離婚して再婚するやつ(仮)8 繁華街で黒魔法の使用騒ぎがあると警察無線が途端にやかましくなる。現場は薬の売人が溜まり場にしているバーで使用されたのがウインド程度なら外から確認だけして放っておくような店だ。
だが今回使用されたのは上級魔法であるアグネアの矢で管区内にあんなものをぶっ放せる人物はほんの僅かしかいない。クロードはそのうちの一名に心当たりがある。予感が当たっていて欲しいのか外れていて欲しいのか自分でもよく分からない。
現着したクロードの目に真っ先に入ったのはまだらに黒焦げになった店内と泣きながら謝り続ける生徒を落ち着かせようと抱きしめるローレンツの姿だった。リシテアに手錠を掛けられているバーの店主と彼は本来なら住む世界が違う。ガルグ=マクやデアドラにある名門校に勤められたのに彼はクロードと共にいることを選んで、離婚した後もまだベルグリーズに居着いている。
「何があったか話せるか?」
「クロード……身内の事件は担当しない決まりでは?」
クロードは元夫の腕の中にいた少年に話しかけたつもりだったが、動揺しているローレンツはそう思わなかったらしい。身内、という己の失言にも気付かず、そのまま何があったのか少しずつ話してくれた。せっかく登校した生徒がおかしな時間に校舎外へ出たので担当する授業がなかったローレンツは後をつけたらしい。
そして生徒が怪しげな店に入ろうとしたところでこの騒ぎとなった。あとは壁に残った弾痕と焦げた壁と床が語ってくれる。
「後でまた別の奴が話を聞きにくるだろうが、適正使用の範囲内さ」
「先生は俺を守ろうとしてくれたんです!」
「俺もそう思うよ。君はあっちのお巡りさんにそう証言してあげてくれ」
顔を上げた生徒にローレンツがそっとハンカチを渡した。離婚後もクロードと違って生活が荒れていないのかきちんとアイロン掛けがしてある。
「あの子には親代わりにずっと面倒を見てくれた兄がいてね」
別の警官と話す教え子の背中を横目で確認しながらローレンツは説明を再開した。その先は聞かなくても分かる。あの子は兄の役に立ちたかったのだ。
「分かった。手配しておく。それじゃうちまで送るから」
「待て、あの子の引き取り先を」
「この先は俺たちの仕事。児相には警察から連絡する」
こうしてクロードは数年ぶりにあのマンションに足を踏み入れることとなった。