Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    sgm

    @sgm_md
    相模。思いついたネタ書き散らかし。
    ネタバレに配慮はしてません。
    シブ:https://www.pixiv.net/users/3264629
    マシュマロ:https://marshmallow-qa.com/sgm_md

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 26

    sgm

    ☆quiet follow

    プライベッターから移動。
    TLで見かけて可愛くて思わずつぶやいたカフェ曦澄の出会い編。

    #曦澄
    #魔道祖師
    GrandmasterOfDemonicCultivation

     その日、藍曦臣がその店に入ったのは偶然だった。
     一休みしようと、行きつけの喫茶店に足を向けたが、残念ながら臨時休業だった。そう言えば前回訪れた際に、店主が豆の買い付けのためにしばらく店を休むと言っていたことを思い出す。それがちょうど今月だった。休みならばまっすぐ家路につけばよかったのだが、喉が乾いていたのと、気分的にカフェインを摂取したくて仕方がなかった。ならば、と喫茶店を探しながら大通りを歩いたが、めぼしい店が見つからず、あったのはチェーン系のコーヒーショップだった。
     藍曦臣が外でコーヒーを飲むのは常に、注文を受けてから豆を挽き、サイフォンで淹れてくれる店で、チェーン系のコーヒーショップは今まで一度たりとも入ったことがなかった。存在そのものは知識として知ってはいるが、気にしたことがなかったため、今日初めてこの場所に、コーヒーショップが存在する事を認識した。
     戸惑いながらも店に足を踏み入れる。席はいくつか空いていたが、席へと誘導する店員はおらず、オーダーから受け取りまでをセルフで行い自分で空いている席へと座るのだと、店内を一瞥して理解した。
     あまり混んでいる時間帯ではないのか、カウンターの中にいる店員は暇そうにしている。自分の後ろにも客がいないことに安堵をしながら、藍曦臣はカウンターに向かった。
    「いらっしゃいませ。お決まりですか」
     少し幼さは残るが落ち着いた声がする。カウンターの向こうには、藍曦臣よりも三つが四つほど年下、弟の藍忘機と同じ年頃の青年がいた。長めの髪を後ろで一つに結って、緑色のエプロンをしていた。大きな杏仁型の瞳をしているが、剣が強いのか、少しきつめの印象を受けた。口端は下がってもいないが、上がってもいなかった。
    「グアマテラを飲みたいのだけれど……」
     呟きながらカウンターに置かれたメニューを見て、藍曦臣は眉を小さく潜めた。いつもの行きつけの店であれば、産地と挽き方を選ぶことが出来たのだが、メニューにあるのはドリップコーヒー、ラテやモカばかりで藍曦臣を望む文字は見当たらない。どうしたものだろうかと固まっていると、視界の端に細い指先が現れ、藍曦臣の気を引くようにコツンとカウンターを一度叩いた。ふと顔を上げると、笑顔を浮かべるわけでもなく、真顔のままの店員と目が合う。
    「どんなのが飲みたいんですか?」
    「えっと、グアマテラみたいな、酸味と苦味が抑えられた物がいいのだけれど」
    「ふぅん」
     小さく頷いた後、彼は振り返り何かを探しているようだが、すぐに藍曦臣に向きなおる。指先が「コーヒープレス」の文字を示している。これがおすすめなのだろうか。
    「うちの店にグアマテラが置いてあれば、このコーヒープレスが良かったんですけど、今ないんで。コロンビアでもよければ、今日のドリップコーヒーの豆はコロンビアなんで、サイズも選べるし、ホットかアイスも選べるから、こっちがおすすめです。グアマテラほど甘味はないかもしれませんが、酸味と苦味は控えめだから」
     すっと「コーヒープレス」を指していた指が「ドリップコーヒー」に移る。メニューを見ると、確かに彼が言った通り、選択肢としてホットかアイス、サイズがあった。
    「じゃあ、あなたのおすすめのドリップコーヒーでお願いします」
    「サイズはどうします?」
    「サイズ、ええと……」
