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    wave_sumi

    いろいろなげすてる。最近の推しはなんかそういったかんじ
    性癖が特殊。性転換が性癖

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    wave_sumi

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    閑静な住宅街にあった仏具店の次は、繁華街に店を構える和菓子屋である。盆前の平日、街中は上着を脱いだサラリーマンでごった返していた。時計を見れば間もなく十一時。殺人的な暑さが本格化を始めた。紙袋を握る手が汗ばんでくる。この暑いのに、玄弥はTシャツの上にカーディガンを羽織っている。暑くないのだろうか。
    「玄弥、昼にしよう。混む前に済ませたい」「わかった」
     特に打ち合わせもせず、テスト帰りのときに利用する定食屋へと赴く。それなりの量でワンコイン。中学生にはありがたい定食屋は、繁華街と住宅街の境目にある。すたすたと早足で歩くカナヲに、巨体で黒づくめの玄弥がついてくる。はたから見ればアンバランスな二人なのだが、当人たちは何も気にしていなかった。
     定食屋の席はまばらだ。先に食券を買って席に着く。カナヲは唐揚げ定食、玄弥は肉野菜炒め定食。どちらもご飯は大盛で。食券の半分をカウンターに置き、それぞれ番号札を取る。ついでにセルフサービスの水もとって(今の時期、水ではなく麦茶だった)二人は席に着いた。
    「あっち……」
     衿元をくつろげて空気を入れる。仏具店の紙袋が、かさりと鳴った。向かい合わせに座った席で、机上にスマートフォンを出す。ポケットの奥から、昨日洗面所で見つけた円状のフィルムが椅子の上に落ちた。カナヲの掌より一回り小さかった程度のそれは、乾燥して4センチ程度の大きさに縮まっている。両側から本で押せば、きれいな円状に整った。
     隠す必要もないと思い、カナヲはそれをテーブルの上に置く。
     スマートフォンを確認し、どこかから連絡が来ていないか、お使いの変更はないかのメッセージを確認する。着信なし。このままミッションを遂行する。
    「栗花落、それ何だ」「家で拾った」「見ていいか」「好きにしてくれ」
     玄弥がごつごつとした指先で円状のフィルムをつまむ。陽に透かしたり、回したり、一通り検分して、カナヲにそれを返した。
    「あ……あー、玄弥、水ん中に人がいることって、あるか」
    「そりゃ、あるだろ。水泳選手とか」
     カナヲの脳裏に、月夜が浮かぶ。
    「や、違う、ちがうんだ」「歯切れ悪ィな」
     テンポの良い玄弥の返し。麦茶の氷がカラリと鳴る。
    「お待たせしました、カラアゲと……、肉野菜です!」
     いっぱい食べてね! と笑顔で伝えた女店主に、ぺこりと礼をする。
     二人は備え付けの割りばしをぱきりと割って、手をあわせた。いただきます。
    「深夜一時に、魚もいる池に水泳選手はいないだろ」「……はァ? だいぶ非常識な時間だな」
     マヨネーズににんにく醤油を混ぜて、からあげにつける。遠慮なくマヨネーズをたっぷりつけて、カナヲはからあげにかぶりついた。じわりとあふれる熱い肉汁が、味覚を刺激する。あつい。美味しい唐揚げという食べ物を、カナヲはここで知った。
    『からあげは、アツアツにかぶりつくのが一番よ! マヨネーズをたっぷりつけてかぶりついたりすると、そりゃあもう最高なんだから!!』
     うっとりとしながら、カナヲにそうアドバイスした不思議な髪色の女店主は、せこせこと働いている。これからのランチタイム、負担を少しでも軽減するため、仕込みに余念がない。
     かみ切った鶏肉の断面から、肉のうまみと少しの醤油、それにしょうがとにんにくの味。ほどよい弾力で噛み切れるこの肉質は、見事なものだと思う。それに、マヨネーズのまろやかさと、カリカリの皮、それから、衣にすこし染みたニンニク醤油の風味が食欲をそそる。食べた傍からお腹がすく。不思議な食べ物だと、いつも思う。
     美味しいものを食べ始めると、人は無言になる。二人でもしゃもしゃと定食を平らげ、白飯を食べた。カナヲはテーブルのマヨネーズをほぼ使い切り、玄弥は一味を割と使った。
     水を飲み干した後、周囲を見渡せばスーツ姿のサラリーマンが増えている。
    「それ、何なんだ?」
     水を飲み干した玄弥が、カナヲの荷物を指す。
    「ああ。白ちょうちん三つと、松の木と、抹香。いつもの盆セットだよ」
     玄弥の瞳が細くなる。何を驚くのだろうか。
    「毎年、同じの・・・用意してんの?」「普通じゃないのか」
     カナヲが立ち上がって荷物を持ち直す。スマートフォンとフィルムはすでに仕舞ってあった。玄弥もあわてて後に続く。
    「ごちそうさまでした」「ごちそうさま」
     桜もちのような店主の女性に挨拶をして、二人は店を出た。
    「はーい! また来てね!」
     にこにこと二人を見送った女性が、二人の跡を片付ける。食器を下げて、テーブルを拭いて。テーブルの上に、何かきらりとしたものが残っていた。
    「……?」
     小さなフィルムのかけら。ぽつぽつと黒点がついている。
    「……とみおか、さん?」
     無意識から出た言葉は何だったのか。わからないまま、女性は片付けをした。次の客はすぐに入ってくる。そんなに時間をかけていられない。
    「いらっしゃいませ!」
     これから魔の二時間だ。頬を叩いて気合を入れなおす。店主・甘露寺は大きな声で客を迎えた。
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