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    クロヒルとロレマリ、シャンバラの辺りです。

     書いてる人間はこの2年間クロロレのR18本しか出していないのでTwitterアカウントは閲覧注意かもしれません。タイトルはそのうち決めます。

    #クロヒル
    blackHill
    #ロレマリ
    lloremali

    16.A(side:H) ヒューベルトが生前に残した手紙の件でクロードをはじめ調べ物が苦ではない者たちは書庫に籠ったりレアに話を聞きに行ったりと忙しそうだ。マリアンヌもローレンツも夜更けまでずっと何かを読んでいる。物資の調達を担当するヒルダはその集団に加わっていないがこの先の未来のために絶対に必要な調べ物なのだ、とマリアンヌもローレンツも言っていた。闇に蠢く者たちはガルグ=マクには光の杭を落とせないがそれもレアが存命であればという条件付きらしい。クロードたちはフォドラ統一後のことだけでなく既に五年間帝国軍に捕らえられ弱ったレアの死後についても考え始めていた。

     アンヴァルでのクロードの告白にヒルダは驚かされた。やるかやらないかそのどちらかしかない、と学びながら育ったクロードは自分自身を肯定するためにフォドラ全土を引っ掻き回したことになる。ファーガス神聖王国とアドラステア帝国が滅亡しレスター諸侯同盟の在り方も変化していく。その前にヒルダに伝えておきたかったようだ。疎まれるのが恐ろしくて出自について中々皆に言えなかった、というクロードの発想や心の中に根付く恐怖はマリアンヌとも重なる。クロードはヒルダの前でだけ気を失いヒルダの前でだけ震えていた。震えていたことに気づいたのは最後、抱きしめてやった時だったが。

    「やだ、エーデルガルトちゃんより私の方が怖いってこと?」

     そう言ってふざけてみたものの五年間持ち越された理由はヒルダにも納得できるものだった。だから統一国家の王にもならない、ではなく王にはなれないのだとクロードは言う。確かに大司教レアの代理を務めるフォドラ人のベレトこそが王には相応しい。

    「そうだな、怖いよ。嫌いなやつに嫌われるのなんかどうでもいいがヒルダは違う」
    「我らが盟主様がそんな顔しないでよ」
    「道半ばではあるんだがようやくここまで来たんだ。今更自分のことを嫌いになりたくない」

     あの時ヒルダが爪先立ちになったのはクロードが泣きそうな顔をしていたからだ。あんな顔を見せられて拒めるはずがない。いつも好奇心で輝いている緑の瞳があの時ばかりは潤んでいた。クロードは両親のことを誇らしく思っているがそれでも社会情勢の影響は受ける。自己否定や自己嫌悪に苛まれ苦しんだ結果クロードには掲げざるをえなかった理想があってそれを他者から壊されないように心にしまいこんで大切にしてきた。

    「頼りない盟主様の隣にはやっぱり私がいないとね!」

     ヒルダもそれを大切にしてやりたいと思う。クロードが好きだからだ。きっと口さがない者たちが嘲笑するだろうがクロードの理想を空虚だと嘯き現実に屈服する者たちよりも夢を見る力がある者の方が素晴らしいのだ。

     近々、光の杭が打てるような恐ろしい敵の元へ行くと言うのにあの時の少し幼げなクロードの表情を思い出すとヒルダは自然と微笑んでしまう。ヒルダの機嫌が良いと動物たちにもそれが伝わるようだ。ペガサスの羽根をそっと整え指で一つずつ塵を取り除いてやると嬉しそうに鼻をヒルダの頬に押し付けてきた。馬と同じく鼻先が温かく柔らかくて気持ちがいい。

    「あ、珍しくヒルダが仕事してる」

     ペガサスの厩舎を掃除しにやってきたツィリルがペガサスの手入れをしているヒルダを見て思わず呟いた。かつてヒルダはツィリルからパルミラではこんな怠け者を見たことがない、と言われている。ゴネリル領の実家にいた頃は更にひどくツィリルが使用人であったことすらヒルダは知らなかった。

    「マリアンヌちゃんに頼まれたのよ。手入れする人の機嫌が大事だから変わってほしいって」

     ヒルダが上機嫌な一方でマリアンヌはやはり塞いでいる。ヒルダには教えたくないと言う秘密を近々ローレンツに教えるつもりだからだ。

    「そうなんだ、マリアンヌって無口だけど真面目でどんな動物もあの人に面倒みられるのが好きなのにどうしたんだろ?」
    「おうちのことでいろいろあるみたい」
    「そうなんだ、一緒に食事でもしてあげなよ」