     メニューには、「ショート」「トール」「グランデ」「ベンティ」と書かれているが、どのぐらいの量かが分からない。また彼の指先がコツンとカウンターを叩いた。顔を上げると、彼の視線が、カウンター横のケーキなどが入ったガラスケースの上に移動する。ガラスケースの上には、見本なのか各サイズの紙コップがおいてあった。
    「あぁ、なるほど。では中くらいの、えっと……」
     なんという名だったかと、メニューに視線をおろすと、ふっと小さく笑う声が聞こえた。視線だけ上げると、彼の口元が綺麗な弧を描いていた。一体自分の言葉の何がおかしかったのかは分からなかったが、何かがお気に召したらしい。ずっと真横に結ばれていた口元が、ほんの数ミリ上に上がっただけだというのに、彼の印象を華やかに、柔らかく見せた。思わずその笑顔に見惚れそうになる。誰かの笑みに見惚れるなど、藍曦臣には初めての経験だった。少し、心拍数が上がった気がする。
    「っ。トール、で」
     自分自身に何が起こっているかも理解できぬまま、慌ててメニューで確認したサイズの名前を告げた。彼がオーダーをレジに打ち込んでいる間に、そっとエプロンにつけられた黒い小さな名札を盗み見る。「W.Jiang」と書かれており、彼の姓が江だということが知れた。
    「江さん、レジ代わります」
     オーダーの途中で、別の店員が彼に声をかける。素直に頷いた彼は、レジから離れ、奥のコーヒーを作るためのブースに向かって行った。彼が手を洗いアルコールで消毒しているのを横目に、料金を支払う。
     レジを変わった店員曰く、赤いランプの下で、準備ができたら呼ばれるそうで、藍曦臣は素直に赤いランプのもとへと向かった。その位置から、彼の動きが見ることができた。
     藍曦臣のオーダーを作るためか、トールサイズの紙カップを手に取り、サインペンを手に取った。ふと、彼の顔が上がり、藍曦臣と目があう。小さく首を傾げたと思うと、彼の口角が小さく上がるのが見えた。また、藍曦臣の心拍数が上がる。思わず、右手で左胸を抑えた。とくりとくりと自分の心音が少しばかり煩くなる。何故、こんな状態になるのか不思議で仕方がない。答えが分からぬまま、じっと彼の姿を目で追うと、受け渡し用のカウンターに、トールサイズの紙カップが置かれた。まっすぐに藍曦臣を見つめた彼が、「トールサイズ、ホットドリップコーヒーお待ちのお客様」と声を出す。ほんの数歩の距離だが、藍曦臣は慌てて、カウンターへと向かった。
    「ありがとう、ございます」
    「熱いから気を付けて。砂糖やミルクはあちらにあるんでお好みでどうぞ」
     差し出されたカップを受け取る。カップを通してコーヒーの温かさが手に伝わってくる。そういえば、彼は何かをカップに書いていた。何を書いていたのかと確認すると、「DC」の文字と、「U・x・U」が描かれていた。
    「これは……犬、かな?」
     思わず小さく呟いて、首を傾げた。振り返って彼を見ると、ちょうど目があい、悪戯が成功した子どものように目を細めて彼が笑った。すぐに彼は呼ばれて背中を向けてしまったが、藍曦臣は自分の中から溢れそうになる何かを抑えるために、思わず口元を抑えた。
     その場に突っ立っているのでは不審すぎるためゆっくりと空いている席に向かって座りながら、彼の笑顔が頭の中を廻る。
     眉間にしわを小さく寄せて、無愛想かと思えば、こちらが困っていると親切に的確な助言をくれた。笑顔が酷く魅力的で、会ったばかりで名前も知らない何も知らない相手だというのに、あの笑顔を独り占めしたいなどと思ってしまった。そして、と手の中にあるカップを眺め、描かれた「U・x・U」を指先でなぞる。犬が好きなのだろうか。それとも別の意図があるのだろうか。どちらにしても、彼がこんな可愛らしいものを描いたと思うと、それだけでこの六画で描かれた物が特別に思えて仕方ない。
     藍曦臣はなんだか熱い吐息をこぼして、カップを仰いだ。喉を通るコーヒーは、砂糖も入れていないブラックのはずなのに、なぜだか今まで飲んだ中で一番甘かった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🐶🐶💘☺💖☺💖💖💖☺☺💞💞💞💞💞☕💙💜💖💖💖💖💖💖☺☺☺💖👏💖👏❤💗💯💖💖💖💖💖💖💖❤💞💞💞☺💜💞☕☕❤💙💜☺☺☺☺☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    sgm

