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    そのうちクロロレになります。ェュ前提なのでご注意下さい。紅花ルート

    有情たちの夜.1「檻の中」 黒い仮面を付けた部下二人が扉の両脇に立っている。ヒューベルトが片手を挙げると左側に立っている部下が恭しく扉を開けた。
     物理的に距離を作るために置かれた机の反対側には背もたれ付きの椅子がある。この背もたれは着席する者が快適に過ごすために存在するわけではない。縛りつけるための物だ。そしてそこにはクロード=フォン=リーガンが座って───いや、座らされている。腰を椅子の背もたれに、足首を椅子の脚に縛り付けられても尚、余裕ある態度を崩さない。
    「これなら死ぬ前の最後の祈りも捧げられそうだ。身包みも剥がされなかったし案外慈悲深いな」
     緑色の瞳にはまだ強い意志の光が宿っている。時間の感覚を奪うため窓を潰したこの部屋を照らす洋燈よりも輝いていた。デアドラでの戦闘が終わり、戦闘不能となった彼はベレスの意志で助命されている。
     きっと彼女は反射的にその場で最も危険に晒されている存在の命を助けてしまうのだろう。聖墓で大司教レアの命令に刃向かった時もそうだった。
     容赦はしない───そう決めていたせいか柄にもなく、あの時のベレスの振る舞いに感動してしまった己への罰として、ヒューベルトは誓いを立てた。彼女のわがままをそれがどんな物であれ二つは無条件で受け入れる。エーデルガルトは案外君に甘いな、というフェルディナントの指摘は正しい。
    「高度な政治的判断です」
     ヒューベルトの主君エーデルガルトが何よりも求めるのは確実さだ。だから中央教会とも完全に袂を分かっている。アドラステア帝国の皇帝にとってクロードがこの先、反帝国派の旗印にならないという状態であることが重要なのだ。彼の生死を問うてはいない。殺してしまった方が確実ですらある。
    「手を合わせて感謝すべきか迷うところだ」
     クロードはおどけて顔の前で手を組んだ。その手首には鎖が巻かれている。気を失った彼の身体を検めた後に鎖を巻いたのはヒューベルトだ。彼の言葉が真実なら誰にも、そう、闇に蠢く者たちにも知られるわけにはいかない。



     後ろ手に縛られていないことがどうにもクロードには不思議だった。親指に鎖を絡ませてあるものの手首から先が鬱血しないような配慮を感じる。
    「貴殿にいくつか確認したいことがあります」
     クロードは幼かった頃、父の子でなかったらという妄想をしていた。受け継ぐのではなく己で国を興す、自分ならあんな国にはしない───だが今回ばかりは父から受け継いだ王の血に感謝するしかなかった。パルミラの王家には変わった風習がある。王族の男子が国外で殺害されたら必ず復讐をするのだ。砦ひとつ滅ぼすだけで済ませる場合もあるが国丸ごと滅ぼした例もある。どうやらアドラステア帝国はゴネリル家を捨て石とするつもりがないようだった。
    「知らない方が良い話もあるぜ?」
    「その線引きをするのは貴殿ではありません」
     ヒューベルトは煩わしげに目を細めている。彼は学生時代と比べて随分と雰囲気が変わった。敗者が勝者を慮るのはおかしな話だが、あの時期は思い詰めていたのだろう。周りの目を欺く暮らしはクロードの身にも覚えがある。
    「貴殿がガルグ=マクで見聞きしたもの全てについて話を伺いたい」
    「アビスについてはコンスタンツェにでも聞けよ」
     ロナート卿やアルファルドの顛末を思うとクロードはエーデルガルトたちの気持ちが分からなくもない。逆の立場なら彼女を殺したくはなかったはずだ。
    「何が重要かを確定するのは私であって貴殿ではありません」
     黒衣の男はクロードに五年前の春から大修道院が襲撃されたあの日までを詳らかにせよ、と言っている。デアドラは陥落し、王国にとって地獄の釜の蓋は開いた。この勢いを借りて北部へ攻め込みたいが、クロードから得られる情報は全て得ておきたい。ヒューベルトがそう考えているならこの尋問はかなりの長丁場になるだろう。
    「今晩は長い夜になりそうだ」
     クロードは鎌をかけてみたが今が朝なのか夜なのかヒューベルトの佇まいから読み取ることはできなかった。
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    MAIKING「説明できない」
    青ロレ赤クロの話です。
    6.初戦・下

