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    arare_step

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    エラスレ(4号スレ)二人が魔女のファンタジ~風謎設定パロ
    設定詰めている途中なので細かいこと気にしない人向けです

    魔女の婿取り 街が騒がしい。鎧で走り回る兵士の足音が耳障りで、エランは眉をひそめた。
    「逃げたぞ、追え!」
     どうやら捕り物中らしいが、住民にとっては迷惑なだけだ。井戸で水を汲んでいると、同じように兵士を見ていた子供と目が合ったが、母親らしき人影が強く手を引いて逃げるように去っていく。その対応に何を感じることもなく、エランは背を向けた。
     この街で生きる魔女に向けられる感情は、ほとんど恐れと侮蔑のどちらかだ。今でこそエランは人並みの生活をしているが、それは呪いで縛られ、管理されているからであって、自由を許された訳ではない。
     人は異物を恐れる。エランたちを縛り上げているのもまた四人の魔女だというのに、枷をはめられた魔女を見てあからさまに安堵する住人たちは、捕らわれた側から見てもいっそ滑稽だった。


     保存食を取ろうと裏手にある納屋の戸に手を掛けた時、「ひっ」と中から声がした。
    「・・・・・・・・・」
     戸を開けるのを止めて、そろそろと重心を落とし半歩下がる。呪文を唱えるか迷った刹那、内側から何かが飛び出してエランに躍りかかった。地面でしたたかに背中を打ったが、起き上がろうとする前にその何かはこちらを組み敷こうとする。
    「だめ、エアリアル!すっすみません、大丈夫ですか!?」
     エランは驚いた。見たことのない使い魔だ――おそらくは、高位の精霊。白く光る人型の幻影が、自分の喉に指先をつきつけている。その背後から、主人らしき赤毛の少女がこわごわとこちらを覗きこんでいた。敵意に反応してエランの影に潜む烏がみじろぎしたが、彼は魔力で爪を出そうとしていたそれを抑えつける。
    「・・・・・・出てこなくていい、ファラクト」
    「あ・・・・・・あなたも、魔女なんですね?」
    「その子、しまわなくてもいいけど、取りあえず家の中に入ってくれる」
    「は、はい!エアリアル、私は大丈夫だから。戻ってきて」
     追われていたのが目の前の魔女だとして、先ほどの兵士に見つかると厄介だ。不服そうにエアリアルが指を引っ込めると、エランは少女の手を引いて素早く家の中に隠した。薄暗い屋内をきょろきょろと見回す彼女を裏口に待たせ、カーテンを全て閉めて回ってから魔法で互いの顔が見えるくらいの灯りをともす。
     顔を合わせて初めて、エランは少女の瞳が海のように青いことを知った。刺繍の施された白いローブは、この近辺では見慣れない仕立てだ。
    「君は、この街の人間じゃないよね」
    「そう、です。ちょっと、用事があって、街に入って・・・・・・そしたら、いきなり兵士の人たちが追いかけてきて」
    「どうしてこんなところに・・・・・・」
     首輪のついていない魔女が、この街をうろうろ歩くのは自殺行為に近い。四人の魔女は縄張りを荒らされるのを嫌う上に、珍しい物と見れば容赦なく実験体にするからだ。
    「・・・お父さんが、病気なんです。この街にならよく効く薬があるって聞いて、それで」
    「・・・・・・君の父親も、魔女?」
    「はい」
    「そう・・・・・・」
     男の魔女は世界的にも数が少ないと聞く。扱う薬や呪文、風習には少しずつ地域差があるが、少女の地元には適切な薬を作れる者がいないか、いても失伝してしまったのだろう。この街にはある理由で男の魔女が数十人は集められているため、薬を求めてやってくるのは妥当な理由ではある。
    「どんな薬かはわかるの?」
    「えっと、この本に・・・・・・」
     差し出された本は革張りの、随分と古いものだった。薬の名を記した文字はかすれて読みにくいが、この地域ではそれほど珍しい材料と製法ではない。
    「・・・・・・。これなら、僕でも作れるけど」
    「ほんとですか!」
    「静かに」
     ぱっと口を両手で押さえ、こくこくと頷いた少女は、しかし喜びを抑えきれない様子だった。父親のことがよほど好きなのだろう。
    「ああああの、私、スレッタっていいます。お代はお支払いするのでっ、お父さんに薬を、作ってもらえないでしょうか・・・!」
    「・・・・・・・・・・・・いいよ」
     長い沈黙は、エランの葛藤の表れだった。街の外から来た魔女に対し、興味が湧くのと並行して複雑な感情が胸の内で燻っていた。でも、病気の父親がいるなら、それはこの少女の帰りを待つ人間が少なくとも一人はいるということだ。――自分とは違って。
    「薬は作って届けさせるから、君は――」
     街の外に、と言いかけた時、少女の膝がかくんと崩れた。倒れ込みそうになった彼女を、エランは驚きつつも腕を出してとっさに支える。
    「すっ、すみませ・・・!ありがとうございま、す・・・・・・」
    「・・・・・・魔力が足りてないね。お腹空いてない?」
    「うっ」
     緊張が解けたためか、ぐう、と図ったようなタイミングで空腹を知らせる音がした。スレッタの頬がじわじわと赤く染まるのを見て、エランは手近な椅子を引き寄せ、彼女に座るよう促した。
    「少し待ってて」
    「・・・・・・すみません・・・・・・」