    DONE去年の交流会でP4P予定してるよーなんて言ってて全然終わってなかったなれそめ曦澄。
    Pixivにも上げてる前半部分です。
    後半は此方:https://poipiku.com/1863633/6085288.html
    読みにくければシブでもどうぞ。
    https://www.pixiv.net/novel/series/7892519
    追憶相相 前編

    「何をぼんやりしていたんだ!」
     じくじくと痛む左腕を抑えながら藍曦臣はまるで他人事かのように自分の胸倉を掴む男の顔を見つめた。
     眉間に深く皺を刻み、元来杏仁型をしているはずの瞳が鋭く尖り藍曦臣をきつく睨みつけてくる。毛を逆立てて怒る様がまるで猫のようだと思ってしまった。
     怒気を隠しもせずあからさまに自分を睨みつけてくる人間は今までにいただろうかと頭の片隅で考える。あの日、あの時、あの場所で、自らの手で命を奪った金光瑶でさえこんなにも怒りをぶつけてくることはなかった。
     胸倉を掴んでいる右手の人差し指にはめられた紫色の指輪が持ち主の怒気に呼応するかのようにパチパチと小さな閃光を走らせる。美しい光に思わず目を奪われていると、舌打ちの音とともに胸倉を乱暴に解放された。勢いに従い二歩ほど下がり、よろよろとそのまま後ろにあった牀榻に腰掛ける。今にも崩れそうな古びた牀榻はギシリと大きな悲鳴を上げた。
    66994

    sgm

    DONE江澄誕としてTwitterに上げていた江澄誕生日おめでとう話
    江澄誕 2021 藍曦臣が蓮花塢の岬に降り立つと蓮花塢周辺は祭りかのように賑わっていた。
     常日頃から活気に溢れ賑やかな場所ではあるのだが、至るところに店が出され山査子飴に飴細工。湯気を出す饅頭に甘豆羹。藍曦臣が食べたことのない物を売っている店もある。一体何の祝い事なのだろうか。今日訪ねると連絡を入れた時、江澄からは特に何も言われていない。忙しくないと良いのだけれどと思いながら周囲の景色を楽しみつつゆっくりと蓮花塢へと歩みを進めた。
     商人の一団が江氏への売り込みのためにか荷台に荷を積んだ馬車を曳いて大門を通っていくのが目に見えた。商人以外にも住民たちだろうか。何やら荷物を手に抱えて大門を通っていく。さらに藍曦臣の横を両手に花や果物を抱えた子どもたちと野菜が入った籠を口に銜えた犬が通りすぎて、やはり大門へと吸い込まれていった。きゃっきゃと随分楽しげな様子だ。駆けていく子どもたちの背を見送りながら彼らに続いてゆっくりと藍曦臣も大門を通った。大門の先、修練場には長蛇の列が出来ていた。先ほどの子どもたちもその列の最後尾に並んでいる。皆が皆、手に何かを抱えていた。列の先には江澄の姿が見える。江澄に手にしていたものを渡し一言二言会話をしてその場を立ち去るようだった。江澄は受け取った物を後ろに控えた門弟に渡し、門弟の隣に立っている主管は何やら帳簿を付けていた。
    5198

    related works

    recommended works