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    111strokes111

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    だがそれを歩みを止める言い訳にもしなかった。費やした財や命が惜しかったからではない。それほどまでに汚泥の中から見上げた星は美しかった。

    クロロレワンドロワンライ第39回「くちびる」 ローレンツたちはクロードが指示した通り北極星を目印に少人数の集団を作ってガルグ=マクの方へと撤退していった。夜に人が走れる道というのは例えそれが複数あったとしても数はたかが知れていてそれらの道は行き止まるか他の道と合流していく。自然と学生たちは再び合流していた。
     木に軽く寄りかかって小さく爆ぜる火を眺める余裕が出てくると先ほどまでとは違う焦りがローレンツを苛む。自分たちと逆方向に駆け出し結果として賊の大半を引きつけたクロードたちは今どこにいるのか。先刻、彼に耳打ちされた時とは違う悪寒が走る。誤魔化すために組んだ腕をほどけばローレンツの身体は震え出すだろう。物音に気を配っていると遠くからクロードたちの話し声が聞こえてきた。

    「よお、ローレンツ。状況は?紹介したいやつがいるから後で寄越すよ」

     クロードに連れられた青い髪に赤尽くしの派手な格好の女傭兵はシェズと名乗り彼女のおかげでローレンツはようやく組んだ腕をほどくことが出来た。この緊張は気取られてはならない。

     ローレンツが朝の光を浴びながらガルグ=マクに向かって歩いているとシェズと共に先頭にいたはずのクロードがやってきた。

    「察してもらえて助かったよ」

     翠玉のような瞳が朝の光の下で煌めいているが本心なのだろうか。

    「あの単純な説明が分からないような愚か者が士官学校に入れるわけがないだろう」

     こんな憎まれ口を叩きたい訳ではないのに頭のどこかがクロードを警戒せよと命じる。そんなローレンツの葛藤を知ってか知らずかクロードは目を細めながら制服の胸元に手を入れた。

    「学生の質に関する議論は後日やろうぜ。でもな、ローレンツはきちんと俺の意図を察したよ」

     取り出された小さな蓋物の中身をもうローレンツは知っている。褐色の指が半透明の膏薬を掬い取りローレンツの口角から下唇をなぞっていく。

    「回復魔法はもっと酷い怪我をしたやつに譲ったんだろ?」

     他の学級ではシルヴァンやヒューベルトが率先してやっていたが金鹿の学級ではローレンツが火を起こし状況を確認して怪我が重い順に回復魔法の心得がある学生に回復魔法をかけるよう取り計らっていた。だが唇が切れているのは一度賊の拳を避け損ねたからなのかクロードたちを案じている時に無意識のうちに唇をきつく噛んでいたからなのかは正直言ってローレンツにはわからない。
     口元から立ち上るキンセンカの甘い香りを感じながらローレンツはクロードをじっと見つめた。血の気が引いているのか頭に血が上っているのか自分ではもはやよく分からないがクロードはこちらを動揺させ完全に優位に立ったと思い込んでいる。踏み込ませてばかりなのは性に合わない。

    「当然だろう!何せこの僕はローレンツ=ヘルマン=グロスタールなのだからね!」

     高らかに笑ったおかげか気分も晴れやかになった。口角は再び切れたが軟膏のあてはある。

     学生たちの命を救った礼として学費を免除され金鹿の学級に加わることになったシェズは二刀流の使い手で驚くほど腕が立つ。賊の頭目をあっさり切り捨てたことからもわかるように腕は立つのだが驚くほど道に迷う。修道院の中でもガルグ=マクの街中でも砦の中でもそれは変わらない。
     能力が歪なところはどこかクロードに似ていた。しかしシェズはクロードと違ってローレンツの心を掻き乱さない。
     何もない空間から刀を取り出す力や肌に浮き上がる模様は謎めいているが盗賊の残党を討伐せよという課題にはちょうど良かった。現にシェズの妖しい力は砦の最深部に囚われていたモニカと名乗る女子学生を救出するのに役立っている。彼女の力がなければ砦に住み着いていたクロニエと名乗る女や彼女が召喚した恐ろしい魔獣を撃退できなかった筈だ。ただし傭兵は雇い主に全てを左右される。彼女が良き雇い主に恵まれるようローレンツは望んでいる。
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    9660moyunata

