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    女神の徒から孤独で冷酷と称された我が国の未来の民に我々は何を遺すことが出来るだろうか。神を汚し罵る趣味と全ての悪徳だろうか

    クロロレワンドロワンライ第46回「花畑」 ミルディン大橋のレスター諸侯同盟側にある砦近辺には花畑が広がっている。休耕地の花々は人間の都合など知らず咲き誇っていた。
    「この辺は休耕地が多いから少しだけ気が楽だ」
    「多いだけだ。一面でも二面でも収穫前の麦畑が荒らされれば一年間の苦労が水の泡となって消えその一家は破綻する。絶対に食い止めねば」
     ローレンツの発言はクロードに対する嫌味ではない。事実を指摘し己に気合を入れているだけだ。しかしローレンツの個性を受け入れていない者が聞けば単なる嫌味と受け取るだろう。
    「魔法や火薬で土壌が汚染されるのは分かってるさ。安心させてやれないこの身の非才さが歯痒いな」
     クロードたちは砦を出て橋の付近に陣を敷き帝国軍を待ち構えている。先ほど戻ってきた斥候によるとカスパルとリンハルトがいるらしい。
    「降伏させられるならさせたいな。こちらも名誉より命が優先だ。死ぬなよ、捕虜になって内情を探ってきてくれ」
     先程終わった軍議の際にローレンツは分かったような顔をしてクロードの意見に頷いていたが一番危ういのは彼だ。名誉のため他人を守るために死にかねない。だからぬけぬけと言わせて貰えばグロスタール伯はクロードの元に嫡子を寄越したのだ。価値観の相違が良い結果を生むと信じて貰ったからには期待に応えるしかない。
    「一刻も早く父の許へ行かねば」
     数えきれないほどの敵兵はまるで一つの塊のようになっている。ローレンツは囲まれることを恐れずシェズと共に突っ込んでいった。故郷にいた西の国境に駐屯している部隊からの報告書をクロードは読んだことがある。彼らは髪と瞳が薄紅色の者を恐れる。こちら側に来てみれば自国の兵が恐れるゴネリル家の者たちはひたすら感じが良かったのでクロードは自分の野望に更に自信を持った。ともかく今後、帝国の兵たちは髪と瞳が紫の者を嫌うようになるかもしれない。槍を振るう白い横顔は誇らしげだった。殺し合いの場に身を置いていようとローレンツは尊敬する父の役に立てることを心の底から喜んでいる。だがクロードたちはこの後、彼の喜びに冷水を浴びせるのだ。クロードはこれまで少々ローレンツと親睦を深めたが今後は公的な関係すら危うくなるかもしれない。
     このままこの場を凌ぐことはできる。だがそれは対処療法に過ぎず根本的な解決にはならない。クロードはローレンツたちが奪取してくれた砦で手綱を引き飛竜を上昇させた。誰も注目していない時でなければパルミラ式の遠眼鏡が使えない。見渡した先で自軍の兵士は善戦していた。人的損害を無視すればきっと今回は防衛できるだろう。だが国力の差から言っても善戦するだけではいずれすり潰される。クロードは自分と同じくそのことをきちんと理解していたグロスタール伯に作戦を開始するか否かも含めて委ねている。猜疑心の塊を自称する己らしくない振る舞いだった。
     伝令兵がクロードの元に駆け込んできた。際限なく枝分かれしていた未来が大きく刈り取られていく。
    「全軍、橋を放棄して撤退せよ!」
     自分は望ましい未来を掴み取ることが出来るのだろうか。飛竜に跨って時には囮を引き受けつつクロードは戦場中を飛び回った。
    「総大将がこんなところで何をやっている!!」
     シェズと共に父を助けるため敵陣の奥深くへ攻め込んでいたローレンツはクロードの姿を目にしてそう叫んだ。これは彼が本当に叫びたいことではない。何故、父の下へ援軍を送ってくれないのかと言いたい筈だ。ローレンツは必死で名誉と仲間の命を守ろうとしている。
    「その辺の話は全部後だ!俺たちは味方の撤退を支援する!」
     クロードは前哨基地に戻ったら絶対に彼と話し合わねばならない。話し合わねばならないのだが彼へ真実は伝えるわけにいかない。
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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    4.遭遇・下
     犠牲者を一人も出すことなく野営訓練を終えて修道院に戻ることが出来た。ローレンツのほぼ記憶通りではあるが異なる点がある。ベレトが金鹿の学級の担任になったのだ。正式に採用された彼は既に士官学校から学生の資料を貰っている。だがグロンダーズで行われる模擬戦を控えたベレトはここ数日、放課後になると学級の皆に話を聞くため修道院の敷地内を走り回っていた。