     勿論そのつもりだ、とヒルダは答えた。ツィリルに信頼されているマリアンヌがヒルダは誇らしい。気になるのはマリアンヌの告白に対してローレンツがどう反応するのか、だった。ヒルダにすら言えないようなことならばきっと彼女の秘密はグロスタール家にも悪い影響を及ぼす。ローレンツは将来の奥方のためマリアンヌとの付き合いを季節の挨拶程度にするのか?これからもせめて生涯に渡って良き友であってほしい、と言うのだろうか?ヒルダが聞いて一番小気味良いであろう答えはそんなことは全く気にしない、だ。しかしエドマンド辺境伯ですら解決出来ず金を積んで隠蔽しているような問題をローレンツ個人の心意気でなんとか出来るとは思えない。

     備品の場所も知らないのか、と学生時代はツィリルから叱られていたヒルダだが使っていた桶を元に戻し厩舎を去った。食事に行く前に部屋で身体を拭いて藁だらけになった服を着替えたいからだ。クロードとローレンツのようにヒルダとマリアンヌは学生時代と同じ部屋を使っている。隣同士で何かと面倒が見やすくて便利だ。

    「そろそろ食事に行かない?」

     身支度を終えたヒルダが部屋の扉を叩くと中で椅子を引いて立ち上がる音がした。廊下に出てきたマリアンヌは手に本を持っている。ローレンツに貸す約束をしているのだと言う。食堂に行く前に渡してしまおうとマリアンヌが扉を叩いて声をかけるとローレンツが出てきて大喜びで本を受け取った。かつては修道院の書庫にもあったがどうやら二十年前の大火で焼けてしまった本らしい。

     食堂に着くとヒルダはマリアンヌとローレンツが向かい合わせになるように座らせて自分はマリアンヌの隣に座った。いつもなら何も話さずただ幸せそうに相手をちらちら見ながら食事をする二人だが今日は話題がある。きっとマリアンヌの隣で食事をとりながらローレンツを観察しても不自然にはならない。ヒルダは観察していることを悟られないように全く興味はなかったが先ほどの本について二人に質問した。

     ヒューベルトの残した資料によると闇に蠢く者たちの本拠地はゴネリル領の近くにある。彼らがシャンバラと呼んでいるそこへ向かう前に近くの砦で休息を取っていた。ここで一晩過ごし朝になれば戦場に向かう。

    「ヒルダさんやゴネリル家には手間をとらせてしまったが首飾りに配置される兵のふりをして近づくことが出来て助かったな」

     ローレンツの言葉を聞いたマリアンヌが頷いた。首飾りに向かう兵を攻撃すれば自身の存在が宿願を果たす前に明るみに出てしまう。神話のような時代から復讐の機会を望んでセイロス教関係者から隠れてきた彼らには耐えがたいはずだ。

    「討ち漏らしたらゴネリル家の負担が増えちゃう!」
    「そうそう、だからヒルダは引き続き本気出してくれよな」

     クロードがそう言ってヒルダを揶揄うと周りの皆が釣られて笑った。この戦いが終わればクロードはおそらくフォドラを去る。迎えに来るのを待つのか自分から行くのかヒルダは決めねばならない。そしてクロードはヒルダの父ゴネリル公と兄ホルストを納得させなければならない。

     その晩、いつも使っている部屋で行軍に影響が出ない程度とは言えクロードのお粗末なサイレスがそれなりに役に立つようなことをしたヒルダはクロードが襯衣の下に首飾りをしていると初めて知った。喉元に視線が注がれていると気づいたクロードが首の後ろに手を回す。

    「死んだ叔父さんの形見でな。五年前は付けないで上着の隠しに入れて持ち歩いてたんだが失くしちまってな。マリアンヌに見つけて貰って以来失くさないように服の下に着けてたんだ」

     白い掌にそっと乗せられた首飾りは三日月と鹿の顔をかたどっており緑の瞳の者が多いリーガン家に相応しく鹿の顔が丸ごと翠玉で出来ていた。金細工で出来た顔の輪郭や角や顔を囲む三日月もよく出来ている。おそらくリーガン家の嫡子が代々受け継いできた逸品だ。