    DONEテレビゲームをするだけの現パロ年後クロロレ
    光属性ですご安心ください。
    「ローレンツはゲームとかしないのか?」
    「そんなもの、時間の無駄だろう」
    やっぱりそう言うと思った。庶民の娯楽に現を抜かしてる暇なんてありませんって顔に書いてある。
    「じゃあさ、1回だけ対戦付き合ってくれないか? このゲーム1人でもできるんだけどさ、せっかく買ったんだしちょっとくらい人と遊んでみたいんだよ」
    「仕方がないな、1度だけだぞ」
    ローレンツはせっかくだから、とかそういう言葉に弱い。あいつは俺のことに詳しいなんて言っているが、俺だって負けてない。ローレンツが俺のこと見続けているなら同じだけ俺もローレンツを見ているんだ。
    今始めようとしているゲームはいわゆる格闘ゲームだ。さすがに初心者のローレンツをこてんぱんにするのは気が引けるから、あえて普段使わないキャラクターを選ぶ。それでも俺の方が強いことに変わりはない。手加減しつついい感じの差で勝たせてもらった。
    「......。」
    勝利ポーズを決めている俺のキャラクターをローレンツが無表情で見つめている。よし、かかったな。
    「クロード、もう一戦だ」
    「おっと、1回しか付き合ってくれないんじゃなかったのか?」
    「せっかく買ったのに 1372

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    4.遭遇・下
     犠牲者を一人も出すことなく野営訓練を終えて修道院に戻ることが出来た。ローレンツのほぼ記憶通りではあるが異なる点がある。ベレトが金鹿の学級の担任になったのだ。正式に採用された彼は既に士官学校から学生の資料を貰っている。だがグロンダーズで行われる模擬戦を控えたベレトはここ数日、放課後になると学級の皆に話を聞くため修道院の敷地内を走り回っていた。

     ローレンツはあの時、模造剣を配ろうとしたのは何故なのかとベレトに問われたが予め野盗達に襲われているのを知っていたから、とは言えない。言えば狂人扱いされるだろう。

    「歩兵の足が早すぎたからだ。補給部隊が本体と分断されたら敵に襲われやすくなる」

     食糧がなければ兵たちは戦えない。敵軍を撤退させるため戦端を開く前に物資の集積所を襲って物資を奪ったり焼き払ってしまうのは定石のひとつだ。ローレンツの言葉聞いたベレトは首を縦に振った。

    「それで足止めして予備の武器を渡したのか。装備をどうするかは本当に難しいんだ。あの場合は結果として合っていたな。良い判断をした」
    「ありがとう先生。そう言ってもらえると霧が晴れたような気分になるよ」

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    5.初戦・上
     三学級対抗の模擬戦はクロード達の勝利に終わった。これもクロードの記憶とは異なっている。容赦のなかったベレスの記憶があるクロードは事前に何か工作するかベレトに探りを入れてみたが拒否された。こんな下らないことに全力を尽くすなという意味なのか気高い倫理観の持ち主なのかはまだクロードには分からない。腹下しの薬は冗談だったが賛同してもらえたら武器庫に忍び込んで他学級の使う武器の持ち手にひびを入れてしまうつもりだった。

     母国やデアドラと比べるとガルグ=マクは肌寒い。気に食わない異母兄が王宮で働く女官を寝室に引っ張り込むような寒さだ。それでも来たばかりの頃と比べればかなり暖かくなっている。過酷な太陽の光に慣れたクロードの目にも山の緑は目に眩しく映った。長時間、薄暗い書庫で本を物色していたからだろうか。廊下に差す光に緑の目を細めながら歩いていると大司教レアの補佐を務めるセテスに声をかけられた。クロードは規則違反に目を光らせている彼のことがあまり得意ではない。

    「ちょうど良かった。クロード、後でベレトと共にこちらに顔を出しなさい」
    「分かりました。セテスさんは先生が今どの辺りにいる 2100

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    15.鷲獅子戦・上
     フレンが金鹿の学級に入った。クロードにとっては謎を探る機会が増えたことになる。彼女は教室の片隅に座ってにこにこと授業を聞いてはいるが盗賊と戦闘した際の身のこなしから察するに只者ではない。兄であるセテスから槍の手解きを受けたと話しているがそういう次元は超えていた。

    「鷲獅子戦にはフレンも出撃してもらう」

     やたら大きな紙を持ったベレトが箱を乗せた教壇でそう告げると教室は歓声に包まれた。これで別働隊にも回復役をつけられることになる。治療の手間を気にせず攻撃に回せるのは本当にありがたい。今まで金鹿の学級には回復役がマリアンヌしかいなかった。負担が減ったマリアンヌの様子をクロードが横目で伺うと後れ毛を必死で編み目に押し込んでいる。安心した拍子に髪の毛を思いっきり掻き上げて編み込みを崩してしまったらしい。彼女もまたクロードと同じく秘密を抱える者だ。二重の意味で仲間が増えたことになる。五年前のクロードは周りの学生に興味は持たず大きな謎だけに目を向けていたからマリアンヌのことも流していた。どこに世界の謎を解く手がかりがあるか分かりはしないのに勿体ない。
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