     ローレンツはあの時、模造剣を配ろうとしたのは何故なのかとベレトに問われたが予め野盗達に襲われているのを知っていたから、とは言えない。言えば狂人扱いされるだろう。

    「歩兵の足が早すぎたからだ。補給部隊が本体と分断されたら敵に襲われやすくなる」

     食糧がなければ兵たちは戦えない。敵軍を撤退させるため戦端を開く前に物資の集積所を襲って物資を奪ったり焼き払ってしまうのは定石のひとつだ。ローレンツの言葉聞いたベレトは首を縦に振った。

    「それで足止めして予備の武器を渡したのか。装備をどうするかは本当に難しいんだ。あの場合は結果として合っていたな。良い判断をした」
    「ありがとう先生。そう言ってもらえると霧が晴れたような気分になるよ」

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    8.背叛・下
     雷霆を振るうカトリーヌの名を聞いた者に多少なりとも英雄の遺産や紋章の知識があったならばそれがとんだ茶番だと判るだろう。だが無謬であるセイロス教会が彼女をカサンドラではなくカトリーヌと呼ぶのならそれに従うしかない。カロン家当主としても令嬢カサンドラに死なれるよりはガルグ=マクで生きていてくれた方が良いのだろう。

     ローレンツは霧深い街道をガスパール城に向けて黙々と進んでいた。前方ではクロードとベレトとカトリーヌが何やら話している。五年前、ローレンツは帝国軍が破竹の快進撃を見せた時に正直言ってファーガス神聖王国がほぼ崩壊したと思った。今の彼らの会話を耳にしてもファーガスが凋落しているという印象が深まっていく。青獅子の学級の学生たちは士官学校に入る前に初陣を済ませている者が多いのはダスカーの悲劇以降小規模な騒乱が後を立たずにいるからだ。

     だからあの時ローレンツはフェルディナントと共にミルディン大橋に立った。ファーガスは近々自壊するだろうしパルミラとの国境を守りながら強大な帝国に抗う力が同盟にはない。ならばせめて領地と領民を守りたいと思ったからだ。霧の立ちこめる行路は人生 2090

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    16.鷲獅子戦・下
     ローレンツがグロンダーズに立つのは二度目だ。一度目はローレンツの認識からすると五年前でベレト率いる青獅子の学級が勝利している。敗因は堪え切れずに飛び出してしまったローレンツだ。更に危険な実戦で囮をやらされた時に堪えられたのだから今日、堪えられないはずはない。

     赤狼の節と言えば秋の始まりだが日頃山の中の修道院にいるので平原に下りてくると暖かく感じた。開けた土地は豊かさを保証する。グロンダーズ平原は穀倉地帯でアドラステア帝国の食糧庫だ。畑に影響が出ない領域で模擬戦は行われる。模擬戦と言っても怪我人続出の激しいもので回復担当の学生はどの学級であれ大変な思いをするだろう。

     ベレトが持ってきた地図を見て思うところがあったのかクロードは慌ててレオニーとラファエルを伴って教室から駆け出し書庫で禁帯出のもの以外グロンダーズに関する本を全て借り上げてきた。皆に本を渡し地形描写がある物とない物に仕分けさせた。この時、即座に役に立たない本だけを返却させている。情報を独占し他の学級に無駄足を踏ませた。クロードのこういう所がローレンツは会ったこともないべレスから疎まれたのかもしれない。
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