離婚して再婚するやつ(仮)16 精神科のリソースにも限界がある。治療を拒否する患者より医者や臨床心理士の言うことを聞いてくれる患者が望ましいし、理由はともかくクロードのように途中で消える患者など慣れっこだろう。
「まず自分のことを考えたのね〜?自分を否定的にとらえたのは何故かしら?」
「自分がこんな有り様だからローレンツが動揺している、と思った」
会えない間にまっすぐな紫の髪が少し伸びていた。気になって整えていたから願掛けとして成立していないと思う、と照れくさそうに微笑んでいたのに今は別々に暮らしている。
「待ってちょうだい。そこはクロードが責任を感じることではないわ。そうよね、ローレンツ?」
「僕の感情は僕のものだ!動揺という単語にも異議を唱えたい。それに責任を感じるなら尚更、医療に頼るべきではなかったのか?」
ようやく会えたのだから笑顔でいて欲しい、という思いはここまで追及されるようなことなのだろうか。メルセデスが無言で頷いたのでクロードは弁明の機会を与えられた。
「あの潜入捜査に関しては今も昔も傾聴してもらえるようなことは何一つないんだよ」
クロードは離婚を切り出させる少し前にもローレンツから何故、と問われている。その時は黙り込むクロードをローレンツが一方的に怒鳴って終わった。
「あらあら、法律で定められた守秘義務は私たち臨床心理士にもあるのよ〜」
微笑みを浮かべながらメルセデスはクロードを嗜めた。外の世界がどうであれこの部屋をコントロールするのは自分だ、という自負が伝わってくる。
「だからそうね〜。当時、何を感じたのかについて話してちょうだい。何があったか、何を考えていたか、ではないわ。念のために言っておくけれどそれらは全て省いてくれるかしら〜?」
メルセデスは柔らかな見た目や口調とはうらはらにかなり粘り強い。ローレンツは彼女を尊敬の眼差しで見つめている。確かに彼はそう言った切り口から質問したことはなかった。
「当時ってのはいつのことになるんだ?」
こんな無意味な虚勢をはった所でメルセデスは、彼女から新たな視点を与えられローレンツは誤魔化されてくれないだろう。そこまで喉が渇いているわけではないが心を落ち着かせるためにもローレンツの淹れてくれた紅茶が飲みたい、クロードはそう思った。