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    蒼月ルートのクロロレです。

    家出息子たちの帰還.15───祖霊や神霊に選ばれて巫者になるものは精神に異常をきたすことが多い。あるはずがないものを見て聞こえないはずの声を聞くうちに日常に支障が生じるのは想像に難くない。だがこうやって祖霊や神霊は巫者候補が他者を二心なく助けられる人物であるかどうか確かめているのだという。選ばれたものが祖霊や神霊の指示に逆らって巫者にならないと今度は家族や飼っている動物の命を奪うのだ───


     あの日のディミトリはグレンの断末魔を聞いた。父の首が落ちるところを見た。にも関わらず首謀者の姿だけは見ることが叶わなかった。《許さない、殺す前に手足をもいでやる》あの日以来、死者は毎日ディミトリの耳元で首を捧げよと訴えて来る。名前が分からなければ、顔が分からなければこの手で首を捩じ切ることもできない。だがそんな歯痒い日々は地道な努力とは関係なく終わりを告げた。
    「後は成すべきことを成すだけだ。そうすれば俺たちは結果に左右されない」
     大袈裟な身振り手振りで話したクロードは口を閉じ、静かな教室でディミトリの返事を待っている。
    「そうだな」
     時を知らせる鐘が鳴るたびにディミトリの胸も高鳴った。悲願が達成される瞬間も近い。エーデルガルトが大軍を率いていてもディミトリ個人には関係なかった。《しくじるな、逃げられる前に手足をもげ》心の霧は晴れ、いつもより遠くが見渡せるような気がする。
    「全員、無事に帰宅させてやりたいんだよ」
    《早く、王都の城門に首を晒せ》
    「問題ない。頭を潰せばいいだけだ」
     ドゥドゥーが分かりやすく咳き込んだ。だがクロードもヒルダも怪訝な顔すらしない。それでも場を取り繕いたくてディミトリはぎこちなく微笑んだ。伯父のリュファスはこういう時に嫌悪感を露わにする。だが二人ともその身に紋章を宿しているせいか、不自然な笑顔もきちんと無視してくれた。その陽気な柔軟さがありがたい。
    「私たちはどうしても北と東に分かれちゃうから協力してほしいんだよねー」
     ヒルダが最初にドゥドゥーの腕を取ったのは上手いやり方だったと思う。二人の思惑通り、少し動揺したディミトリも釣られて無人の教室に入る羽目になってしまった。
    「教会も俺たち全員に殉死してほしいわけじゃないだろ?踏みとどまるかどうかの基準は絶対に必要だ」
    《臆病者!首を捩じ切る千載一遇の機会を奪うな!》クロードの言葉にドゥドゥーが頷いている。それなら亡霊たちがどう思うかはともかく、ディミトリ個人に反対する理由などない。

     
     ディミトリとドゥドゥーがクロードたちの教室から去った後、ヒルダは手巾で額の汗を拭った。日頃は軽薄な態度が目立つがこういう時は本当に頼りになる。
    「手伝ってくれて助かった。やっぱりまず王子様に話を通しておかんとなあ」
     そういうとクロードは手の甲で額の汗を拭った。ディミトリには二心がある。こちらを裏切ろうとしているとかそういった類のことではない。ただ事実として心が二つある。
    「ラファエルくんは気にしないだろうけどさ、ローレンツくんはどう思ってるの?何か聞いた?」
     そもそもクロードに何だかディミトリの様子がおかしい、と教えてくれたのはローレンツなのだ。夜に二人で語り合い、それぞれに意見を固めたと言っても過言ではない。
     ディミトリは先王の血を引き、ブレーダッドの紋章をその身に宿すたった一人の王子だ。周囲の大人たちが彼の二心に向き合わねばならない。だが彼の心に巣食うもう一つの心は周囲の大人たちの心と完全に重なる。
    「あいつの考えも俺たちと似たようなもんさ」
    「エーデルガルトちゃんだけ考えが違うんだね。どうしてなんだろう?」
     おそらくその答えが世に広く知られる時にディミトリかエーデルガルト、どちらかが命を落とす。それくらい決定的な破綻があったのだ。
    「答え合わせは当分先になる筈だ」
    「その時まで無事でいないとね。じゃあ私、大広間に行くからクロードくんは頑張って」
    「途中でベレト先生とすれ違ったら俺が探してた、とだけ伝えておいてくれ」
     大広間では話し合いのため教室を無人にするのに協力してくれた級友たちが結果を待っている。そこそこ好ましい結論が出たせいかヒルダの後ろ姿は嬉しそうだった。クロードはこれからいつも敷地内を駆け回っているベレトを捕まえ、レアとアロイスの元へ行って撤退する際の物資を分けてもらえないか交渉せねばならない。
     ディミトリは勝敗を気にしていないがおそらくセイロス騎士団は敗北する。エーデルガルトは大軍を擁している上にアビスも含めたガルグ=マクの敷地や建物の構造に詳しいからだ。


