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    ラジオデアドラの第一話から第三話まではここです。
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13857111
    第四話
    https://poipiku.com/1455236/6698868.html

    第五話
    https://poipiku.com/1455236/6864178.html

    第六話
    https://poipiku.com/1455236/7416118.html

    第七話
    https://poipiku.com/1455236/7568147.html

    ラジオデアドラ第八話 社員の名簿が入手できた順ではないかと言うのがヒルダの仮説だったがベレトはそれすらしていないのでは、と言う。

    「確かに軍事機密と関わる企業の場合は名簿を手に入れるのも手間がかかるはずです」
    「例えばマリアンヌが前に住んでいたアパートの件なんだが……隣室の住人は科学雑誌で会社の研究室について語っていた」

     ベレトが雑誌を開いて机の上にそっと置いた。確かにマリアンヌの隣人が顔写真付きでインタビューに答えていた。ご近所付き合いというものをきちんとしていればマリアンヌが自力で気づいたのかもしれない。

    「新聞や雑誌だけではなく放送で名前があがっていた被害者がいる可能性もある。放送局は最先端技術の塊だろう?」

     飄々として燃え残った私物をレオニーの番組に提供していたがマリアンヌも恐ろしかったのだろう。後ろから胸の下に回されたヒルダの手にインクの染みだらけの手を重ねて握りしめている。

    「それは簡単に調べられます……。あの、わ、私もですが皆さんもずっと放送で名前が出て……」
    「マリアンヌちゃん、大丈夫。私が守ってあげるから」

     マリアンヌはレオニー宛の悪意たっぷりな手紙は目立つ女性への嫌がらせに過ぎずヒルダが調べている一連の放火騒ぎとは無関係だと考えていた。表面には出さないがヒルダは激しく怒っている。マリアンヌと違いヒルダは怒れば怒るほど冷静になるのだ。

    「俺の仮説が正しいかどうかは報道されなかった小火の件を取材する時に雑誌や新聞に載ったことがあるかどうか聞けば分かる」
    「でもそのせいで変な噂が流れたら……」
    「それって丁度いいじゃない」

     ヒルダはマリアンヌの言葉を遮った。どういうことかと訝しむマリアンヌそれにどういうことかと困惑するレオニーと違いベレトは意図を察したらしい。

    「ヒルダの言う通りだ。取材を受ければ放火されるという噂が流れれば犯人たちの手の内がばれたも同然だ。どこから漏れたのか疑心暗鬼に駆られてくれたらいい、と俺は思っている」
    「完全に証明できても警察や消防には教えないのか?こんな危ない連中さっさと逮捕して欲しいのに」

     レオニーはほとんど警察と縁がなかったので映画などで培った美しい誤解をしている。

    「あのね、民間人の推理ってことで警察に情報提供すると……」
    「むしろ警察はその可能性を完全に排除してから捜査を始めます。警察は捜査権がない民間人の推理をあてにしてはならないのです」

     苦虫を噛み潰したようなヒルダとマリアンヌを見てレオニーもそれが現状だと察したらしい。苦労が報われないことは世の常だがそれでも明快さを求めるのがヒトという生き物だ。

    「だがもしかしたら……あれ、中々出てこないな」

     ベレトは胸元から革製の免許証入れを取り出した。本来なら免許証しか入れない物にぎっしりと小さなカードを詰めているのか取り出すのに四苦八苦している。

    「ああもう……!貸してくれ!」

     レオニーはベレトから免許証入れを受け取り両端に力を入れてたわませると一枚ずつ小さなカードを取り出していった。よくわからない店の会員証に混ざって銃火器携帯許可証や小型船舶の運転免許証、黒魔法使用許可証や四輪や二輪の免許証などが机の上に広げられていく。

    「お!マリアンヌやヒルダは見たことあるかもしれないけど私はこれ初めて見た!」

     厄災の箱の中に最後に残っていた希望のように免許証入れから最後に取り出されたのは探偵業免許証だった。警察学校に開設されている探偵用のコースに通って単位を取得し二年間助手として実務に就かなければ取得できない。ヒルダもマリアンヌも目を丸くして見ている。

    「これが物を言うかもしれない。多少は警察も聞く耳を持つ。それに科学捜査を得意とする探偵、と言うことで番組から取材してもらえれば……」
    「囮になるって言うのか?そんな危ないことをするほど給料が高いと思えない」

     レオニーは深夜帯のパーソナリティなのでデパートに勤めていた頃とあまり収入に差がない。ヒルダやマリアンヌも高給取りではないが今の二人は家賃を払う必要がない。そして拘束時間が長いので無駄遣いをする暇がなかった。

    「いや、日給が発生するから収入的には安定してくれたくらいなんだ」

     ベレトは再び革製の免許証入れに一枚ずつ様々な免許をしまい始めた。今度は一番目立つところに探偵業免許証を入れている。

    「結構世知辛いもんなんだな……」

     レオニーの呟きに重ねるようにしてデアドラ中央教会の朝を告げる鐘の音が鳴り響いた。何世紀経とうと荘厳な音は変わらない。防音室になっているスタジオやラジオがかかっているダイナーではあまり聞こえてこないが自然な音は体に直接呼びかけてくるような気がする。

    「もう船も市電も始発が出た頃だな。今朝はもう帰りなさい。後片付けは俺がしておくから」

     マリアンヌはこう言う時にその気もないのに食い下がってしまいがちなのだがその朝は何故かレオニーやヒルダのように自然にベレトの厚意に甘えることができた。
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