離婚して再婚するやつ(仮)9 離婚した時これでクロードの車には二度と乗らないだろう、ローレンツはそう思っていた。大柄なローレンツのことを考えてクロードが選んだ大きなオフロード車で助手席に乗り込むと体がシートに馴染む。
「職場放棄だなんてらしくないことしたな」
本当にどうしてあんなことをしでかしてしまったのだろう。
「反省している……」
本当は分かっている。筒の中に違法な薬物が入っていた、と教師が確認してしまったらあの生徒はその時点で少年院行きだ。少年院から高校進学することは不可能ではないが家庭のサポートがない子には難しい。筒がオーナーの手に渡った瞬間を狙って通報しようとローレンツはタイミングを測っていたが失敗した。
「何にしても怪我がなくて良かった。食い物とか飲み物とか買わなくて平気か?」
「そんなことまでさせられない」
「被害者支援だよ」
そういうとクロードは大きくハンドルを切った。その先にはいつも買い物に使っている大きなスーパーがある。照明が煌々と輝くスーパーの中で食料品を見ていると現実味がどんどん薄れていく。
結婚している最中こんな風にクロードと買い物したのは数えるほどだった。カートには二つカゴが入れてある。上のカゴがローレンツ用、下のカゴがクロード用だ。職場への差し入れを買いたいのだという。
「会計はどちらも僕がする」
「それこそそんなことまでさせられないさ。規約違反だ。気持ちだけありがたくもらっておくよ」
ローレンツは温めればそのまま食べられる冷凍食品や缶ビールを、隣のレジにいったクロードはスポーツ飲料やプロテインバーを買った。トランクに荷物を積んでいると何故、結婚している最中はこんな風に過ごせなかったのかという思いで心が締め付けられる。だが自分と違って弁えているクロードは玄関の隅にある業者用の短時間駐車場に愛車をとめた。かつて彼が使っていた区画は別の車が使用している。
「ありがとう。きっと自力でも帰れたとは思うが本当に助かった」
「ここまで来たら誤差みたいなもんだから荷物も運んでやるよ」
「君は本当に他人には親切だな」
かつて共に住んでいた部屋の鍵を開けたローレンツはそう、軽口を叩いた。口から生まれたようなクロードのことだからすぐに気の利いた返しをしてくるだろう。そんなローレンツの予想は外れた。