     ドゥドゥーとアネットは倉庫にいた。可能な限り帝国軍に抗うつもりだがそれでも限界はある。
    「ベレト先生にお願いされたんだけど、元はクロードの提案なんだって」
     くしゃみをした後でアネットが教えてくれた。倉庫には火の気がないので小柄で筋肉の少ないアネットは居るだけで身体が冷えてしまうのだろう。
    「軽薄に見えても皆のことを考えて行動できるということだ」
     計算高いクロードが大軍を前にしても義理を優先していることは素直にありがたい。これ以上情勢が混沌としたら困惑したままで全てが終わってしまう。
     とにかく帝国軍がこちらに到着する前にセイロス騎士団の厚意で分けてもらった食料や薬の数を正確に数え、皆に分配しなくてはならない。アネットから間違いがないように手伝ってほしい、と言われたドゥドゥーは棚の上から箱を下ろした。小柄なアネットが無理に下ろしたら中身を割ったかもしれない。
    「私、士官学校に来てよかった。殿下とも色んなお話ができたし、ドゥドゥーとお友達になれたしローレンツにも謝ってもらえたしから」
    「謝る?」
     アネットはドゥドゥーに魔道学院でローレンツから迷子の町娘に間違われたことを話してくれた。気持ちはわからなくもない。アネットは苦労や努力がわかりにくい見た目をしている。彼女もいつかヒルダのように己の外見を利用するような強かさを身につける日が来るのだろうか。
    「ドゥドゥー、五年後の同窓会もだけど……私、殿下の戴冠式がすっごく楽しみなの!王国なのが嫌だ、って独立して出来たのが同盟だけど、こうして協力も出来てるしクロードやローレンツもフェルディアに招かれるといいなーって」
     ドゥドゥーはフェルディアの王宮にローレンツやクロードがいる様子を想像してみた。玉座に座るディミトリの御前でも騒々しくしているだろう。
    「そうだな。こうして協力できたならそんな日が来るのかもしれない」
    「すっごく怖いけど、その日のためにやれることは全部やっておこうね!」
     アネットの望む未来はドゥドゥーも復讐を果たした後のディミトリも望む未来だ。だがディミトリは本懐を遂げるその日まで、未来を見ることがないような気がしている。
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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    5.初戦・上
     三学級対抗の模擬戦はクロード達の勝利に終わった。これもクロードの記憶とは異なっている。容赦のなかったベレスの記憶があるクロードは事前に何か工作するかベレトに探りを入れてみたが拒否された。こんな下らないことに全力を尽くすなという意味なのか気高い倫理観の持ち主なのかはまだクロードには分からない。腹下しの薬は冗談だったが賛同してもらえたら武器庫に忍び込んで他学級の使う武器の持ち手にひびを入れてしまうつもりだった。

     母国やデアドラと比べるとガルグ=マクは肌寒い。気に食わない異母兄が王宮で働く女官を寝室に引っ張り込むような寒さだ。それでも来たばかりの頃と比べればかなり暖かくなっている。過酷な太陽の光に慣れたクロードの目にも山の緑は目に眩しく映った。長時間、薄暗い書庫で本を物色していたからだろうか。廊下に差す光に緑の目を細めながら歩いていると大司教レアの補佐を務めるセテスに声をかけられた。クロードは規則違反に目を光らせている彼のことがあまり得意ではない。

