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    「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。

    24.儀式
     ローレンツたちは大広間で先生方から儀式についての説明を受けた。クロードは理にかなっていない、腑に落ちない、裏があるとしきりに言っていたが人智を超えた恩寵や奇跡なくして成り立つ宗教の方がローレンツには想像がつかない。静かにするように窘めたがクロードが緊張を紛らわす為に喋り続けている心境はローレンツにも理解できた。エーデルガルトが表舞台に立ちフォドラ中を戦乱に巻き込むその初日が今日だ。

     地下に降りる装置はワープの魔法ではなく機械仕掛けらしい。宗教施設の大掛かりな装置といえばさり気なく魔法を使ったものが多い印象だがどこにもそれらしい記述が見当たらなかった。大司教レアですら敵が攻めてくるとは知らず静かに喜びに浸っている。これほど巨大な空間が地下にあるとローレンツたちは知らなかった。この聖域を世俗の目から覆い隠すためにガルグ=マク修道院が建てられたらしい。世界を創造する役目を終えて眠りについた尊い存在の亡骸は聖遺物となりフォドラ中から信徒を呼び寄せていた。

     信心深いマリアンヌは聖なる墓所の内部を眺めることすら畏れ多いと言った風情で足元だけを見ている。多分どこかに腰か肩をぶつけるだろうからよく見ておいてやらねば、とローレンツが視線を動かすとクロードと目があった。

    「儀式って玉座に座るだけなのか?」

     クロードは儀式自体に疑いを持っている。確かにクロードの言う通りで女神の心とベレトが一体化して闇を喰らい再び地上に戻ってきたとならば誰が彼に啓示を与えるというのだろうか。

     ベレトは玉座に見覚えはあるものの着席しても特に思うところはないようだ。戸惑うベレトを見たレアは動揺が隠せずにいる。そうでなければ侵入者に真っ先に気づいたのがクロードということはなかっただろう。

     炎帝が率いている兵士たちの軍装をみてレオニーやヒルダが驚愕している。この場でローレンツとクロードだけが帝国の兵士たちに驚いていない。ローレンツも槍を構えていたがクロードもレアの命令を待つことなく弓に矢を番えていた。

    「魔獣は身動きが取れないから後回しでいい!弓の射程に入らないように気をつけて盗賊と兵士を狙え!」

     怒りと衝撃のあまり適切な指示が出せなくなっているレアに代わってベレトが指示を出す。一体、レアはベレトにこれ以上どうなって欲しかったのだろう。帝国も帝国についた諸侯に言葉を尽くして説明しなかったが教会にも大きな秘密がある。

    「墓荒らしの目的は一つだろ、炎帝さんよ。あんたは聖墓に眠るお宝を暴きに来た、と」
    「ふ、察しが良いな、道化師。ここにある紋章石はすべて貰い受ける。それを眠らせておいたところで、薬どころか毒にさえならぬ」

     ローレンツはフェルディナントと共にミルディン大橋に立った時、ある種の魔獣の正体を知らなかった。檄文で教会から社会を取り戻すと主張していたが人間を魔獣に変化させても勝利のためなら仕方ないとするエーデルガルトの導く社会はどんなものになるのだろうか。人間は自分に不利なことを隠すものだがこれはいくらなんでも酷すぎる。

    「撃ち合いなら負けませんよ!」

     イグナーツやレオニーのような平民でも弓の扱いが巧みなのがレスター諸侯同盟の特徴だ。矢は基本、使い捨てで装備を揃えるには手間か金銭のどちらかを必要とする。新興国だが元がファーガスの中でも豊かな地方なので稼ぎ頭として北部を支えていた。このローレンツ=ヘルマン=グロスタールとその友人フェルディナントを使い捨てにした帝国に豊かな自領を、レスターをくれてやるわけにはいかない。

     魔法は魔獣用に取っておかねばならないのでイグナーツが狙っている弓兵に向けてローレンツは手槍を投げた。顔や喉には当たらなかったが太腿に刺さったのでよしとする。とどめはイグナーツが刺すだろう。

    「ローレンツ!次はレオニーの援護!レオニー!一撃で仕留めようとするな!無力化すればそれでいい!」

     クロードの前衛を務めているベレトから矢継ぎ早に指示が入る。前しか向いていないように見えるのに背中や腕に目でもあるのか言うことがいちいち的確だ。フレンの誘拐やルミール村の件を問い詰めたいのかクロードを引き連れ突撃している。これは本当に珍しいことでやはりベレトも冷静でいられないのだろう。まだ仮面を被っているエーデルガルトの前衛の兵士たちを全て倒しクロードとベレトは彼女の目の前に立ちはだかった。

    「お前が噂の炎帝か。……なあ、教えてくれ。紋章石を使って何をするつもりなんだ?フレンの血を使って何をした?クロニエやソロンってのは何者だったんだ?」
    「……黙れ。貴様が知る必要はない」

     エーデルガルトとヒューベルトは文武両道を目指す士官学校で学生生活を過不足なくこなしながら二重生活を送っていたことになる。ちょっとした隙間時間にエーデルガルトたちの様子を探るだけでローレンツもクロードも精一杯だったのにその情熱はいったいどこから来るのだろうか。

     その情熱の源となった悪意を彼女に植え付けたのは何者なのだろうか。クロードの小芝居を無感動に眺めながらローレンツは答えが出ない問いに頭を悩ませていた。
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