
    「ラファエルくんは気にしないだろうけどさ、ローレンツくんはどう思ってるの?何か聞いた?」
     そもそもクロードに何だかディミトリの様子がおかしい、と教えてくれたのはローレンツなのだ。夜に二人で語り合い、それぞれに意見を固めたと言っても過言ではない。
     ディミトリは先王の血を引き、ブレーダッドの紋章をその身に宿すたった一人の王子だ。周囲の大人たちが彼の二心に向き合わねばならない。だが彼の心に巣食うもう一つの心は周囲の大人たちの心と完全に重なる。
    「あいつの考えも俺たちと似たようなもんさ」
    「エーデルガルトちゃんだけ考えが違うんだね。どうしてなんだろう?」
     おそらくその答えが世に広く知られる時にディミトリかエーデルガルト、どちらかが命を落とす。それくらい決定的な破綻があったのだ。
    「答え合わせは当分先になる筈だ」
    「その時まで無事でいないとね。じゃあ私、大広間に行くからクロードくんは頑張って」
    「途中でベレト先生とすれ違ったら俺が探してた、とだけ伝えておいてくれ」
     大広間では話し合いのため教室を無人にするのに協力してくれた級友たちが結果を待っている。そこそこ好ましい結論が出たせいかヒルダの後ろ姿は嬉しそうだった。クロードはこれからいつも敷地内を駆け回っているベレトを捕まえ、レアとアロイスの元へ行って撤退する際の物資を分けてもらえないか交渉せねばならない。
     ディミトリは勝敗を気にしていないがおそらくセイロス騎士団は敗北する。エーデルガルトは大軍を擁している上にアビスも含めたガルグ=マクの敷地や建物の構造に詳しいからだ。


     ドゥドゥーとアネットは倉庫にいた。可能な限り帝国軍に抗うつもりだがそれでも限界はある。
    「ベレト先生にお願いされたんだけど、元はクロードの提案なんだって」
     くしゃみをした後でアネットが教えてくれた。倉庫には火の気がないので小柄で筋肉の少ないアネットは居るだけで身体が冷えてしまうのだろう。
    「軽薄に見えても皆のことを考えて行動できるということだ」
     計算高いクロードが大軍を前にしても義理を優先していることは素直にありがたい。これ以上情勢が混沌としたら困惑したままで全てが終わってしまう。
     とにかく帝国軍がこちらに到着する前にセイロス騎士団の厚意で分けてもらった食料や薬の数を正確に数え、皆に分配しなくてはならない。アネットから間違いがないように手伝ってほしい、と言われたドゥドゥーは棚の上から箱を下ろした。小柄なアネットが無理に下ろしたら中身を割ったかもしれない。
    「私、士官学校に来てよかった。殿下とも色んなお話ができたし、ドゥドゥーとお友達になれたしローレンツにも謝ってもらえたしから」
    「謝る?」
     アネットはドゥドゥーに魔道学院でローレンツから迷子の町娘に間違われたことを話してくれた。気持ちはわからなくもない。アネットは苦労や努力がわかりにくい見た目をしている。彼女もいつかヒルダのように己の外見を利用するような強かさを身につける日が来るのだろうか。
    「ドゥドゥー、五年後の同窓会もだけど……私、殿下の戴冠式がすっごく楽しみなの!王国なのが嫌だ、って独立して出来たのが同盟だけど、こうして協力も出来てるしクロードやローレンツもフェルディアに招かれるといいなーって」
     ドゥドゥーはフェルディアの王宮にローレンツやクロードがいる様子を想像してみた。玉座に座るディミトリの御前でも騒々しくしているだろう。
    「そうだな。こうして協力できたならそんな日が来るのかもしれない」
    「すっごく怖いけど、その日のためにやれることは全部やっておこうね!」
     アネットの望む未来はドゥドゥーも復讐を果たした後のディミトリも望む未来だ。だがディミトリは本懐を遂げるその日まで、未来を見ることがないような気がしている。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖🙏🙏🙏😭😭😭😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    111strokes111