    「どうぞ」
     エランが出した食事は、パンと作り置きを温めたスープという質素なものだったが、おそるおそる口を付けたスレッタは次第に涙をこぼし始め、えぐえぐと泣きながらもよく食べた。聞けば、この三日間は何も食べていなかったらしい。本来はエランの昼食だが、もともと食に頓着しない彼はおかわりも彼女の好きにさせてやった。
    「ご、ごちそうさまでした・・・!」
     食器と鍋をすべて空にしてしまうと、ようやく落ち着いたスレッタは不思議そうにエランを見た。
    「あの・・・どうして、こんなに親切にしてくれるんですか?」
    「・・・・・・どうしてだろう。君に興味があるんだ。・・・・・・君のことを、もっと知りたい」
     外の魔女の生活を知りたいとか、四人の魔女の思惑通りになるのが気に入らないとか、付けようと思えば理由はいくつか思いつく。しかし、今のエランにはスレッタ自身に興味がある、としか答えようがなかった。

    (中略)

     屋根裏に即席の寝床をしつらえると、よほど疲労が溜まっていたのか、スレッタはすぐに寝入ってしまった。無防備な寝顔を眺めながら毛布をかけようとしていたエランは、ふと思い立って、白いローブの袖に手をかける。
     袖を肘までまくっても、スレッタの腕には痣ひとつ見当たらなかった。
    「・・・・・・・・・やっぱり、痕はない、か」
     父親が魔女だという時点でうすうす理解はしていた。自分とは違う、あの痛みを知らない天性の魔女だと。
     戦う力が、魔女の数が足りないがために、自分たちのような使い捨ての半端者が作られた。その経緯を考えると、とうに塞がったと思っていた古傷からやるせなさや憎らしさ、羨ましさが噴き出してくる。それでも、今まで交わした言葉と、美味しそうに自分の作った食事を食べる姿を思い出すと、今更突き放すことはできなかった。
     ――彼女の存在を密告すれば、どんな目に遭うかは想像するまでもない。でも、この子が酷い仕打ちを受けたところで、自分の運命が変わる訳ではない。エランはそのことをよく理解していた。


    (中略)