    「ちょうど良かった。クロード、後でベレトと共にこちらに顔を出しなさい」
    「分かりました。セテスさんは先生が今どの辺りにいる 2100

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    8.背叛・下
     雷霆を振るうカトリーヌの名を聞いた者に多少なりとも英雄の遺産や紋章の知識があったならばそれがとんだ茶番だと判るだろう。だが無謬であるセイロス教会が彼女をカサンドラではなくカトリーヌと呼ぶのならそれに従うしかない。カロン家当主としても令嬢カサンドラに死なれるよりはガルグ=マクで生きていてくれた方が良いのだろう。

     ローレンツは霧深い街道をガスパール城に向けて黙々と進んでいた。前方ではクロードとベレトとカトリーヌが何やら話している。五年前、ローレンツは帝国軍が破竹の快進撃を見せた時に正直言ってファーガス神聖王国がほぼ崩壊したと思った。今の彼らの会話を耳にしてもファーガスが凋落しているという印象が深まっていく。青獅子の学級の学生たちは士官学校に入る前に初陣を済ませている者が多いのはダスカーの悲劇以降小規模な騒乱が後を立たずにいるからだ。

     だからあの時ローレンツはフェルディナントと共にミルディン大橋に立った。ファーガスは近々自壊するだろうしパルミラとの国境を守りながら強大な帝国に抗う力が同盟にはない。ならばせめて領地と領民を守りたいと思ったからだ。霧の立ちこめる行路は人生 2090

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    11.末路・上
     クロードは先日、あんなことをしでかしておきながら怯えさせてすまない、とローレンツから逆に謝られてしまった。あれから何度か時間をとって話し合いをしてみたが互いの知る未来にかなり大きな食い違いがあることが分かりその後はおかしな雰囲気にはなっていない。

     細かな違いはあれどクロードの祖父が体調を崩し盟主代理として円卓会議に出席すること、それとマイクランが破裂の槍を盗み出すことは共通していた。

    「俺はマイクランが討ち取られたという話しか知らない」

     クロードの知る過去でもローレンツの知る過去でも級長が不在の可能性があるなら、と言うことで金鹿の学級はコナン塔へ行かなかった。

    「そちらでも箝口令が敷かれていたのか」

     教会は何かを隠している、というのが元からのクロードの主張なので教会の態度に矛盾はない。ベレトから馬の面倒を見るように命じられた二人はそれぞれ別の馬に新しい水や飼い葉を与え体を拭き尻尾の毛に櫛をかけ絡まっている塵を取り除いてやっている。いななきや馬が立てる物音が話し声を隠してくれた。今後の展開が色々と気になるところだが今回も祖父ゴドフロアの具合が悪くなるなら 2156

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    14.誘拐・下
     ローレンツとクロードの記憶通り事態は進行した。一つ付け加えるならばクロードがセテスにちょっかいを出したことだろうか。見当違いだと分かっていることを敢えてセテスに聞いたら先方が何故か安心した、とクロードから聞いてローレンツは眉を顰めた。やはりセイロス教会は何かを隠している。五年前から問題視していたクロードが正しかった。だがそれは大乱を起こす理由になり得るのだろうか。クロードは元から英雄の遺産と白きものについて探っていたがそれに加えてエーデルガルトが檄文で言及していた教会の暗部についても調べ始めた。

    「先に掴んで暴露してしまえば檄文自体無効になるかと思ったがそんな都合の良い案件は見当たらなかった。敢えて言うならダスカーがらみか?」
    「だがあれも機能不全に陥った王国の要請がなければ騎士団が担当することはなかっただろう」

     エーデルガルトが見つけたと称するセイロス教会がフォドラの全てを牛耳っている証拠とセイロス教会の秘密は同一なのだろうか、それとも違うのだろうか。探さねばならないものが増えてクロードは大変そうだ。大変そう、と言えばベレトも大変そうだ。彼は修道院内を丹念に探 2099