    DONE #クロロレ春のこども祭り2021重力から自由になったと思った矢先、クロードは全身に強い痛みを感じた。跳ね起きようとしてマヌエラ先生から身体を押さえられる。押さえられた拍子に視界がぐるぐると回りやがて上下が定まった。

    「落ち着きなさいクロード!貴方は飛竜から落ちたの。下敷きになったローレンツも骨折したわ。二人とも信仰魔法で治したけれど大怪我だったから落ち着くまで時間がかかるわ」

     落ち着く、とはなんだろうか。信仰魔法の主な副作用は吐き気と眩暈だ。先程マヌエラが起きあがろうとしたクロードを止めたのはせっかく治したのに目眩を自覚せず歩こうとして転倒されては無意味になってしまうからだろう。

    「ああ、それで視界がぐるぐると……それとローレンツが下敷きって??」
    「ローレンツも無事だから落ち着きなさい。目眩を起こしたまま歩くのは本当に危ないの。人によって体質の違いがあるけれど一日か二日は絶対安静よ」

    「せんせい、もうしわけないのだがおけをぼくのてもとにいただけないだろうか?」

     反対側の寝台から声変わり前の高くてかわいらしい子供の声がした。医務室の寝台には全て幕が掛かっていて互いが見えないようになっている。

    「ああ、 1753

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    5.初戦・上
     三学級対抗の模擬戦はクロード達の勝利に終わった。これもクロードの記憶とは異なっている。容赦のなかったベレスの記憶があるクロードは事前に何か工作するかベレトに探りを入れてみたが拒否された。こんな下らないことに全力を尽くすなという意味なのか気高い倫理観の持ち主なのかはまだクロードには分からない。腹下しの薬は冗談だったが賛同してもらえたら武器庫に忍び込んで他学級の使う武器の持ち手にひびを入れてしまうつもりだった。

     母国やデアドラと比べるとガルグ=マクは肌寒い。気に食わない異母兄が王宮で働く女官を寝室に引っ張り込むような寒さだ。それでも来たばかりの頃と比べればかなり暖かくなっている。過酷な太陽の光に慣れたクロードの目にも山の緑は目に眩しく映った。長時間、薄暗い書庫で本を物色していたからだろうか。廊下に差す光に緑の目を細めながら歩いていると大司教レアの補佐を務めるセテスに声をかけられた。クロードは規則違反に目を光らせている彼のことがあまり得意ではない。

    「ちょうど良かった。クロード、後でベレトと共にこちらに顔を出しなさい」
    「分かりました。セテスさんは先生が今どの辺りにいる 2100

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    16.鷲獅子戦・下
     ローレンツがグロンダーズに立つのは二度目だ。一度目はローレンツの認識からすると五年前でベレト率いる青獅子の学級が勝利している。敗因は堪え切れずに飛び出してしまったローレンツだ。更に危険な実戦で囮をやらされた時に堪えられたのだから今日、堪えられないはずはない。

     赤狼の節と言えば秋の始まりだが日頃山の中の修道院にいるので平原に下りてくると暖かく感じた。開けた土地は豊かさを保証する。グロンダーズ平原は穀倉地帯でアドラステア帝国の食糧庫だ。畑に影響が出ない領域で模擬戦は行われる。模擬戦と言っても怪我人続出の激しいもので回復担当の学生はどの学級であれ大変な思いをするだろう。

     ベレトが持ってきた地図を見て思うところがあったのかクロードは慌ててレオニーとラファエルを伴って教室から駆け出し書庫で禁帯出のもの以外グロンダーズに関する本を全て借り上げてきた。皆に本を渡し地形描写がある物とない物に仕分けさせた。この時、即座に役に立たない本だけを返却させている。情報を独占し他の学級に無駄足を踏ませた。クロードのこういう所がローレンツは会ったこともないべレスから疎まれたのかもしれない。
    2376