    「はぁ……私の知らないことばっかり」
    「お、もう声が出せるのか。俺やっぱり魔法の才能ないなあ」

     クロードから差し出された杯の水は先ほど身体を拭いた時と同様に生ぬるいが喉は潤すことが出来る。

    「こんないい物持ってるなら見えるようにつければいいのに」
    「う、故郷の風習がらみでそれはちょっとな……独り身の男はつけないんだよ」

     フォドラ暮らしも長いと言うのにクロードにはまだ受け入れ難い習慣があるらしい。

    「クロードくん、秘密があるってどんな気分なの?」
    「誰にだって隠しごとのひとつやふたつあるだろ?ヒルダだって今晩のことは家族に隠すだろうし」

     ヒルダはこの砦に元から置いておいた寝巻きを既に身に付けているが傍で伸びをするクロードはまだ暑いのか下穿きしか身に付けていない。褐色の身体には随分と傷跡が増えた。

    「……私に話してクロードくんは楽にはなったの?」
    「うーん……俺は元々俺の半分を恥じてた訳じゃあないからなあ……。あ、マリアンヌか!」

     片方の血を恥じろと言われるのが嫌でフォドラ中を引っかきまわしたクロードは近々、自分の国を引っかきまわしに戻るのだろう。新生軍の幹部たちは皆クロードの出身地について知っているが現時点でクロードの出自について知っているのはおそらくヒルダだけだ。そしてどうやらクロードはクロードでマリアンヌのことを案じていたらしい。確かに秘密を隠しながら学生生活を送った仲間でもある。

    「自分から遠ざかってもらうために近々ローレンツくんに秘密を打ち明けるって……」

     ヒルダは背中から抱きついてクロードに首飾りをつけてやりながらマリアンヌについて話した。クロードは背後から聞こえるヒルダの浮かぬ声でマリアンヌの秘密がどんな物であるか彼なりに察したらしい。
     
    「それ、絶対に上手くいかないと思うぞ」

     ローレンツがクロードに直接、気に食わないだの正体を暴くだのと宣言しながらしつこくまとわりついていた姿は強烈でヒルダも覚えている。そして今思えば彼はある意味真実に到達していた。

    「う、確かにローレンツくんって割り切り方が独特だわ」
    「俺はあいつの普通じゃあないところに期待するね」

     猜疑心の塊、を自称していた割にクロードはローレンツを信頼しているらしい。前衛と後衛で組まされることが多い分クロードはヒルダの知らないローレンツの顔を知っているのだろう。クロードの友人を信頼する姿勢が美しい、とヒルダは思った。

    「私もクロードくんが誰にも見られないで自分の部屋に戻れるって期待してるからね」

     ちなみにクロードに割り当てられた部屋は当然ローレンツの隣で体調不良を押してこの戦いに加わろうとしている大司教レアの寝室と同じ階だ。

     シャンバラと呼ばれる敵の本拠地はとにかく広大な地下空間で今まで誰もその存在に気づいていなかったと言う事実が地元の人間であるヒルダにとっては何よりも恐ろしい。それに加えてイグナーツもこの空間で使われている装飾はこれまで見たことがないものだ、と言っていた。リシテアの言う通り遥か昔の遺跡のようであるのに誰かが使っているせいか生活感があり気味が悪い。

     いくつかの部屋に分かれている内部は絡繰仕掛けの魔獣のような何か、としか言いようのないものが密集している。幸い魔法が良く効くのでリシテアとローレンツが扉の向こうから黒魔法を放って攻撃していた。

    「どんな罠がはられているか分からないから慎重に行こう」

     シャンバラに突入する寸前ベレトから言われた言葉にヒルダもクロードも耳を疑った。アンヴァルではベレトの立案した作戦が短期決戦型だったせいで二人揃って本当に酷い目に遭っている。

     慎重に中を確かめながら進み最後に残った真ん中の部屋に首魁と呼ぶべき者がいた。ヒルダが直接調べたわけではないがベレトがアンヴァルからガルグ=マクへ持ち帰らせた膨大な資料によると彼らがダスカーの乱と七貴族の変を起こしクロードの叔父一家を殺害しルミール村で惨劇を起こした。彼らのせいで人生が狂った者は数多く存在する。死者への手向けになると信じてヒルダもローレンツも必死になって斧と槍を振るいベレトとクロードの露払いをした。クロードがタレス相手に減らず口を叩く姿を見たかったしベレトのふるう天帝の剣がタレスに届くと知っていたからだ。
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    MAIKINGロレマリに続きようやくクロヒルの方もちょっとそれっぽくなってきたかもしれません。

