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    takami180

    @takami180
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    曦澄のみです。

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    takami180

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    曦澄ワンドロワンライ
    第五回お題「夜狩」

    恋人関係曦澄ですが、曦が出てきません。夜狩を真っ向から書いた結果、こんなことに……

    #曦澄

     その夜、江宗主は非常に機嫌が悪かった。
     紫の雷が夜闇を切り裂いていく。その後には凶屍がばたばたと倒れ伏している。
    「ふん、他愛ない」
     雲夢の端、小さな世家から助けを求められたのは昨夜のことだった。急に凶屍があふれかえり、仙師全員で対応に当たっているが手が回りきらない。どうにか江家に応援を派遣してもらえないか、という話であった。
     江澄はその翌日、つまり今朝から姑蘇へ発つ予定であった。藍家宗主からの招きによって、五日ほどを雲深不知処で過ごすことになっていた。
     しかし、これでは蓮花塢を留守にできない。
     世家への応援を師弟たちに任せることもできたが、江澄は蓮花塢に残ってひとり苛立ちを抱えることになる。そんなことは御免である。
     世家の宗主は江宗主自らが出向いたことにひどく驚き、次いで感謝の意を述べた。いたく感激しているふうでもあった。
    「あとどのくらいいる」
    「それが分かりませんで。原因も不明のままなのです」
    「ならば、調査からはじめなければな」
     江澄は最初に凶屍が現れたという地点へと向かう。山を進めば進むほど闇が深くなる。今晩、月はまだ出ていない。
     ふいに嫌な気配を感じて紫電を振った。バチリ、と音を立てて、凶屍が一体倒れた。
     それを認める前に、江澄は背後に紫電を放つ。バチバチッ! 派手な音がして今度は二体が吹っ飛んでいった。
    「多いな」
     それからも凶屍の出現は続いた。
     彷屍かと思うほどあっけなく倒れていくが、江澄を狙っていることに間違いはなく、凶屍であると断言できた。
     しばらく行くと、視界が晴れた。明らかに人の手で木立が切り開かれた広場であった。
     その中央には凶屍が多数たむろし、何体かは四方に歩き出していく。
     江澄は目を凝らした。広場の中央、凶屍どもの中心に何かがある。
     四角い、木箱のようなもの。
     今まさにその箱から一体の凶屍が生まれ出でるところであった。
     江澄は三毒を抜き放つと、その上に飛び乗った。凶屍どもの頭の上を飛び越えて箱の上に降り立つ。
     箱にはなにやら陣が描かれている。これが、凶屍を大量に発生させている原因だ。
     江澄は一回転しながら紫電で周囲の凶屍を薙ぎ払った。
     そして、再び凶屍を生み出そうと光を放ちはじめた箱から飛び降り、紫電を思い切り振り下ろす。
     バキッ! 箱は乾いた音を立てて簡単に壊れた。
     これで新たな凶屍は生まれない。
    「あとはこいつらだけか」
     周囲には凶屍どもがうごめいている。
     こんなときにあの人がいてくれたら楽なのに。
     江澄は藍家宗主の顔を思い浮かべた。裂氷の楽で足止めしてもらえれば、あとは紫電で撃つだけになる。しかし、いない人を今乞うてもどうにもならない。
     ため息をつきながら紫電を振った。
     手応えのない相手をただ倒し続けるという苦行は、結局深夜にまで及んだのであった。


     さて、朝である。とはいえ江澄に休む間はなかった。
     凶屍どもを倒し、原因を破壊したとはいえ、元凶はまた別にいる。
     江澄は壊した箱の破片をすべてかき集めて、それを背負った。三毒を御し、向かう先は姑蘇、雲深不知処である。あそこには陣術の専門家がいる。
     昨晩から数えたら、もう何度と知れなくなったため息をつく。
     藍宗主からの招き、という体裁を整えて、恋人と五日間の休暇を過ごす予定だった。凶屍を倒すために一日つぶれたとして、あと四日は残っているはずだった。それがふたを開けてみたら、凶屍を生み出す陣などという、とんでもなく厄介なものがお目見えしたではないか。
     いくら四大世家の一角とはいえ、江家だけが背負える問題ではない。ほかの三家も巻き込んで、早々にこの邪道の使い手を見つけ出さなければならない。
     今回は江澄が出張ったおかげで事無きを得たかもしれないが、これが続けば世家は間違いなく疲弊する。
     つまりだ。
     江家宗主である自分も、藍家宗主である恋人も、これが解決するまでは時間が取れなくなるということだ。
    「八つ裂きにしてやる」
     江澄の恨み言は風を切る音に紛れて消えた。
     東の空にたなびく細い白雲は、彼の人の抹額を思わせた。
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    PROGRESS恋綴3-2(旧続々長編曦澄)
    転んでもただでは起きない兄上
     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。 3050

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    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
     江澄は目を剥いた。
     視線の先には牀榻に身を起こす、藍曦臣がいた。彼は背中を強打し、一昼夜寝たきりだったのに。
    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
    「よかった、あなたをお守りできて」
     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
     江澄は眉間にしわを寄せた。
    「おかげさまで、俺は無事だったが。しかし、あなたがそ 1337

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    PROGRESS恋綴3-5(旧続々長編曦澄)
    月はまだ出ない夜
     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

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    兄上おやすみ、猿です。
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     蓮の飾り彫が施された美しい文箱には、私信を入れている。主に金凌からの文である。もう一方、水紋で飾られた文箱は最近になって買い求めたものであった。中には藍曦臣からの文が詰まっている。この短い間によくぞ書いたものよ、と感嘆の漏れる量である。
     江澄は水紋を指でなぞった。
     清談会が終わった後、江澄はすぐに文を返した。それから半月、返信がない。
     やはり金鱗台での、あの八つ当たりはいけなかったか。あの時は正当な怒りだと思っていたものの、振り返れば鬱憤をぶつけただけの気がしてしかたがない。
     藍曦臣に呆れられたか。
     だが、そうとも断じきれず、未練たらしく文を待ってしまう。あの夜の藍曦臣の言葉が本気であったと信じたい。
     大切な友、だと言ってもらえた。
     何故これほど仲良くなれたのかはわからないが、驚くほど短い間に打ち解けられた。江澄とて彼を大切にしたいとは思っている。
     わかりやすく喧嘩をしたのであれば謝りに行けるものの、そうではない。一応は和解した後である。それなのに距離を開けられるとどうしていいかわからない。
     また、会いたい、とあの情熱をもって求め 1698