     がたん、と階下から音がして、スレッタは目を覚ました。
     今日は帰りが遅くなると、エランが言っていた。そのため早めに就寝したスレッタだったが、帰ってきたなら、おやすみなさいの挨拶くらいしてもいいだろうか――そう思った瞬間、さっきよりも大きい物音と何かが落ちて割れる音を聞き、スレッタは今度こそ跳ね起きた。
    「エランさん!?」
     転がるようにして一階に降りると、板張りの床に、スレッタの二の腕ほどもある黒い羽根が散乱していた。羽根は数を増やしながら居間の方へ点々と続いていて、その中心に、黒々とした大きな影がうずくまっている。
     床の上に長く伸びる影が翼なのだと気づいて、スレッタは息を呑んだ。さっき散らばっていたのと同じ、密度のある巨大な羽が、鎧のようにエランの身体を覆っているのだ。
    「見ないで、くれ・・・・・・」
     赤く光る紋様が、わずかに晒された白い肌の上でのたうっている。黒い羽に埋もれた顔は苦痛に歪んでいた。鳥の脚だった手足はわずかに人の姿を取り戻しつつあったが、再びもがき苦しみだしたエランを見ていられず、スレッタは飛び出した。
    「エランさん!」
     横倒しになって暴れる彼の翼に薙ぎ払われて、居間はひどい有様だ。エアリアルの先導で床に散らばった薬草や陶器の破片を避けながら、スレッタは慎重にエランの側へ近づいていった。
     彼の翼に手を掛けた途端にぶわりと羽が逆立ち、弱っているとは思えないほど強い視線で激しく睨まれる。
    「触らないで」
    「でも・・・・・・っ!」
    「これ以上、惨めにさせないでくれ・・・・・・!」
     血を吐くような叫びだった。彼の言葉が何を指すのか分からず、ただ放っておけない一心で、スレッタはエランの背中にしがみついた。振り解く力もなくしたのか、だらりと彼の腕が垂れていく。
    「エランさん!?」
     慌てて抱き起こすと、彼は目を閉じたまま肩で息をしていた。
    「死にはしない、から・・・・・・、放っておいて・・・・・・」
    「そんなこと言われても」
     どう考えてもただごとではない。病気には見えないし、羽と肌の紋様は呪いの類に見える。
     スレッタとて魔女だ。一通りの薬は作れるつもりだが、複雑な解呪だけはまだ不得手だった。故郷ではエアリアルを使った召喚や救助作業が多く、もう少ししたら姉と一緒に、母の先生から学ぶ手はずになっていた。少しでも予習しておかなかった自分を、スレッタは心の底から責めた。
     苦しんでいるのはエランであって、自分が泣いている場合じゃない。でも、もしも自分が助けになれないせいで彼が死んでしまったらと思うと、スレッタは涙が溢れてくるのを止められなかった。
     ほたほたとスレッタの涙がエランの頬に落ち、彼がうっすらと目を開ける。
    「・・・・・・どうして、君が泣くの」
    「エランさんが苦しんでるのに、私・・・何もできなくて・・・・・・」
    「僕が苦しむと、君はつらいの」
    「当たり前じゃないですか!・・・あなたのこと、もっと教えてください」
     あなたをもっと知りたい。あなたの苦しみをわかりたい。互いの鼻が触れあうほどの至近距離で、泣き濡れた青い瞳が強く訴えかけてくる。頬に伸ばされた手は、さっきまで鬱陶しくて仕方なかったのに、今は不思議と温かく感じられた。虫食いだらけの記憶の中で、これほど近づいたのも、心を傾けてくれる存在も、彼女が初めてだった。
    「君は・・・・・・」
     エランのまとう空気がやわらいだその時、スレッタの背後から見守っていたエアリアルが手を伸ばして、エランに触れた。
    「エアリアル?」
    「う、ぐっ・・・・・・!」
     エアリアルが触れた場所を中心に、エランの肌を蝕む紋様が青く光り、さざ波が広がるように少しずつ消えていく。紋様が消えるのに合わせて、逆立っていた羽がするすると畳まれ、白くなめらかな人間の皮膚へと戻っていった。
    「な、何をしたのエアリアル!?エランさん、大丈夫ですか?」
    「――――痛みが・・・・・・消えた?」
     呆然と呟いたエランの側に、いつのまにか一羽のワタリガラスが寄り添っている。
    「ファラクト?」
     エランが手を伸ばすと、カラスは労るように嘴を擦り付け、ギャア、と一声鳴いて影に溶けた。
    「・・・・・・あの子、エランさんに謝りたいみたいでしたね」
    「・・・・・・そう、なのかな」
     ファラクトにとっても、あれは望まない痛みだったのだろうか。エランはそこまで考えたことはなかったが、四人の魔女に喚び出され、影に押し込められた彼もまた、ペイルの被害者なのかもしれない。
     そして、あんな姿を見られた以上は、巻き込んでしまった彼女にも、もう隠せはしないだろう。
    「スレッタ。・・・・・・さっきは、ごめんね」
    「私は、大丈夫です。でも・・・・・・エランさんは、どうしてあんな」
    「僕は、魔女としては紛い物だから」
     本来の血を抜き、代わりに魔女の血を入れて人為的に魔法を使う素養を高めた人間。それがエランたち人造魔女だ。全身の血を入れ替える術は激痛を伴ったし、儀式の影響で顔や骨格、声さえも血の持ち主そっくりに変わってしまった。
     歪な存在である自分たちは、定期的に調整のため呼び出される。調整のたびに魔力は上がっているというが、足された血への拒絶反応と暴れるファラクトを抑え込むのは消耗が激しく、耐えきれない者は死んでしまう。
     事実、調整が進むごとに街にいる同類が数を減らしているのを、エランは知っていた。経験上、今回の調整で死なない自信はあったが、ここまで酷い発作は久しぶりだった。