    書いてる人間はこの2年間クロロレのR18本しか出していないのでTwitterアカウントは閲覧注意かもしれません。タイトルはそのうち決めます。
    7.B(side:L) ローレンツが厩舎の管理をマリアンヌと共に担当していた時に上空警備を担当していたクロードとヒルダが戻ってきた。金鹿の学級で軽業師の真似事が流行ったことがある。ナイフ投げも軽業もレオニーが飛び抜けて上手いのだがクロードも負けていない。下馬の際に左足を鎧から抜き忘れた人の真似、というのがクロードの得意技だ。羽ばたきやペガサスの嗎に混ざってヒルダが楽しそうに笑っている声が聞こえる。

    「また同じことを繰り返して……ヒルダさんも飽きたと言ってやれば良いのに寛容なことだ」
    「最初拝見した時は心臓が止まりそうになりました……」

     それはそうだろう。普通の馬であったとしても肝が冷える光景だがクロードはなんとそれを上空でやっているのだ。何かひとつでも間違いがあれば死にかねない。好きな人に良いところを見せたいと言う気持ちは分からなくもないがレスター諸侯同盟の次期盟主として相応しくない振る舞いなのは言うまでもなかった。
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    MAIKING何話か進めばクロヒルかつロレマリになる予定です。

    書いてる人間はこの2年間クロロレのR18本しか出していないのでTwitterアカウントは閲覧注意かもしれません。タイトルはそのうち決めます。
    4.C(side:H) マリアンヌの鉄筆をすぐに拾ってやれたことからも分かる通りローレンツは気になることがあるとつい目で追ってしまう癖があるようだ。そして自分が見られていることには無頓着らしい。断りきれずに食事を共にした女子学生はさぞ居心地が悪かっただろう、とヒルダは思う。

    「マリアンヌちゃん、何か困っていることはない?」

     先日、マリアンヌに書庫整理の手伝いをしてもらった結果全て自分で作業をする羽目になったヒルダは本格的に彼女が心配になった。マリアンヌには何か根本的な欠落がある。

    「特にないつもりです……」

     養父であるエドマンド辺境伯はマリアンヌとの関係を良好たしたいと考えているのだろう。こまめに手紙や差し入れが届く。だがローレンツから託された手紙をヒルダが渡した時マリアンヌは戸惑っていた。きっと理由を聞いても教えてくれないのだろう。無駄なことはしないに限る。身内になれない他人が踏み込むべきではない領域があるのだ。そう思ってヒルダがマリアンヌに対して引いていた線を数日前、ローレンツはあっさり越えた。
    2090

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    MAIKING何話か進めばクロヒルかつロレマリになる予定です。

    書いてる人間はこの2年間クロロレのR18本しか出していないのでTwitterアカウントは閲覧注意かもしれません。タイトルはそのうち決めます。
    2.C-(side:H) クロードは他人の喉元に入り込むのが上手い。ヒルダ自身も楽をするために他人の喉元に入り込む自覚があるのですぐに分かった。それにしても十代の男子が女子の体調を気遣うなんて珍しい。ディミトリもメルセデス辺りに頼んでいるのだろうか。そんな訳で不本意ながらヒルダは女子学生の意見をまとめクロードに伝える係をやっている。レオニーは臆さないが盟主の嫡子と言うだけで萎縮してしまう学生もいるのだ。

     一度役割を任されてしまえば期待に応えないわけにいかない。だからこそヒルダは期待をかけられることを嫌い責任というものから逃げ回っていたのだがそうなってみるとどうしても気になる同級生がいた。マリアンヌだ。とにかく何も話さずすぐに一人で厩舎へ行ってしまうので噂話だけが流れている。ダフネル家の代わりに五大諸侯に加わったやり手のエドマンド辺境伯は注目度が高い。おそらくヒルダの兄ホルストの次くらいに学生たちから注目されている。マリアンヌは彼のお眼鏡に叶って養女になったとか目ぼしい若者が彼女しかいなかったから仕方なく彼女を養女にしたとかそんな噂だ。クロードの耳にも当然入っている。
    2052

