昏い水の底から、ゆるやかに浮上していくような感覚があった。瞼の裏に光を感じて、エランはゆるゆると目を開けた。
「エランさん!目が覚めましたか?」
目を開けると、ノイズの走る満天の星空を背景に、黒いドレスを纏ったスレッタ・マーキュリーが、手をついて覆いかぶさるようにこちらを見下ろしていた。
「スレッ、タ?」
驚いて声を出そうとすると、体が鉛のように重かった。喉の渇きに咳き込むと、スレッタの腕が背中に差し込まれ、上体を抱き起こされる。何を、と問う暇もなく、顔が近づいてきて唇が重なった。
「…!」
エランは反射的に彼女を押し返そうとしたが、抗おうとしても腕一本動かせない現状に、しばらくして抵抗をあきらめた。エランが体の力を抜いて主導権を委ねると、スレッタは満足げに微笑んで、口に含んでいた水らしきものを彼に移し与えた。
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