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    takami180

    @takami180
    ご覧いただきありがとうございます。
    曦澄のみです。

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    恋綴3-4(旧続々長編曦澄)
    あなたに会いたかった

    #曦澄

     翌日、清談会は楽合わせからはじまった。
     姑蘇藍氏の古琴の音は、軽やかに秋の空を舞う。
     雲夢江氏の太鼓の音は、色づく葉を細かく揺らす。
     世家それぞれの楽は、それぞれの色合いで清談会のはじまりを祝う。
     江澄はふと、ここしばらく裂氷の音を聞いていないことに気がついた。藍曦臣と会っていないのだから当然である。
     藍家宗主の座を見ると、藍曦臣は澄ました顔で座っている。一緒にいるときとは違う。宗主の顔だ。
    (少しは、話す時間があるだろうか)
     あいさつだけでなく、近況を語り合うような時間がほしい。
     夜にはささやかな宴が催される。
     酒はなく、菜だけの食事だが、さすがに黙食ではない。
     そこでなら、と江澄は期待した。藍家宗主も、江家宗主にはある程度の時間を割くだろう。
     ところが、である。
     藍曦臣は初めに江澄の元へやってきたものの、あいさつもそこそこに金凌のほうへ行ってしまった。そうでもしないと、まだ若い金宗主の周囲に、あらゆる意図を持つ世家の宗主たちがたかってくるのは江澄も承知している。
     江澄とて、藍曦臣と少し話したら、金凌の傍らに張り付いていようと思っていたのだ。
    「おや、沢蕪君は金宗主に御執心ですな」
    「まあ、そうですね」
     江澄は適当にあいずちを打ちつつ、栗の甘煮を口に運ぶ。
    「金宗主がお手から離れて、お寂しいご様子」
    「まあ、そうですね」
    「そろそろ、奥方などは」
    「はあ、まあ、そのうちに」
     ちらりと藍曦臣がこちらを見た。
     だが、それだけだ。
     にこやかな表情を変えることはなく、また、金宗主に話しかけにくる者に相対する。
    (つまらん)
     江澄は頃合いを見計らって外へ出た。客坊へ戻るわけでなく、ぶらぶらと夜の庭を見て歩く。
     どうせ藍氏の宴は亥の刻の前までだ。すぐに終わるし、終わった頃に客坊へ戻ればいい。
     空には星が瞬く。
     月はまだ山の向こうだ。
     江澄はそぞろ歩くうちに寒室の前に出た。
     前回ここに来たのはまだ夏だった。
     寒室の庭に立葵が揺れていたのを覚えている。
    「江澄!」
     突然、名を呼ばれて江澄は飛び上がった。何事かと振り返れば、腕をつかまれた。
    「藍渙……」
    「探しました」
    「え?」
    「急に姿が見えなくなるから」
     おかしなことを言う。江澄のほかにも客坊へと引き上げていく宗主はいたのに。
    「なにかあったか」
    「……いえ、もう、散会しましたので」
    「そうか」
    「あなたはどうしてこちらに」
    「なぜだろうな。歩いていたらいつのまにか」
     気がついたらここにいた。
     江澄はひとつの心当たりに自嘲した。こうやって会えることを期待したのかもしれない。
    「もう亥の刻だろう。戻らないと」
    「そうですね」
     しかし、藍曦臣は手を離さない。
    「どうかしたか」
    「いえ……、客坊まで送ります」
    「ひとりで戻れる。あなたは明日も早いだろう。早く休んだほうがいい」
    「江澄、私は」
     藍曦臣の手に力がこもった。久しぶりに感じる体温が、江澄は嬉しかった。
    「大丈夫だ、藍渙。あなたと話せてよかった」
     藍曦臣はいきなり険しい顔つきになると、強引に江澄の腕を引いた。
    「藍渙?」
    「こちらへ」
     江澄はあっけにとられたまま、引きずられるようにして戸の内へと入る。と、その次には藍曦臣の腕の中にいた。
    「藍渙!」
    「静かに」
    「いや、しかし」
    「会いたかった」
     あまりに切羽詰まった声だった。
     江澄は思わず口をつぐんだ。
    「あなたに会えず、気が狂うかと思った」
     ぎゅう、と腕が体をしめつける。
     同じくらい胸もしめつけられた。
     江澄は藍曦臣の背を、なるべくやさしく、とんとんとたたいた。
    「俺も、あなたに会いたかった」
     会いたかったし、会いたくなかった。どちらも本心だ。
     だが、今は片方だけでいいだろう。
    「江澄」
     少しだけ、体が離れる。
     江澄は目を閉じた。
     唇にやわらかな感触が触れた。
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    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
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    1437

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