    (中略)


    「エランさんも、行きましょう?」
    「僕は・・・・・・この先には行けない」
     首にかけられたまじないがちりちりと熱を持つ。警告だ。スレッタと一緒にこの街を出てしまえば、自由と引き換えにエランは死ぬ。それも悪くはないけれど。・・・・・・できることなら、彼女の思い出には綺麗なままで残りたかった。
    「あの!・・・・・・また、会えますか?」
    「・・・・・・わからない。さあ、行って」
     何度も何度も振り返りながら、白いローブの背中が遠ざかっていく。ぱたぱたと駆ける足音が聞こえなくなるまで見送り、エランは今度こそ少女に別れを告げた。
    「さようなら、スレッタ・マーキュリー」

     地下道の入り口まで戻ると、自分と同じ顔が二つ待ち構えていた。
    「ばーさん共が呼んでるぞ。四号」
    「・・・・・・あなたがいるのは珍しいね」
     不遜な顔つきで路地に佇んでいるのは、オリジナルのエラン・ケレスだ。貧血気味であまり表に出てこない彼は、気まぐれに血を与えた相手である自分たちを構いたがる。
    「あんなことをして、バレないとでも思ったの?」
     人畜無害そうな顔をして、嘲るような言葉を吐くのは・・・・・・おそらく五号だ。多分。
    「まさか」
     薬の材料を調達した時点で、上層部に報告が行くことは予想していた。再調整か、懲罰か、どちらにせよ何かろくでもない処分が待っているだろう。腕を掴もうとする五号の手を軽く振り払い、エランは歩き出した。
    「おい、どこ行くんだ」
    「本社。逃げたりしないよ」
     挟むようにして二人のエランが追ってくるが、彼の足取りにもう迷いはなかった。


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    arare_step

    TRAININGワンライお題「I am」
    クワゼロ成就後の謎空間4ス。13話後~15話前に書きました。
    人を選びまくる内容ですし見ようによっては死ネタですが一応死ネタではないつもりでいる。
    クワゼロに個人への介入とか個の消失とか精神干渉が含まれるなら、4君はまたしてもバチクソに怒りそうだな~という解釈の下に、スレッタの敗北について考えながら書きました。
    自らの由を問う 昏い水の底から、ゆるやかに浮上していくような感覚があった。瞼の裏に光を感じて、エランはゆるゆると目を開けた。
    「エランさん!目が覚めましたか?」
     目を開けると、ノイズの走る満天の星空を背景に、黒いドレスを纏ったスレッタ・マーキュリーが、手をついて覆いかぶさるようにこちらを見下ろしていた。
    「スレッ、タ?」
     驚いて声を出そうとすると、体が鉛のように重かった。喉の渇きに咳き込むと、スレッタの腕が背中に差し込まれ、上体を抱き起こされる。何を、と問う暇もなく、顔が近づいてきて唇が重なった。
    「…!」
     エランは反射的に彼女を押し返そうとしたが、抗おうとしても腕一本動かせない現状に、しばらくして抵抗をあきらめた。エランが体の力を抜いて主導権を委ねると、スレッタは満足げに微笑んで、口に含んでいた水らしきものを彼に移し与えた。
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