    111strokes111

    DONEクロヒル&ロレマリの話、ロレマリ後日談の話です。この話はこれでおしまいです。エドマンド辺境伯がらみの捏造が我ながら本当にヒッデェなと思います。

    書いてる人間はこの2年間クロロレのR18本しか出していないのでTwitterアカウントは閲覧注意かもしれません。タイトルはそのうち決めます。
    19.sequel:L&M 紋章を持つ貴族同士の婚姻は動物の品種改良と似ている。好ましい形質が確実に顕になるよう交配していくからだ。逆に好ましくない形質を持つものは間引かれる。マリアンヌの実父は"おこり"を恐れていた。モーリスの紋章を持つ子供はそれはそれは美しく生まれてくるのだという。両親は美しい乳児を愛さずにはいられない。子供は自分の一族にかかった呪いを知らずに育つが子供の成長と時を同じくして呪いはゆっくりと親を侵蝕していく。

     "おこり"、いや"興り"が訪れると最初はぼんやりする時間が増える。言動に異常をきたしてしまえばもう死ぬまで止まらない。人格が崩れ獣性が剥き出しになっていく。人格が崩れ社会的に破綻し最後はヒトの形を保てなくなる。ヒトのまま尊厳を保ち周囲から愛されて生涯を終えたいなら早く死ぬしかない。モーリスの紋章を持つ一族は前線で武器を持たず治療に専念する修道士や消火隊など危険な仕事に従事するようになった。その結果かつて社会から根絶やしにされかけた一族は信頼を回復し地方で領主を務めるまでになった。それでもモーリスの紋章を持つ一族の生存戦略は変わらない。
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    MAIKING「説明できない」
    青ロレ赤クロの話です。
    6.初戦・下

     クロードから自分たちを襲った盗賊の討伐が今節の課題だと告げられた皆は初陣だと言って沸き立っていた。金鹿の学級は騎士を目指す平民が目立つ学級で入学以前に領主の嫡子として盗賊討伐を体験している者はクロードとローレンツしかいないらしい。クロードはローレンツの印象よりはるかに慎重で毎日先行したセイロス騎士団がどの方面へ展開していったのか細かく記録をつけ皆に知らせていた。セイロス騎士団に追い込んでもらえるとはいえどこで戦うのかが気になっていたらしい。

     出撃当日、支度を整え大広間で待つ皆のところへベレトがやってきた時にはローレンツたちはどこで戦うのか既に分かっていた。

    「騎士団が敵を追い詰めたそうだね。場所はザナド……赤き谷と呼ばれている」

     そう言えばクロードはザナドが候補に上がって以来やたら彼の地についた異名の由来を気にしていた。赤土の土地なのか赤い花でも咲き乱れているのか。土地の異名や古名にはかつてそこで何があったのかが表されていることが多い。土地の環境によっては毒消しが必要になる場合もある。だが先行した騎士団によると特殊な条件は何もない、とのことだった。初陣の者た 2081

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    16.鷲獅子戦・下
     ローレンツがグロンダーズに立つのは二度目だ。一度目はローレンツの認識からすると五年前でベレト率いる青獅子の学級が勝利している。敗因は堪え切れずに飛び出してしまったローレンツだ。更に危険な実戦で囮をやらされた時に堪えられたのだから今日、堪えられないはずはない。

     赤狼の節と言えば秋の始まりだが日頃山の中の修道院にいるので平原に下りてくると暖かく感じた。開けた土地は豊かさを保証する。グロンダーズ平原は穀倉地帯でアドラステア帝国の食糧庫だ。畑に影響が出ない領域で模擬戦は行われる。模擬戦と言っても怪我人続出の激しいもので回復担当の学生はどの学級であれ大変な思いをするだろう。

     ベレトが持ってきた地図を見て思うところがあったのかクロードは慌ててレオニーとラファエルを伴って教室から駆け出し書庫で禁帯出のもの以外グロンダーズに関する本を全て借り上げてきた。皆に本を渡し地形描写がある物とない物に仕分けさせた。この時、即座に役に立たない本だけを返却させている。情報を独占し他の学級に無駄足を踏ませた。クロードのこういう所がローレンツは会ったこともないべレスから疎まれたのかもしれない。
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