     クロードから自分たちを襲った盗賊の討伐が今節の課題だと告げられた皆は初陣だと言って沸き立っていた。金鹿の学級は騎士を目指す平民が目立つ学級で入学以前に領主の嫡子として盗賊討伐を体験している者はクロードとローレンツしかいないらしい。クロードはローレンツの印象よりはるかに慎重で毎日先行したセイロス騎士団がどの方面へ展開していったのか細かく記録をつけ皆に知らせていた。セイロス騎士団に追い込んでもらえるとはいえどこで戦うのかが気になっていたらしい。

     出撃当日、支度を整え大広間で待つ皆のところへベレトがやってきた時にはローレンツたちはどこで戦うのか既に分かっていた。

    「騎士団が敵を追い詰めたそうだね。場所はザナド……赤き谷と呼ばれている」

     そう言えばクロードはザナドが候補に上がって以来やたら彼の地についた異名の由来を気にしていた。赤土の土地なのか赤い花でも咲き乱れているのか。土地の異名や古名にはかつてそこで何があったのかが表されていることが多い。土地の環境によっては毒消しが必要になる場合もある。だが先行した騎士団によると特殊な条件は何もない、とのことだった。初陣の者た 2081

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    8.背叛・下
     雷霆を振るうカトリーヌの名を聞いた者に多少なりとも英雄の遺産や紋章の知識があったならばそれがとんだ茶番だと判るだろう。だが無謬であるセイロス教会が彼女をカサンドラではなくカトリーヌと呼ぶのならそれに従うしかない。カロン家当主としても令嬢カサンドラに死なれるよりはガルグ=マクで生きていてくれた方が良いのだろう。

     ローレンツは霧深い街道をガスパール城に向けて黙々と進んでいた。前方ではクロードとベレトとカトリーヌが何やら話している。五年前、ローレンツは帝国軍が破竹の快進撃を見せた時に正直言ってファーガス神聖王国がほぼ崩壊したと思った。今の彼らの会話を耳にしてもファーガスが凋落しているという印象が深まっていく。青獅子の学級の学生たちは士官学校に入る前に初陣を済ませている者が多いのはダスカーの悲劇以降小規模な騒乱が後を立たずにいるからだ。

     だからあの時ローレンツはフェルディナントと共にミルディン大橋に立った。ファーガスは近々自壊するだろうしパルミラとの国境を守りながら強大な帝国に抗う力が同盟にはない。ならばせめて領地と領民を守りたいと思ったからだ。霧の立ちこめる行路は人生 2090

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    17.惨劇・上
     南方教会を完全に無力化されてしまったことや西方教会対策やダスカーの幕引きでの手腕には疑わしいところがあったがルミール村においてまず疫学的な検査から実施されたことからもわかる通りセイロス騎士団は手練れの者たちの集まりだ。ベレトの父ジェラルドまで駆り出されている異変においてクロードやローレンツのような部外者が介入しても迷惑がられるだけだろう。

     クロードにしてもローレンツにしても記憶通りに進んでほしくない出来事は数多ある。ロナート卿の叛乱もコナン塔事件も起きない方がよかったしこの後の大乱も起きて欲しくない。だがこのルミール村の惨劇は起きてほしくなかった案件の筆頭にあげられる。他の案件の当事者には陰謀によって誘導されていたとはいえ意志があった。嵌められていたかもしれないが思惑や打算があった。だがルミール村の者たちは違う。一方的に理性や正気を奪われ実験の対象とされた。そこには稚拙な思惑や打算すら存在しない。事件を起こした側は村人など放っておけばまた増えると考えたらしいが二人にとって直接見聞していないにも関わらず最も後味が悪い事件と言える。
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